四十七話【一件落着】
「やっぱり強いわねぇ。健在で良かった。じゃ、次は”アレ”をよろしく」
エネットは誰かと話している。視線が剣に向いていることから、おそらくその”世界剣”とだろう。
「ふぅ、準備完了ね。次の一振で終わらせますか。世界剣さん、斬撃形態いける?」
エネットが問いかけるように言うと、結晶玉が分解され、刀身を形作っていく。
既にあった型にはまっていくように作られた刀身は、ベージュに染まり、オーラを放っている。
「斬撃形態は久しぶりね。行くわよ世界剣さん。規模は、目の前にいる異形獣を全体破壊するほどで、後ろにいる子たちを巻き込まないようにね」
返答が来たのか、エネットは笑って剣を上に向ける。
「よいっ……しょ!」
両手で掴んだ剣を、叫びながら振り下ろす。
その刹那、目の前にいた異形獣どもは砕け散り、跡形もなく消えた。
見た瞬間、全く理解できない事象が起こったのだ。
実際に剣で切った訳では無い。振ったら壊れたのだ。それも、原理も理屈でも説明できないような、理不尽なほどに理解不能の適当な一振で。
マキは見慣れたような顔でそれを見ていたが、僕とマストルは驚きのあまり、何も言うことができなかった。
「次は復活だったかしらね?それはもう達成してるから大丈夫よ」
言われるままに前を向くと、目の前の異形獣たちが一瞬のうちに復活していた。
復活の瞬間は見えなかった。いつの間にか、そこに居たのだ。傷一つついていない。元の状態の異形獣どもが、そこには立っている。
まるで、最初から何もなかったかのような。
「……OK!依頼解決ね。マストルくん……だっけ?しっかり見てた?」
「……あ、あぁ、大丈夫です。はい……」
(あ、演技戻った)
目の前で起こった事実が受け入れられないのか、上手く喋れていない。しかし、これだけの事を目の前にすれば、当然の反応だ。
エネットは満足したように笑うと、指を鳴らす。すると、世界剣の刀身が消え、持ち手が結晶玉へと戻って行った。
「それなら良かったわ。依頼解決した事だし、戻りましょうか。早くしないと、結界が復活してしまうわ」
「そうッスね。お二人さん、早く行くッスよ」
「GAAAAAAAA!!!」
「……うっさいわね。調子に乗らない事よ?」
エネットが振り返った瞬間、千にも達する異形の群れは、その刹那にてこの世から姿を消した。
その姿を探したが、肉片の一つすら残っていなかった。気配も、その存在すらも、再び感じ取ることができない。
(振り返っただけであれか……さすがエネットさん……)
これが、エネット本来の純粋な本性。相手が誰であれ、邪魔なら殺すことを厭わない残虐な性格だ。
時と場合を考えているため、王宮時代では封印していたらしいが、放浪時代はこの力を思いのままに振るっていたようだ。
「全く、面倒な輩ね。あと歌絲、そんなにビビらないで頂戴。そっちの子は分かるけど、貴方は二年間見てきたじゃない」
「二年間程度では慣れませんよ……」
「全く、その通りッスよ。お師匠様の力には、私ですら慣れてませんからね」
「いや、そんな大した力じゃないわよ。少なくとも、あの人に比べたら……」
「あの人?」
「いえ、何でもないわ。聞かなかったことにして」
その場では考えなかったが、エネットを超える存在とはどんな人物なのだろうか。少なくとも、今の僕には理解できない。
*
「ははは……エネットってば、私が譲渡した力をこんな所で使っちゃうなんて……世界剣の無駄遣いよ。でも、あの子にその力を見せたってとこだけは、評価点ね」
木の上から、四人組を見下ろす影が一つあった。
その影の視線は、歌絲に向けられている。
「他の三人には迷惑だけど、もう少し、彼を見ていたいんだ。てな訳で、結界は修復させてもらったよ。基、私が創ったものだから、直しても問題ないんだけど」
不敵に笑う影は、その身を空に消した。
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