六十二話【危機脱出?】
この黒い糸を出した時にもあった、あの”思い”。思うことによって危機的状況での突発的な必要性を元に、”何か”によってそれに見合った力が得られる、という考え。
完全な憶測だったが、今考えてみれば、今回がそれに該当する状況である。
異形質は発動できず、落ちたら怪我を間逃れないこの状況、黒い糸の時と同じ場合だが、程度が違う。
黒い糸も、現状況発動していい頃だが、全く出る気配すらない。これは、新たな何かが必要だ。
(頼む……なんでもいいんだ。僕たちを助けてくれ……)
必死に心の中で願った。願いが、そのトリガーになるのかは分からない。しかし、今は願うことしか出来ない。
あまりにも無力だ。
しかし、いくら願っても、力は発現せず、ただ落ち続ける時間が過ぎていく。
憶測が間違っていたのか、あの時と、全く同じ状況であるのは変わらないはずなのに。
「おいアルト!もう地上に着くまで時間がねぇぞ!」
マストルの声を聞き下をみると、もう地上がすぐそこにある。もう間に合わないと確信した。
(せめての事、マストルだけでも……!)
僕がどうなっても、せめての事、マストルが助かればそれでいい。友だけは、何があっても死なせない。
その意思と共に、体勢を変える。下敷きでも、なんでもいいから、何としてでも助ける。
(もう少し……下に!)
マストルの下に入り、受け身の体勢を取った。
──ズキッ──
その瞬間、意識を苛むような刺激が、僕を襲った。
突然だった。意識外のその間に何があったのか、僕には分からない。しかし、何となく、本能で感じていた。
*
「面白いね。操っていたとはいえ、あそこまで頑張ってくれるとは想像以上だよ。マストルって子も中々だけど、あの子の仕上がりは目を貼るものがあるね。それに───」
空より現れた影は、意識を失った僕の姿を見て、何か考える仕草をしながら笑う。
「あの姿は、異形なんてものじゃない。暴走、あるいは本能の力なのかもしれないね。ねぇ……君はどう思う?」
影が問いかけると、空間から現れたもう一つの人影が、面倒くさそうに言い返す。
「……貴方様が分からないことを私に言われても、分からないわよ。あの二人は、色んな意味では共通点があると思うし」
「ははは!いやいや、揶揄っただけだよ。でも、あの二人を間近で見てきたのは君だろう?」
「……まぁそうだけど……」
「それなら尚更だ。このまま、二人で監視でもしないかい?いい暇つぶしになるかもよ?」
影は、人影に向かって笑いかけるように問う。しかし、その問いには、表情通りの感情は含まれていなかった。
「……分かりましたよ。主の命令は絶対ですらね……」
「それでいいのだよ。じゃあ、行くよ。あの子も、行動しそうだしね」
影がそう言うと、人影もそれにつれ、空へと姿を消した。
*
「───うっ……痛てて」
ふと、目が覚めた。頭に残る僅かな痛みと、体に残る疲労感は、今も尚、効力を失っていない。
重い体を起こそうとしたが、指先の一つすら微動だにしない。
(燃料切れとかの問題じゃなさそうだ)
落ち着いて周りを見渡しても、視界に広がるのは……何もない。
森に連立しているはずの木々も、雑草の一つすら見当たらない。という事は、あの五幻角が踏み込んだ場所に落ちたのだろうか。なら、骨折くらいはしているだろう。
しかし、このままじっとしている訳にも行かない。五幻角の姿がないのは幸いだったが、ほかの異形獣の存在も侮れない。
仮にも、ここは結界外の世界だ。内部の20mや30mの異形獣とは訳が違う。
(はぁ……どうしよ)
何度も何度も力を入れようとしたが、状態は一向に変わらない。むしろ、悪化しているかもしれない。
「GAAAAAAAAAA!!!」
そうこう考えていると、後方から異形獣の叫びが聞こえる。最悪のタイミングで遭遇したものだ。
(それもそうか。こんな平面の真ん中で突っ立ってるんだもんな)
姿を現した異形獣は、200m級の玄武型。エネットが倒した玄武型より、圧倒的に大きい。
全開状態でも倒せるか怪しいのに、この状態なら尚更だ無理だ。
僕の姿を認識した玄武型は、僕を踏み潰そうと、容赦なく襲いかかってくる。
近づいてくるその姿を見て、悲惨な自ら未来を想像した。
(……骨折どころじゃないな。死ぬね、これは)
覚悟を決め、受け身も取れない体を晒した。
読んでいただき、ありがとうございます。
作品が面白いと感じたら、ブックマーク登録、☆を5押していただけると嬉しいです。




