六十一話【落下】
(威力重視……バランス度外視の超攻撃調整……!これなら行ける!)
腰に下げていた剣を、天に掲げる。そこに、全身の集中を呼び起こし、異形の力を集結させる。
各部位を内包していた黒い紋章は、一気に右手と、そこに所持されていた剣に集まる。異形を纏った長剣は、反射していた太陽の光を呑み込み、黒剣へと染まっていく。
それと同様に、マストルも力を放つ準備をしている。その雰囲気から威力の絶大さが伺える。これなら、もしかすれば、あるかもしれない。
「おっしゃ!行くぞぉぉお!」
「あぁ、これで終わらせる!」
マストルの合図と共に、振りかぶった剣を、五幻角に向かって思いっきり振り落とす。
同時に、マストルもその拳を、五幻角の体へと飛ばす。
「オラァァァアアア!!」
「やぁあぁぁぁぁ!!」
刹那、爽快な切断音と、怒号の如き打撃音が森中に響き渡った。
「ヴァァアアアァアアア!?」
命中だ。しかも、マストルの攻撃が核に直撃。倒しきれていないとしても、これなら致命傷程度にはなったはずだ。
激しい奇声と共に、巨体が地へと落ちていくのが見える。そして、それと共に、僕たちも自由落下していく。
(ふぅ……まずいな。体が動かないや)
着地のため、体を動かそうとしたが、力を使いすぎてしまった反動なのか、身動き一つ取れない。現在地は、上空約300m。そのまま落ちたら、怪我は間逃れない。
そして不幸な事に、異形質も燃料切れのようだ。これでは、着地手段がない。
(マストルは……あぁ)
ほぼ諦め気味で、 並行して落ちていくマストルを見たが、予想通り気絶している。こちらも、力の使いすぎによる反動だろう。
(……どうしよう)
先程まで、全く死ぬ気すらしないほど、気持ちは高ぶっていた。しかし、一撃を放った後から、何故かその昂りが失せてしまった。(失せて欲しかったが)
そのせいか、脱力感も、疲労感も堪らなく感じる。今すぐにでも、王宮のベットに寝落ちてしまいたい。
そんな悪魔の囁きが脳をよぎったが、現実を見れば、それどころではない。早急に何とかせねばならない。
「マストル!マストル!起きろ!」
落下の体勢を利用して、マストルに近づき、頭に一発くらわせた。これが、体内に残っている最後のエネルギーとなるだろう。
「はッ!ここは!?」
僕のゲンコツにより、意識を取り戻したマストルは、相変わらず状況を理解出来ていない。
「空だよ、空」
「……空?……空!?」
現状の問題にようやく気づいたようだが、もう遅い。
「おいおいおい!これ大丈夫なのか!?」
「そんなわけないでしょ。落ちたら大変だよ」
「お前がやけに冷静だから、あんま高いとこにいないと思ったんだよ!」
確かに、今の僕は死の危険に直面しているにも関わらず、至って冷静だ。怖くもなければ、恐れもない。
理由は分からないが、そう思えないのだ。心が、それを抱くことを否定しているのかもしれない。
(いや、今はそんな事どうだっていい。何かしら策は……)
無策に悩んでいたその時、ふと、あの時の考えが頭に浮かんだ。
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