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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第二章【ヘヴン編】
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六十九話【移動中】

踏み込んだ右足が、大きく前進する。


と共に同速で動き出す体は、衝撃波を放ちながら森を直線で進んでいく。


(手荒なマネは好きじゃないけど、言ってる場合じゃないし……ごめんね)


元来、四方角に広がる森は神聖と異形の集う場所として扱われている。無闇に通ったりしていい場所ではない。


そんな言い伝えのせいで、森に囲まれた僕たちの村は物資の調達に苦労した。あの時は気にしてもいなかったが、本当に不便な場所だった。


しかし、エネットから聞いた話では、そんな言い伝えは迷信に過ぎないとのことだ。聞いた時は驚きながらも、それを信じていた自分に呆れたものだ。


そんな思い出を脳内再生しながら、とりあえず謝っておいた。一応、ここも自然の一部なので、これは一種の環境破壊とも取れる。


「歌絲さぁーん!大丈夫なんですか!?」


「あ、え?マキ?感性会話(ディレクト)は切っていいって言ったんだけど……」


何事かと思えば、マキの感性会話(ディレクト)からの通信だった。

こんな時に応答を要請してくるということは、言われることは決まっている。


「ずっと待ってたら、なんか怖くて……だって!あの会話からもう一分も経ってるんスよ!?着いてもいい頃ッスよね!?」


(……はぁ、今回も予想的中……か)


マキは、あらゆる物事を自分のスパンで考えて話してくるので、僕とでは全く話が噛み合わないことがある。


特に、修行や競走などに置いては、それの影響が十二分に感じられる。


今だって、300kmを走り始めて一分で、「まだ着かないの!?」みたいな、着いてて当然だろ感溢れ出す台詞を吐き散らしてくる。勿論無意識で、だ。だからこそマキらしいと言える。


(てか300kmを一分以内で走るって……)


常識では考えられない速度だ。なんたって、音速なんて比ではないほどの速度なのだから。


しかし、マキなら考えられなくもない。


「それで!あと何秒くらいで着くんスか!?もう心配で心配で……」


「分かった、分かったから心配しないでくれ。ホントに、本当にお願い」


これ以上マキの話を聞いてきたら、こちらの身がもたない。今ですら、情けなさと屈辱で爆発してしまいそうなのに。


(天然バカはこれだから……うぅ……)


天然バカはという言葉で、マキのおバカ発言は全て片付けられる。エネットが教えてくれた魔法の言葉だ。

とか言っていたけど、実際何の役にも立たない。その場しのぎにすらならない。


「そうッスか……じゃあ、切るッス。ちなみにあと何秒くら──」


「はい。また後でね」


そう言って、こっち側から勝手に会話を切った。マキの感性会話(ディレクト)は、エネットとは違って不完全なので、コツさえ掴めばこちらから切断できる。


(あの修行が役にたった数少ない場面だ……)


涙無しでは語れないあの修行を思い出しながら足を進める。


走り始めて二分が経過したが、マキからの感性会話(ディレクト)は掛かってこなかった。先程、こちらから勝手に切断したことがそんなにショックだったのだろうか。少し残念だ。


(……もし掛かってきてたら、冗談の一つでも言って、気分転換でもしようかと思っていたんだけどなぁ……)


そんな茶番を連想していた時、背中に抱えていたマストルの体が、モゾモゾと動き出した。


「ぅうう?ここは……何処だ?」


「お、マストル、気がついたのか」


「……アルトか。すまん、少し状況が理解出来んのだが」


「大丈夫、分からなくていいから」


「いや、そういう訳にもいかんだろ」


どうせ、何をする訳でもないので、そのままにしておいた方が都合がよい。


「いいよ。どうせ、森を出たら問い詰めるつもりだったから。その時のための余力でも残しといてくれ。またさっきみたいになったら大変だからね」


「大丈夫だ!そこんとこは承知してる!」


(……とか言って、実際にやってみるとあーなるんだよなぁ)


マストルの言うことには説得力というものが存在しない。いつも自信過剰だ。その自信はどこから出てくるのかと、いつも頭を悩ませている。少し羨ましいとも思ったりする。


「……納得してねぇだろ。なんなら、ここで話してやってもいいんだぜ?姉御の前で話したら、何かと言われそうだしさ」


「いいのか?怒られても責任は取れないよ?」


「バレなきゃいいんだよ」


「……マストルらしいね」



「どーゆー意味だよ」


走りながらで話してもらえるのは、想像以上に有難いことだ。時間は限られているが、あと一分くらいは話が聞ける。


「あと一分くらいで着くから、簡単に話してくれ」


「了解だ。まずは、五幻角(ウルティマ)のところからだな」

読んでいただき、ありがとうございます。

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