五十話【エネット】
ついに50話いけました。今からもっと展開増やして行きたいと思ってるので、よろしくお願いいたします。
「可変侵食」
エネットは、壊れた片手を結界から離し、マキに向けた。
瞬間、マキは意識が途切れたようにその場に倒れた。
「歌…絲、マキを助けてちょうだい。この子だけは……マキだけは救わなきゃならないの」
エネットは、掠れた声で叫ぶ。
「わ、わかりました!でも、エネットさんは……?」
「私は…いいから、三人とも安全な場所に……逃げなさい……!」
そう叫ぶエネットは、今にも壊れそうだ。
ここまでやったから、諦められないというのは分かる。しかし、このままでは、本当にエネットが死んでしまう。
「そんなこと出来ません!いくら貴方と言えど、本当に死んでしまいますよ!?」
「……当然でしょ」
「……!?」
返ってきた言葉に、動揺を隠せなかった。
まさか、自分の死すら分かっていたとでも言うのだろうか。
「……死ぬ事くらい最初から知ってたわ。少なくとも……この子を拾ったあの日から……覚悟くらいはしていたもの」
瞳など、とうに失ったはずなのに、その姿は未来を見通すように、僕たちを見ていた。
「さぁ……行きな…さい。最後くらい、静かに……終わらせたいの」
「そんなこと言わないでくださいよ!エネットさんは……そんな弱気な人じゃないはずだ!」
この体から出る、思いっきりで叫んだ。このまま、素直に逃げる訳にはいかない。
「……聞き分けが悪い…わね。行かないと、死ぬわよ……!」
僕を叱るその目は、感情の籠った本気の眼だった。
「でも……エネットさんがいないと、王宮の話はどうなるんですか!?その為にここまで来たのに!」
「……あぁ、代役の話ね。多分、今のマキ…なら、私の…代わりにくらいは……なるはずよ。だから…心配は…要らな────」
「そうじゃない!」
なぜ、この人は分かってくれないのだろうか。本当は、王宮なんて口実に過ぎない。
本当は、貴方を見殺しにしたくないだけなのだ。なのに、また自分を捨てて、他を救おうとする。
本当に馬鹿な人だ。
「貴方が……”師匠”が来ないと意味がないんです!」
僕の叫びを聞いたエネットは、少しびっくりしていた。しかし、以前として手を休めることはしなかった。
「……懐かしい…呼び名ね。もう、貴方の……口から聞くことは…ないと思ってたんだけどね……最後に、聞けてよかったわ」
ダメだ。話しても埒が明かない。
(こうなったら、全力を使ってでも止めないと……)
背中に抱えていたマキを、一度地に下ろし、体全体に呼びかける。
しかし、エネットは僕の考えに、既に気づいていた。
「……二人揃って、ほんとに……馬鹿な…弟子ね……」
涙を流しながら、エネットは再び壊れた手を僕に向けた。
「最後に……楽しませて…貰ったわ。ありがとう……ね、奏峰……歌…絲」
そこで、僕の意識は途切れた────
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