六十話【一撃に賭ける】
「ヴォォォオオオオオオ!!!」
ぼくたちが僕たちが生き残っている事を感知したのか、もう一度雄叫びをあげる。
先程から力を使っていたので、正直、立っているだけでしんどい。
「やべぇ……吹き飛ばされそう…だ!」
「耐えろ、マストル!空中に浮いたら、コイツの餌食だ!」
五幻角は、地を制す破壊者とも呼ばれているが、空中でも、その驚異は侮れない。
「うぉおお……ダメだぁ!一回飛ぶ!」
「ダメだ!マストル!」
雄叫びの衝撃に耐えられなかったマストル、勢いよく上空へ舞った。
(あのバカ……!)
そう、大地に踏み込んだだけで、数百メートル程のクレーターを作り出す五幻角の跳躍力は、幻龍種の中でも最上位だ。
「ヴゥゥゥウウ……ヴアアアァァア!」
そんな事も知らずに、空中に飛び立ったマストルを、五幻角は容赦なく襲いかかる。
「マストルー!下!下!」
「……え!?ちょ、なんで飛んでくるだよ!」
言わんこっちゃない。あんな上空にいては、逃げ場はほぼない。
(間に合うか……!?いや、間に合わせるしかない!)
異形質は既に展開済みだったので、まだ対応はできる。目視するだけでも限界に近いが、このまま見殺しにする訳にはいかない。
全力を行使し、展開の念を込める。手に黒い紋章が現れる。
(目標は……アイツの足!)
手を目標にかざし、発動の意を示す。その意志に答えた異形質は、その紋章から黒い糸を発する。
発せられた糸は、狙い通り、五幻角の足へと張り付いた。
(……よし、縮小!)
それ共に、黒い糸を縮小させ、僕自体があの場所を飛んでいく。その勢いを使い、マストルのところまで飛んで行こうという作戦だった……しかし。
(やばい……!勢いが強すぎた……!)
思っていたよりも、五幻角の勢いは強く、体が振り落とされそうになった。
しかし、離せばこちらも上空に放り出されるので、ヤツの格好の餌食となるだけだ。離すわけにはいかない。
(絶対に……離さ…ない!)
必至ながら糸に張り付いた結果、縮小からの離脱に成功し、その勢いを使うことに成功した。
「うぅぅううあぁあああああ!マストルぅうう!」
「アルト!?お前、どうして……!?」
「決まってるだろ!助けにだよ!」
僕が飛んできたことに驚いていたマストルだが、状況は察していたようだ。
(案外冷静で助かった……けど、ここからどうすれば……)
助けに間に合ったのはよいものも、下には既に、怒り狂った五幻角の姿がある。
逃げられる距離じゃない。かと言って、打ち返せる力もない。無鉄砲に飛び込んだことがここで問題となってくるとは、思いもしなかった。今度こそ、策も手も何もない。
「だけどどうするんだよ!このままだとやべぇぞ!」
「知ってるよ!だから焦ってるんだよ!」
このまま受けるしかないのかと思ったその時、頭の中で、声が聞こえる。
『仕方ない。これで、貸しは返したからな』
その瞬間、神々しい光が僕たちの前に現れ、同時に五幻角に向けて放出された。
その光に呑まれた五幻角は怯んだ。これは絶好の好機だ。
「マストル、今しかない!迎え撃つぞ!」
「いや逃げるだろ!攻撃して何とかなるもんじゃねぇぞ!」
「逃げたところで、アイツなら追ってくる。なら、ここで決めるしかない!」
「……わぁたよ!どうなっても知らないからな!」
半強制感はあったが、考えた結果だ。もう、振り返ることはできない。
この一撃にこれまでの全力を超える力を注ぐ。
「手加減するなよ!マストル!」
「俺の足引っ張るなよ!アルト!」
「「お前こそな!」」
読んでいただき、ありがとうございます。
作品が面白いと感じたら、ブックマーク登録、☆を5押していただけると嬉しいです。




