六十四話【懐かしい雰囲気】
長めに書くと言いましたが、案外普通の文字数です。
白昼堂々現れたマキは、僕の傍に駆け寄りポーズをとる。毎回思っているが、ポーズする必要はあるのだろうか。
「よかったぁ……ホント、死ぬかと思ったよ」
「それはこっちの台詞ッスよ。あんなに動いてたのに、いきなりここで倒れたんスから」
確かに、五幻角を怯ませるほどの威力を込めた異形質を使ったのに、こんな見え見えな場所に横たわっているのだ。獲物として見られても何も言えない。
「というか、僕が倒れてるとこ見てたんだったら、ここから僕を隠すくらいはして欲しかったな」
「……え、いやそれは、歌絲さん自身が拒否してたんスけど……」
「え?どういう事?」
僕自身が、身を隠すことを拒否した?それはどういう事だろうか。僕はそんな事あった覚えはない。
(けど、マキが嘘を言っているようにも思えない。あの顔は、何か隠している時の顔だ)
マキが体を小刻みに動かし、手を後ろに組んでいる時は、何かを隠している証拠だ。
思っていることが、すぐに行動や顔に出るマキを読むのは容易だ。しかし、それは同時に、変なことなまで無差別に読み取れてしまうため、読み取った本人が傷つくこともある。
しかし、今はそういう状況とは違う。深刻な雰囲気が流れている。
「……マキ、なんか隠してる?」
「……そ、そ、そんな事ないっスよ!やだなぁ歌絲さんってば、縁起でもない事を……」
「縁起でも……ない?」
はっ!としたマキの表情を見ると、ますます何か怪しい。言えない事情があったとして、果たしてここまでして隠そうとするだろうか。
マキは、僕が頼めば大体の隠し事もすぐ暴露してしまう。エネットが秘密にしていた実験の概要、条件付き修行の全貌、国家重要緊密級の本の在り処等々、他にも教えてくれた事は数え切れない。
なのに、何故ここでの事実を隠すのだろうか。これまで以上に、重要なことがあったとは考えにくいのだ。
(もしかして……エネットさんの事か?いや、マストルからそれは聞いたし、有り得ないはずだ。だとしたら……?)
考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだった。
「あの〜歌絲さん?お悩み中申し訳ないんスけど、そろそろここをでないと危ないんですよね」
「……それ本当?」
「本当ッス……」
「本当だぞぉおおおお!!」
後ろから遅れて出てきたマストルが、大声で叫んでくる。相変わらず暑苦しいやつだ。
「遅かったじゃないか。マキなんて、数分前には着いてたよ」
「姉御と同じにするなよ。それより、お前姉御のお陰で助かったんだから、土下座の一つくらいしないのか?」
「は?姉御ってだれ──」
「マストルさんっ!ここでその呼び方はやめくてださいって言ったッスよね!?」
「だって〜、姉御にあの一撃を受けてから、何と言うか、そう呼びたくなったんですよ〜」
(なんだ?このアホらしい状況は)
先程まで、マキやエネットに対して暴言を吐き散らしていたはずのマストルが、今度はマキのことを”姉御”と呼んでいた。
気絶している間に何があったのだろうか、少し気になってきた。
(それにしても……メイ様やらマキやらと、マストルは強者に媚びる癖をどうにかした方がいいな)
媚びるという言い方は少し過剰だが、実際やっていることがそれに近いのだ。
本とかにたまに登場する、「俺は常に、強い者の味方だ!」とかの類なのだろう。見ていて恥ずかしい。
「これから一生ついて行きます!姉御!」
「やめろって言ったッスよね?」
「ひぃっ!でもその冷酷な瞳も最高!」
「……キモイっス」
エネットを崇み讃えているマキに引かれては、それこそ終わりだ。
(やってることは本質的に、マキも変わらないんだけどね)
二人のやり取り見て、そう呆れていた。すると、先程マキがぶっ飛ばした玄武型が、起き上がってきた。
怒っているのだろうか(当然か)、その体の周りに、オーラのようなものが見えるような気がする。歯ぎしりも、相当なものになっていた。
「マキ……アレ倒したんじゃないの?」
「無益な殺傷はしたくないッスから、とりあえず死にかけまでに抑えたんすけど……抑えすぎましたね」
(……マキらしい……まぁいいんだけど)
こんな温情深い(?)性格は、昔から全然変わっていない。変なところで発揮するので、正直、邪魔な感じはある。
「邪魔だったら、今すぐにでも殺れますが、どうするッスか?」
「無益な殺傷は?」
「歌絲さんの願いとあらば、どうでもいいッス」
「……」
心の中でドン引きしつつも、信頼はされていると安心した。いや、安心してはいけないが。
しかし、決断しなければこちらが殺られるだけだ。僕も無益な殺傷は心が痛むが、やむを得ない。
「じゃあ、三人でさっさとやろう。時間も迫ってるし、早めにね」
「オッケーッス!マストルさん、頑張るッスよ!」
「ラジャー!姉御さんの頼みとあらば!」
「だ〜か〜ら〜、その呼び方辞めるっスよ!」
騒がしい雰囲気が戻ってきたが、これこそが、本来のあるべき僕たちの姿なのかもしれない。
まだ未熟な体を握りしめ、玄武型を睨みつけた。
読んでいただき、ありがとうございます。
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