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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第一章【王宮編】
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五話【選択と托生】

この時だけ三人称になっているので注意です……すいません

 

 もうダメだ。おしまいだ。


 体は動かず、認識すら遠く叶わない。もう防御だって間に合わない。


 ──死──


 心の底から浮かび上がった言葉が脳裏をよぎる。覚悟を決め、目を瞑った。


 その時だった。


 激しく摩擦する金属音が、俺の頭上で響き渡る。


 それと共に、俺に向け刃を振るっていた子供が後方に退く。


「王宮直属の暗部部隊の幹部が聞いて呆れる。こんな子供とじゃれに来たわけじゃないだろう?なぁ灯真(とうま)


 ふと聞こえた声は、聞き覚えがある。何度も言葉を交わした懐かしい声だ。


「…… 夜路(よるみち)か?」


「おー、久しぶりだな。元気してた?」


 楽観的な口調と声しているコイツは、同僚の夜路(よるみち)

 数年を同じ配属で共にし、何度も共闘を誓った俺唯一の親友で、暗部の最高司令官だ。


「な、なんでお前がここにいるんだよ?別の任務はどうした?」


「その件は終わった。私がここに来たのは、王からの直接命令が来てたからだ」


「王からの直接命令……だと?」


「そう。まぁ今はそんなことはどうでもいいがね。それより、私はお前があんなピンチに陥っていたことが疑問だぞ」


 それは俺の方が疑問に思っている。俺には殺気を自動で読み取る力がある。にも関わらず、目の前の子供は俺の認識外からの攻撃を仕掛けてきた。


 それどころか、危うくそれに殺されかけたのだ。もうたまったもんじゃない。


「……その顔、油断大敵とでも言いたいんだろ?分かってるさ、油断はしねぇ」


 俺の顔からメッセージを読み取った 夜路(よるみち)は、懐から二本の短剣を取り出す。


「おい、そこは普通のやつにしとけ!短剣なんか使ったら弾き返されて殺られるだけだぞ!?」


「馬鹿を言え。いくら実力があろうが、この私がそう易易と負けるわけがないだろう?それに、私は任務対象の回収に来ただけで、本来ここで戦う必要なんてありゃしな──」


 !!!


 思わず後方へ退いた。油断は絶っていたはずなのに反応が遅れた。


「……一応構えはとっていたんだがな……」


 冷や汗をかく夜路(よるみち)の姿を見れば、その異常さは十分に伺えた。


「……太刀筋が見えなかった」


 俺には太刀を振るう挙動すら見えなかった。気がついた時には、子供は夜路(よるみち)の懐に入り込んでいた。


 夜路(よるみち)はそれを直前で躱せたから良いものを、俺に来てたら……多分死んでた。


「……お前の言う通りかもしれんな。私はあの王国で一番強いという自信があるが、あれほどのバケモンは見たことがない……相手取るには少し厳しいかもな」


 さっきは舐めてかかっていた夜路(よるみち)も、その姿に戦慄していた。言わんこっちゃない。


 今の動きを見ればそんなの言うまでもない。あれは正真正銘のバケモノだ。


「……灯真(とうま)、少し下がってろ」


 短剣をしまい、長剣を取り出した夜路(よるみち)が耳打ちしてくる。


「……お前まさか、一人でやる気か!?」


「それしかないだろう」


 冗談ではない。先程の動きを見て分かる。あれは一人で止められるシロモノではない。


 そんなの自殺行為だ。


「馬鹿言ってんじゃねぇ!一人で戦ったら、間違えなく死ぬぞ!」


「……大丈夫。安心しろ。私はそう簡単にくたばら──」


 夜路(よるみち)が言葉を紡ぐ最中、殺気の挙動を感じた。


夜路(よるみち)!!」


「うおっ!」


 再度、空を抉りとるような音が舞い踊る。


 その音源は俺の前で花火を散らし、危うく俺の眉間を貫通させる勢いだった。


「ちっ!今度は灯真(とうま)狙いか!!」


 寸前で太刀を逸らした夜路(よるみち)が仕掛ける。


 しかし、閃光の如き夜路(よるみち)の斬撃は、太刀を振るう前にかき消さる。


「……斬源殺しか」


 勢いが着く前に根本から斬撃のルートを潰す斬撃手段……軒並み外れた達人でも困難とされる技。


 コイツ、戦い慣れている……!


