五十三話【また】
「……なん…で?」
向かってくるエネットは、懐から出した剣で、僕の体を貫いた。
剣の貫いた部分は血で染まり、段々と体から意識を奪っていく。
痛くて堪らない。腹部を抑えても、出血は止まらず、勢いを増して流れていく。
「うぶっ……!」
吐血した口元を抑え、下を向いていた視線をゆっくりと上に移す。
目の前に映ったのは、無常に僕を見下すエネットの顔だった。
(エネット……さん?)
しかし、見た瞬間その違和感に気づいた。目の前に居るこいつは、エネットなんかじゃない。エネットの顔をしているだけの何かだ。
その隣を見てみれば、マキだと思っていた人も、マキの顔をしただけの偽物だった。
分かってはいたが、これは現実なんかじゃない。何ものかによって掛けられた幻影のようなもの。
「ちくしょう……!」
自らの情けなさに歯ぎしりした。もう、この剣を抜くことはできないだろう。このままでは、失血死するか、真っ二つに切られるのがオチだ。
前の二人は、僕に剣を刺したっきりで動いていない。しかし、依然として剣を握る力は弱まっていない。殺す気ではあるようだが、即時殺すという訳ではないようだ。
しかし、貫かれた僕の体はほとんど動かない。さらに、刺された部分は脇腹と来たものだ。呼吸をするのすら辛い。
「何で……こんなこと…するんですか!エネットさん!」
何を問うても、エネットは口一つ開くことは無い。マキも同様だ。
(まず…い。意識が……遠のく……)
頭の中に浮かんだ”死”の一文字。折角タイムリープして、チャンスを得たと言うのに、こんなところで終わるのか。
おそらく、タイムリープはこれ以上はない。いや、あるかもしれないが、何故か、ないような気がする。
(はは……ちくしょう……)
哀れなやつだ。と自嘲した僕は、そっと目を閉じ、一つを願った。
(ねぇ神様。聞いているんだったら、この願いを聞き入れて欲しい)
視線を上にやる。剣を抑えていた手を止め、何も無い虚無の空へと向ける。
(もし、叶うならば、僕に……チャンスを下さい。何度…死んだって構いません。僕は……やりべき事が……あるんです)
無理難題なんでことは知っている。神に縋るなんて、無駄なことなんて分かってる。しかし、今はそうでもしなければ、死んでしまいそうな気がした。
「……」
僕の奇行を見たエネットもどきは、先程まで止まっていた手を動かし、僕の脇腹から剣を抜いた。
(ぐ……なんのつも────)
*
「二回目……か」
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