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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第二章【ヘヴン編】
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七十一話【治癒能力】

 響き渡る声に驚きはしたが、別に気にする事はない。


 というか、ある程度冷静に考えれば推測はつく。


(この声、世界剣(ディーヴァ)の声とは異なる。誰に向けてかは知らないけど、アルトという名称を指しての台詞……つまり)


 推測の結果、辿り着いた答えに問いを投げつける。


「ねぇマストル、僕ってそんなに聞き分け悪い?」


「……あ、え?いやぁ……悪くは無いけど……」


(嘘つきの時の顔……間違えない)


 先程聞こえた謎の声は、マストルの声で決定だ。しかも、表面上で口にした言葉ではなく、心の中で発した言葉だ。


(……心の声が聞こえた。つまり)


 僕は、マストルの心の声を聞き取ったということになる。


「ふっふっふ……」


「なんだよイキナリ……気持ち悪いな」


 気持ち悪がれるのも当然だ。と言うより、今到達した事実には、僕が一番驚いている。


 心の声を聞き取った?バカ言ってる場合じゃない。こんな時に限ってバカが発動するとは予想外だ。


 時と場合すら選べない自分には、少しばかり呆れてしまう。


「……なぁ、走りながら笑うのやめないか?揺れるからこっちが気分悪くなるんだが……」


 それはそうだ。なんたって、今マストルがいる場所は僕の背中。僕が笑って振動を起こせば、その振動は小刻みにマストルへと伝わっていく。


「ふっふっ……ごめん」


 呼吸と整え、とりあえず謝っておく。


「いやいいんだけどさ?さすがに俺下ろしてもよくないか?距離はもうないだろ」


 確かに距離はない。と言うより、もう着きそうだから下ろさなかったという話なのだが。


「別にいいけど、あと五秒もないぞ?」


「はぁ!?それを早く言えって───」


「はい。到着───」


「歌絲さぁぁあああああん!」


「「ゴフッ!」」


 マストルの言葉を遮ろうと、到着の合図をしようとした瞬間。僕たちを超える速度で何かがみぞおちに突っ込んできた。


 その勢いにより僕たちは吹っ飛ばされる。後ろに控えていた大樹を5本ほど突き破り、その勢いは静まった。


「う……ぐぇええ……」


 ぶつかった場所が焼けるように痛い。絶対骨は逝ってる。それどころか、心臓も逝かれてる気がしなくもない。


「……痛い……し……ぬ」


「歌絲さぁん!大丈夫ッスか!?」


「あぁ……マキか……大丈夫…だよ」


「大丈夫じゃないッスよ!」


 分かっているのならば言わなくてもいいのに、と思いつつ吐血する。この重体では、意識が持つ状態が数秒続くかすら怪しい。


「マキ……今ぶつかって…きたの……誰?」


「……」


「あ……そうか」


 この沈黙、間違えない。先程ぶつかってきた何かの正体はマキだ。


 都合の悪いことになると、すぐ黙り込む癖も変わっていない。


「ごめんなさいッス……少し気が早っちゃったみたいッス」


「あぁ……大丈夫だよ。気落ちすることはない……」


 今にも閉じてしまいそうな瞼を必死で起こす。死の間際にして、ここまで踏みとどまれるとは自分でも予想外だ。


「本当にごめんなさいッス……でも安心してくださいッス。その傷は私が治すッス」


「……気持ちは有難いけど、この傷は簡単に治るものじゃない……僕も…もう……」


「大丈夫ッス。世界剣(ディーヴァ)さんがこれを治せるって言ってますから」


(世界剣(ディーヴァ)が……?)


 世界剣(ディーヴァ)といえば、圧倒的な力で玄武型(ケレース)を全滅させたあの最強さんだ。


 その剣が剣の状態でも言葉を発するのか?という疑問はさて置き、治癒能力も備えているというのだ。本剣が言うなら疑いはしないが、少しばかり驚いている。


「ほんとう……なの?」


「はい……ていうかもう治ってますし」


「……う?え……あ、ホントだ」


瀕死の重体はいつの間にか消えていた。というより、先程からなかったかのような感触へと変化していた。


「はぁ……良かったぁ。これで殺してしまってたら、私も死ぬしかなかったッス」


「いや別にマキが死ぬことはないよ……というか、これどうやったの?」


「私にも分からないッス。全部世界剣(ディーヴァ)さんに任せましたから……」


 ───告、先の獣の死骸を基とし、世界剣(ディーヴァ)自身の系列神化を行いました───


 淡々と告げる言葉から察するに、この治癒能力も”系列神化”によるものなのだろう。


(神化ってことは……ドウイウコト?)


 系列神化については考えても分からなかったので、考えるのはやめておいた。というより、触れていい問題ではないのだろう。


(まぁ……死ぬよりマシだし……感謝はしないとね)


世界剣(ディーヴァ)さん、ありがとうございます」


 ───是、これは本剣の力ではなく、主にあたるマキの力です───


 それだけ言って、世界剣(ディーヴァ)は喋らなくなった。これも察するに、感謝なら私じゃなくてマキにしろって事なのだろう。


(全く……最後まで隙もない最強さんだね)


 世界剣(ディーヴァ)の意に従うのが賢明だと思ったので、とりあえずマキに「ありがとう。マキのおかげで助かったよ」と伝えておいた。


 マキは突然顔を赤くすると、その場に倒れてしまった。


「……だ、大丈夫?」


「この世に一寸の未練なし……ッス……」


 今の言葉にどんな意味が込められているのかは分からないが、顔は幸せそうなので抱き抱えて帰ることにした。


 歩いている途中何か忘れている気がしたが……どうでも良いかとそのまま家を目指した。


(なんだっけ……?前にも同じような事があったような……なかったような……?)

読んでいただき、ありがとうございます。

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