「まじかよ……!」


 動揺している夜路(よるみち)だったが、一歩も引かない。


 光の乱反射のように二つの影が宙で踊る。

 激しい摩擦音がそこら中に響き渡り、その度に劣勢になっていく。


「……夜路(よるみち)!」


 着いては行けないが、これだけは分かる。劣勢は夜路(よるみち)だ。


「クッ……なんで……こんなにっ!」


 焦りの形相を浮かべる夜路(よるみち)から殺意が感じられない。


 殺意を抱く余裕さえないくらい押されてるとでも言うのだろうか?


 信じられない。アイツがこんな押されているところなんて、一度も見たことがない。それも、あんな子供に。


「……」


 子供は一切表情を変えることなく、殺意を込めた太刀を振るう。


 不規則かつ予測不能の太刀筋は、さっきよりも勢いを増している。


 対しての夜路(よるみち)は、反撃する余地も与えられなかった。いつも冷静で正確な剣が、落ち着きを失っている。


「なんなんだ!この子供ぉ!」


 その瞬間、夜路(よるみち)の長剣が弾き飛ばされた。


「……なっ!」


「………」


 素早く短剣を構えた子供の視線と殺気がある一点に集中する。


 スパンッ


「……ぐ!」


 綺麗な音が脳内に響き渡る。


「……嘘だ……」


 不覚をとった夜路(よるみち)の左腕が宙を舞う。


 多量の出血と痛みが夜路(よるみち)を襲う。


「……こんな子供に不覚にも左腕を取られるとは。頼みの綱の”異形質(イギョウシツ)”はあと一分耐えなければ使えない……どうしたものかね」


 不敵な笑みを浮かべる夜路(よるみち)は天を仰ぐように笑う。


「おい……大丈夫なのか!?」


「はっはっはっ……まずいな、これは。勝てるビジョンが全く浮かばねぇ」


「……そんな!」


「しょうがない。あれは俺が勝てる人間ではないんだ。悪いが、任務はお預けだ……」


 諦めの一言を口にした夜路(よるみち)は、懐から煙玉を取り出す。


「これでも喰らいやがれ!バケモノ!」


 勢いよくそれを地に投げ落とす。


「今だ灯真(とうま)!殺される前にズラ狩るぞ!」


「お、おう!」


 破裂した白い玉から大量の煙が噴出される。視界が奪われた。


 さすがにここまですれば、追ってこないだろう。そう安堵した時だった。


 一本の短剣が俺の足を掠める。


「グッ……」


 突然の痛みに足を踏み外し、踏み台の大樹から落下した。


「……!灯真(とうま)!!」


夜路(よるみち)!受け取れッ!」


 落下の際に、任務対象を夜路(よるみち)に向け、思いっきり投げる。


 そして思いっきり落下する。


「ぐはっ!」


 それを受け取った夜路(よるみち)は、驚いた様子で問いかけてくる。


「え、なんで……」


「……ふへへ。なんかもう、これしか思いつかなくてな」


 落下した俺は、腰に下げていた長剣を再び構える。


 もうここまで来たら、こうするしか道はないだろう。


「バカ!俺が勝てなかった相手に、お前が勝てるわけないだろ!殺されるぞ!」


「……だからこそだよ」


 そう、だからこそ俺が出るのだ。


「……意味が分からないよ!なんでお前が剣を構えるんだ!」


「……お前はその任務対象を背負って、さっさと王国に帰還しろ」


 絶体絶命のこの状況、油断すれば二人とも殺られる。となれば、俺が囮にならない手はない。


「そんなこと出来るわけないだろ……!お前を置いて行くなんて……できるはずが──」


夜路(よるみち)……」


 夜路(よるみち)が言う言葉は、予想通りの言葉ばかりだった。本当にお人好しだな と苦笑してしまうほどにだ。


「帰ったら暗部のみんなに伝えてやれ。英雄、ここに散る……っな」


「……っ!やめろ!灯真(とうま)!!」


 懐から素早く煙玉を取り出し、地面に投げる。

 多量の霧がそこら中を埋めつくし、辺りを白く染める。


「……さぁ行け。時間がない」


「だけど……!お前は……」


「そんな顔するなって。大丈夫だ、必ず生きて帰るからよ」


 歯を食いしばり、涙腺を赤らめている。こんな顔を見るのは久しぶりだ。


「……約束しろ」


「ん?なんだ?」


「必ず、生きて帰ってくると」


 そんなことのために”約束”なんて言葉を使ったのか。案外コイツも人間なんだな。


「……いいぜ。約束だ」


 手を差し伸べ、最後の時を感じる。


「……絶対な」


 しかし、その手を夜路(よるみち)が握ることは無かった。


 交わそうとした手の間を一本の短剣が突き抜ける。


