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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第二章【ヘヴン編】
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五十七話【始動】

「ふざけるなよ!お前が……エネットさんの何を知ってるんだよ!?」


「………」


「答えろ!」


「……言った通りだ。俺は、あの人にもついては何一つ知らねぇ」


 許せなかった。今までエネットがしてきた事を知らずに、こんな軽い気持ちでいられるマストルが。


 足りない。殴る、蹴る、怒鳴る、どんな暴挙を加えても、僕の心は収まることを知らなかった。


 マストルには傷一つついていなかったが、顔は歪んでいた。何か言いたげな表情をしていたが、無視した。


「お前が……お前なんかが……!」


 幾らやっても、何をしても、満たされない。この怒りをどこにぶつければいいのだろうか。


「……ありがとう」


「……え?」


「あの人が最後に言った言葉の一つだ。本来はもっとあるんだが、長くは話せなかったよ」


(ありがとう……?)


 感謝の言葉を言われる理由が分からない。僕は、結局助けられる側の人間にしかなり得なかった。そんな僕に、「ありがとう」なんて言葉は相応しくない。


 むしろ、感謝したいのはこっちの方なのだ。


 直接会って、感謝を伝えたい。


 でも、もう会うことは叶わない。


 無情にも降りかかる事実は、平等で不均等に、僕の心を蝕んでいった。


「分かったか?お前は、お前自身が思っるより、大切な存在だったんだ。でなきゃ、あの人がそんなこと言うなんて思えないしな」


「………」


 その通りだ。だからと言って、今の僕は何をすればよいのか。何をすることが正解なのか。幾ら心に問いかけても、答えは出てこない。


「なぁ……マストル。僕は、今どうすればいいのかな。どうすることが正解なのかな?」


 もう、誰かに頼る他なかった。


 マストルは呆れたように僕の顔を見て、一息つき、口を開く。


「俺に聞いても、何とも言えないな。ただ、俺らにはまだやることかあるだろ?ここに来たのは、無駄死するためじゃないんだからさ」


(……その通りだ)


 僕がここに来た理由。それは、ヘヴンを助けるためだ。それを見失ってはいけない。


(……そうだ。きっと、エネットさんが言いたかった事は、そういう事なんだ)


 意識が途切れるあの瞬間、聞こえた声は僅かではあったが、忘れることはない。

 エネットが、最後に残してくれた道。意思。それが、あの言葉に詰まっていたのだ。


「……分かったみたいだな。じゃあ、とりあえず、家に戻るか。あの様子だと、結界はしばらく修復されないだろうし」


 そうだな。と返そうとしたその時、何か頭に穴が空いていることに気がついた。


「いや、少し待ってくれ。何か、忘れてるようなことがある気がする」


 エネットがいない今、誰かが足りない気がする。いつもその傍にいた、天然な僕の姉弟子。


(あ……マキの事だ)


 確かに、先程から姿が見えなかった。さほど気にしていなかったとは言え、不自然過ぎただろうか。


 しかし、近くにマキの気配は感じない。僅かに強い存在感は感じるが、遠すぎて消えてしまいそうなほどだ。完璧には認識できない。


「マストル、聞きたいんだが、マキはどこに行ったんだ?」


「ん?あぁ、あの女の子か。本当は、お前と一緒にここまで運んできたんだが、起きた瞬間、どっかに行っちまったんだよ」


(どこかへ……言ってしまった?)


 どういうことだろうか。エネットが死んだ今、マキが自立して行動しているとは思えない。


(……だとしたら、あそこしか考えられないな)


 ほぼ当てずっぽうみたいなものだが、これしか見当がつかない。と言うより、彼女なら、そうするだろう。エネットを一番に尊敬し、崇拝している彼女なら。


「マストル、進路を急遽変更だ。エネットさんのところまで案内してくれないか?」


 最初は、僕の発言に呆気を取られていたマストルだが、慣れたのだろう。その内、驚くことすらしなくなっていた。むしろ、ヤレヤレと言わんばかりに、僕の話を快く受け入れてくれた。


「……そんな事だろうと思ったぜ。だけど、ここで急に進路変更するって事は、何かあるんだろ?」


「あぁ、ヘヴン様が助かる確率が大幅に変わってくる、重要任務だ」


「へぇ……そりゃ大変だな。話は走りながらでいいか?」


「あぁ。そっちの方が都合がいい」


 お互いの合意の元、ある場所へ向かう。


 僅かに感じるその気配から感じられるものは、決してよいものではなかったが、躊躇っていられる場合ではない。


 もう、過ちはおかさない。そう、心に決めたのだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

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