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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第一章【王宮編】
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四話【異常事態と異常状態】

途中から視点変わります。ご注意下さい。

 黙々と足を進める王都のもの達は止まる気配がなく、障害物となるものを破壊しながら進む。


 異常とも言える謎の進軍に村の人達は戸惑い、逃げることしか出来なかった。


 何せ村の人達は美音を攫うという王都の目的すら知らずに普段通り暮らしていただけなのだから。


「これはこれは王宮の使者様。こんな時間にどうされましたか?」


 進軍を続ける王都のもの達のことを聞きつけ村長は大急ぎで軍の場所へ駆けつけ、軍の前ににひれ伏した。


 当然、村長も進軍の理由は知らないので何をしていいのか分からなかった。


「……邪魔だ。進軍を妨げるのか、愚民?」


「………へ?」


 先人が突き立てた槍は自らの進軍を妨害する村長の胴を軽々と貫通し、その体を宙に浮かした。


 突き刺された村長の体は無慈悲にも地面に押し付けられ、温かさを失った。


 それを見ていた雑貨屋一同に心の底から震え上がり、森へと逃げ出してしまった。


 しかし、その中で一人だけ、決心する者がいた。


「っ……美音(みおん)に知らせねぇと!これじゃ見つかっちまう……!!」


 店長だ。


 店長は進行方向を変え、全力で雑貨屋へと走り出した。


「くそっ!このまま殺させてたまるか!」


 必死の思いで雑貨屋へと辿り着いた店長は、ふらつく足取りを抑えながら階段を駆け下りた。


「おい大変だ美音!軍の奴らがもうそこまで来───」


 隠し部屋のドアを勢いよく開け、言葉を放った店主の声は途中で事切れた。


「……?どうしたんだよ店長。いきなり黙り込んで………」


 突然倒れた店長は何も喋らなくなった。


 突然の出来事に戸惑いながら、そっと店長の肌に触れる。


「……冷たい……」


 それは、これまでに感じたことがないような冷たさだった。


「っ!店長!おい聞いてるのか!店長……!」


 顔を見ようとうつ伏せの体を起こした途端、下腹部から大量の血が溢れてきた。


「あ、あぁ……店長……うっ」


 突如として現れた光景に、思わず嘔吐してしまった。


 怖い。なんで血がこんなに出てくるんだ?


「か、歌絲(かいと)?いきなりどうしたの?」


「はっ……く、くるな!来ちゃダメだ!」


 近寄ってくる美音(みおん)を大声で引き止めた。この姿を見せる訳にはいかない。


「う、嘘だろ……店長……?」


 先程まで温かさを保っていた店長は、突然倒れ、その命の灯火を消した。


 さっきまで話していた人が目の前で冷たくなって転がっている。なんでこんな事になってしまったんだ?


 突然すぎる店長に死に混乱していると、突然、僕の横を冷たい風が通り過ぎた。


「……美音?」


 振り向いた先、美音(みおん)の姿はなかった。


 周りを大きく見渡したが、どこにもその姿は見つからない。


 ひたすらに考えた。


 何が原因だ?


 どうして美音(みおん)がここにいない?

 どうしてだ?