「……最後の戦いが始まるようだな。さぁ行け。今度こそな」


「……っ!」


 苦悶の舌打ちを残し、夜路(よるみち)は去っていった。


「……行ったか。最後までお人好しだったな、アイツは……さて」


 振り返った先、一つの影がこちらを睨む。


「……」


「はっ……殺す気満々だなぁ、その殺気は」


 握った長剣の先端を向け、構えをとる。


「さぁ、どこからでも来やがれ!」


「……」


 言葉を言い終えた刹那、俺の視界が突如として黒く染った。


 一瞬動揺したがすぐに理解した。


 潰された……おそらく右目を。


「……やりやがる!」


 右目を潰されるのはあまり問題じゃない。殺気で敵を認識する俺は、目が見えなかろうが戦い支障がない。


 だが痛い。単純に痛い。


「……」


 短剣を投擲してきた子供は、すかさずそれを追撃してくる。


 確かに受けるので精一杯だ。というか、受けに全力を使っても俺程度ならすぐに殺せそうな勢いだ。


 状況は超劣勢……しかし、俺は大切なことを見逃さない。


 振りあがった短剣をリーチで誤魔化し、運任せに剣を振るう。


「おりゃああ!」


 適当に振った剣は運良く短剣に当たり、それを弾き飛ばした。


「見誤ったなぁ!俺が投げた短剣は全部で八本!そして、お前が今手放したのは八本目だ!つまり!」


 颯爽と子供の懐に入り込み、剣を構える。そして──


「てめぇはここで終わりだァァァァ!」


 しかし、全力で振りかぶった斬撃は虚しく空を斬った。


「外したか!しかし、お前に次はな──」


 剣を持ち直し、視線を子供に合わせる。


 視界の先に見えたその光景。子供の手に短剣が握られていた。


「なっ……九本目っ!?」


 言いかけたその時、視界にあった子供の姿は忽然と消えた。


「……死ね」







 *






「王よ。ただいま戻りました」


 必死に王都へと逃げ延びてきた夜路(よるみち)は急ぎ足で王室へと足を運んだ。


 既にボロボロの体に残っていた微量な体力はもう底をつこうとしていた。


「おお、よくぞ戻った。して、その腕に抱えている者は……」


「はい、ご命令通り珍しい子供を連れてまいりました。ご献上致します」


 夜路(よるみち)は肩に背負っていた美音(みおん)をそっと抱き抱えると、王の元へ献上した。


「おぉ……噂通りめんこい娘じゃなぁ。気に入ったぞ。大儀であったな夜路(よるみち)よ」


「お褒めに預かり光栄です」


 噂通りの容姿を持つ美音(みおん)を見た王は満足げであった。


 王は自らの顔をその華奢な体に近づけ、まじまじとその容姿を確認していた。

 興奮のあまり鼻息は荒くなり、今にも飛びかからんとする勢いだった。


 吐き気を模様すような王の行動に夜路(よるみち)は一瞬頭が痛くなったが、それを必死に堪えた。


 王の前で無礼を働くものは例え大臣であろうが何であろうが殺される。それを重々承知していた夜路(よるみち)は目を逸らし、必死に耐えた。


 そのお陰か、原初への貢ぎ物として捧げる予定だった双子の弟の方は完全に頭から消えているようだった。


「うむ、確認した。もう下がってよいぞ。儂はもう少しこの娘を堪能するからの」


「承知致しました」


 退室の許しを得た夜路(よるみち)は静かに王室を去り、自室へと向かった。


 自室に着いた夜路(よるみち)は、先程の事を思い出し身震いしていた。


 反撃することも許されず、ただただ打たれ続けたあの時を思い返すとゾッとした。この世にあそこまでの化物が存在したのかと……思い知らされたのだ。


「”異形質(イギョウシツ)”され使えれば……或いは……」


 夜路(よるみち)は己を叱咤した。自らの判断ミスにより、最も親しい友が失われようとしているのだ。


 本来なら、今すぐにでも灯真(とうま)を助けに行くべき。だが、その足が竦んで動かない。


 久しぶりに感じた恐怖だった。身が滅ぶような嫌悪と寒気、拒絶がそれを引き立たせる。


「……俺は……俺は……!」


 別れ際にした友との約束。


 ”必ず生きて帰ってくる”


 しかし、その友の返事を聞ける確証はない。


「……確証がないなら助ければいい。俺が……助けるんだ!」


 心の奥底から湧き上がる恐怖を振り払い、夜路(よるみち)はあの場に戻ることを決意した。



読んで下さりありがとうございました。

良かったら感想とか書いてくれたらモチベに繋がるのでよろしくお願いいたします。

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