表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第二章【ヘヴン編】
55/115

五十四話【理解不能】

闇に包まれた暗い場所から、声が聞こえる。”二回目”と言っていたが、なんの事だろうか。


(そもそもここはどこなんだ……?僕は、あの後どうなったんだ?)


エネットもどきに脇腹を刺され、瀕死の状態になったことまでは覚えている。しかし、あの後自分がどうなったかが分からないのだ。


それに、今いるこの場所はやけに暖かく、安心出来る気がする。


さらに、昔にもこんな感覚を味わった覚えがある。


(何だか、懐かしい……なぁ。でも何でだろう、全然痛みもないし、不快感もない)


先程まで脇腹を貫通されていたので、痛覚がないことの有難みを感じる。あのままいっていたら、その激痛に耐えかねて絶命していてもおかしくなかっただろう。


それほど痛かったのだ。


しかし、この状況下においては、あまり気にすることでもなかった。


(とりあえず……ここがどこか確認しないとな。よいっしょ……?)


謎が深まるこの場を把握するため、腕に力を入れ、立ち上がろうとした。しかし───


(あ、あれ?何だ?体に力が……入らない?と言うより、身体の感覚がない……!?)


驚いた事に、動かそうとした体は動かないと共に、感覚を失っていた。ほかの部分も確認してみたが、足も、瞳孔も、口も、耳も、何もかもの感覚消えていた。


(どういうことだ……!?)


頭は働くのに、体は動かない。謎の状況に思考を苛まれていた、その時だった。


僕の頭に、一つの映像が映りこんだ。


荒んだ大地の一端に、一人の少女が立ち尽くしていた。その傍らには、見覚えのある女性が横たわっている。


少女は女性を抱き抱えると、その傷ついた顔に手を当て、何かを呟いた。


映像はそこで途切れた。そして、僕の視界は再び奪われ、真っ暗な闇の中に消えた───






「───ト!おい!聞こえてるか!?アルトォオ!」


「…………あ」


「どわあああああああぁあ………あ?」


見慣れた声が、僕のことを呼び起こす。しかし、”歌絲(かいと)”ではなく、偽名で使っていた”アルト”でだ。


ふと、その声の違和感に気づいたのは、呼び方の違いを認識してすぐだった。


「……あれ?何で声が聞こえるんだ?」


視線を横にずらすと、呆気を取られたように佇んでいるマストルが立っていた。口をぱっくり開け、目を大きく見開いているマストルは、無言でその場に立ち尽くしていた。


「……え?何でここにマストルがいるんだ?」


素朴な疑問だった。現状況を理解出来ていない上では、最適解の質問だと思ったが、マストルは混乱のし過ぎで全く聞いていない。


「あ、あー、うん。大丈夫だ。」


驚きすぎて言葉を失ったのか、語彙力が崩壊している。これは、しばらく使えないだろう。


しかし、何故マストルが目の前にいるのは理解できないままだった。だが、先程のことを思い出すと、それも納得出来た。


(……なるほど。僕は死んだんだな)


理解しているだけの部分で導き出した、唯一の答えだった。少し無理のある考え方だが、こうでしか説明ができない。


しかし、思っていた通りになるとは思っていなかった。前世であったタイムリープも、今回はしなかったようだ。


しかし、タイムリープがなければ、もう美音を救う方法がない。


(……よくよく考えたらまずいな。策も手も何も無い)


僕には特別な力がある訳でもないから、死後では完全な無力者だ。


今更振り返ってみると、僕が死んだのは結界内での出来後だ。そうとなれば、僕の死を知る者は誰一人としていない。


故に、メイが僕の死を知ることも、美音が僕の死を知ることもない。これは致命的な問題だ。


(うーーん……どうしたものか)


「なぁ……大丈夫なのか、お前?」


「え?」


先程、機能不全に陥ったはずのマストルが、正気を取り戻していた。普段ならあと五時間くらいは機能しなくなるのに、今回はやけに復活が早い。


兎にも角にも、話ができるなら、現状況を聞くのが最優先だろう。例え、死後の世界だとしても、得られる情報は少なからずあるはずだ。


「あ、うん、大丈夫だ。それより、ここがどこか分かるか?」


「……はぁ?え?お前、ほんとにここがどこか分からないのか?」


「……え?う、うん。全然分からないけど……」


僕の回答を聞いたマストルは、腰に当てていた手を顔にやると、悩んだ仕草をしながら、僕の肩を叩いてきた。


「やっぱ大丈夫じゃないんだ。確かに、生きていたこと自体奇跡だもんな」


「……え?今なんて?」


「え?いやだから、生きてるだけ奇跡だって……」


マストルの今の言葉に、少し違和感があった。と言うより、おかしな言葉があった。


”生きてるだけ奇跡”


どういうことだ?僕は生きているのか?ここは死後の世界じゃないのか?


飛び交う疑問の数々が、僕の思考を混乱させる。


とりあえず、確認の為、自分の頬を思いっきり叩いてみた。


「………痛い」


ほとばしる痛みは、僕の肌を通って神経へと通達され、言葉を発せさせる。


夢でも何でもない。現実だ。


読んでいただき、ありがとうございます。

作品が面白いと感じたら、ブックマーク登録、☆を5押していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