「……美音(みおん)は攫われたんだ」


 突然言い放った言葉に違和感は感じなかった。そうでも無いと辻褄が合わない。


 店長の不可解な死、突如として消えた美音(みおん)……そう考える他ありえない。


 何故にこの答えが頭に出てきたかは分からないが、今はそんな事どうだっていい。


「……まだ近くにいる。まだ追える」


 そのとき、自分の中にあった”何か”のネジが外れた。


 冷徹で、怒りとはまた違う”何か”は僕を突き動かした。本能的にその居場所を察知した僕は、ついていた手を地から起こし、その場を後にした。


 不思議とその体は軽かった。


 意識せず走っていたためだろうか、辺りを巡回していた王都のもの達をも気にとめず、襲ってくるものすら遅く感じた。


「おい!そこの子供、止まれ!」


「……黙れ」


 向けられた矛を軽くあしらい、根元をへし折りついでに相手の頭蓋も殴っておいた。これでしばらくは動かないだろう。


「なっ……なんだあのバケモンは……!」


 怯えている……まぁそんな事はどうでもいい。むしろ、襲ってこないなら好都合だ。


「遅いな。これでは追いつかない」


 その時は理性も感性も意識すらも反射的に無駄と判断し捨てた。


 ただひとつの目的のため。最愛の妹を取り戻すためだけに。


 森の入口付近でそれは見つかった。黒い服に身を纏った忍者のような男が気絶した美音(みおん)を肩に背負い、森へと逃げ去ろうとしていた。


「………どこへ行く気?美音(みおん)を返せよ」


 男は僕に気づいたのか、おそるおそる体を向けてきた。筋肉質で背丈は190はゆうに超える巨体。殺すには少し面倒くさいくらいだ。


「ほぉ……子供らしからぬ気風をしているな。お前、ナニモンだ?」


 僕の殺気を感じ取った男は腰に当てていた長剣を取り出し戦闘態勢を見せた。


「へっ、殺人衝動ただ漏れ野郎か……案外まともな奴もいるもん──」


 男が言葉を発する刹那、僕の体は自然と動いた。


「──死ね」


 男の目の前まで移動し、思いっきりの手刀を男の顔面向かって突き刺す。


 しかし、その手刀は両断され、人差し指と中指の間がぱっくりと割れた。


 男が剣を振ってきたのだ。


 伝わる痛みと肉が裂ける感触。しかし、それに何の違和感も感じない。


「……速いな。これは無理だ。よし、戦略的撤退!!」


 男は軽い口調でそう言い残すと、懐から短剣を数本取り出し、僕に向かって投擲してきた。


「……小細工は通じないよ」


 短剣を全て手刀で弾き飛ばし、再度男の姿を探す。


 しかし、男は既にいなくなっており、そこに転がるのは数本の短剣だけだった。


「……殺してやる。美音(みおん)を守るのは、僕だ」






 *






「なんなんだ、あの子供……速すぎんだろ」


 森に佇む無数の木々とそこに群がる猛獣どもを足場にし、さらに奥へと進んでいく。


 あの子供と対峙し、目の前を取られたあの瞬間、俺は死んでいた。


 正確に言えば、死んでいたも同然 だが、力が反応してくれたおかげで助かった。


 しかしながら、あの時感じ取った殺気は凄まじい。


 冷静沈着の代表でもやってるのかと思うくらい冷たい色で、尚且つ怒りの感情が篭っていない。見たことの無い初見の殺気だった。


 それに、あの目は本当に殺そうとしている目だった。まともに殺り合えば、俺はとうに他界他界していただろう。


 それ故に、今は必死だ。


 一秒でも早く、あのバケモンから遠くへと逃げなければ、振り切れず殺されるだろう。


「AAAAAAAAAA!!」


「邪魔すんなっ!」


 大樹の根元から襲ってくる獣には煙幕をぶつけ逃げ切る。勝てはするが、まともに戦っていたら追いつかれる。


「ハァハァ……ここまで来ればとりあえずは安心だろ……疲れたわ」


 五分ほど飛び回り続け、体力も先程の緊迫感で失われていた。


 一度膝をつき、大樹の上で休もうと安堵した。

 その時だった。


 後ろから不快な音と猛烈な殺気を感じた。


「なんだこの殺気……まさか獣の援軍か?いや、完全に振り切ったはずだが……」


 感覚を研ぎ澄まし、殺気の根源を探る。


 すると、感知したその殺気は刹那、俺の感知を振り切り、その殺気は姿を現した。


「おいおい、嘘だろ?完全に振り切ったはずだが……」


 目の前に現れたその正体は、先程振り切ったはずの子供だった。


 感情の篭っていないその形相は、血塗れた服も相まってその雰囲気をより一層の引き立たせている。


 その姿は禍々しいの一言に尽きる。


 何故追いかけてきている?

 短刀はどうした?

 何故この速さに着いてこれる?

 猛獣はどうした?

 何故血塗れなんだ?

 先程の不快な音はなんだ?


 殺されちまう……


 脳内で処理しきれないほどの疑問と情報と恐怖が頭の中を駆け巡る。


 ふと見た足元は、立つだけで精一杯になるほど震えていた。あれに捕まれば殺される。そう肌身で感じる。


 だが目的を置いて王都に戻ることは許されない。でなければ、俺の首は数日以内に宙を舞うことになる。


 つまり、今やるべき事は───


「……やっぱ無理だ。逃げるが勝ちさ!」


 任務優先が賢明なのだろうが、死んでは意味が無い。


 任務対象を抱え直し、全力の踏み込むでその場から脱する。


 振り切れないかもしれない。いや、振り切れる可能性は限りなく低い。


 しかしそれでも、道は一つしかないのだ。


 王宮に帰ればある程度言い訳はできる。しかし、この子供には言い訳どころか話すら通じない。


「まじかよ!速すぎるわ!」


 確認の為後ろを振り向くと、子供と俺の距離は限りなく縮まっていた。もう追いつかれる。


 かくなる上は……


「喰らいやがれ!このバケモンが!!」


 懐から五本ほどの短剣と、煙幕を取り出し投げつける。


 しかし、それら全ては、子供が投げつけてきた短剣によってかき消された。


「嘘だろ……それはさっきお前に投げた……!」


 通り抜けてきた短剣が頬を掠める。もう逃げ続けるのも無駄ということを暗示しているかのように。


「へっ!ハナから逃がす気はねぇんだろ?ならここで殺してやるよ!」


 逃げてちゃ結果は変わらない。とりあえずアイツの行動を把握しなければならない。それなのに……


「どこ行きやがった……!隠れても無駄だぞ!」


 どんな奇襲が来ようとも、俺は対応できる。俺の力は殺気に敏感なんだ。


 任務対象を肩から下ろし、長剣を構える。


「はぁ…はぁ…まじでどこ行ったんだよ」


 しかし、いくら構えていてもあの子供は現れない。


「クソが……いなくなったんなら言えよな」


 このまま待っていても時間の無駄だ。そう思い、剣を下ろした……次の瞬間。


 頭上から凄まじい殺気を感じ取った。今まで感じ取った殺気の中でも濃く、冷たいものだ。


 間違えないあの子供のものだ。


「ぐぅ!」


 反応しようとした瞬間、俺の体は厨に浮かされ、目の前にあの子供が現れた。その手に握られている短剣からは、とてつもない無情な殺意を感じた。


 力は感知してくれたが、反応が間に合わない。足も手も頭も体も、全体が止められたような感覚に苛まれ、俺は死を覚悟した。

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