四十四話【最深部】
エネットが拳を握った刹那、僕たちの体は森の最深部へと転移した。
最深部には、無限に続く結界が貼ってある。上にも横にも、果てなく続く結界は、異形獣たちの進行を防ぐために、古代のある人間が貼ったとされている。
「結界を一時的に無力化させるから、少し離れてなさい」
「待てよ、無力化するところを見せてみろ。何か卑怯な手を使うわけじゃないだろうな?」
「……別にいいけど、記憶消し飛ぶから意味ないと思うわよ」
「……記憶が消し飛ぶ?」
首を傾げるマストルに対し、エネットはそれ以上は何も言わなかった。
しかし、この事情だけは、僕もよく分からない。マキも知らないというのだから、これ以上言及しても無駄だろう。
「と言っても、私が無力化できる時間は数分に過ぎないから気をつける事ね。もし、時間内に出ることが出来なかったら、一日中ここに閉じ込められることになるから。そうしたら、多分私とマキ以外は生き延びられないわよ」
深々と注意喚起したエネットは、結界に近づき、手を前にかざした。
目を瞑り、しばらくその場で解析を続けている。
30秒ほどすると、目の前の結界の一部にヒビが入り、破壊されていくのが見えた。
「……はい、出来たわよ。タイムリミットは大体6分。その間に終わらせるわよ」
開いた結界は、徐々に修復を進めている。6分とは思えない修復速度だ。
「エネットさん、これほんとに6分なんですか?」
「万物遅延を使ってるからある程度は大丈夫でしょうけど、6分きっちりは難しいかもね」
「なら尚更急がないと……」
「いざとなったら、何とかするわよ。これ以上、過ちをおかす訳には行かないから」
不服な表情だ。エネットなら、いくらでも手段はあるだろう。
しかし、それを躊躇っている気がした。
(……何があったんだ?)
「何を話しているんだ?さっさと済ませるなら済ませろよ」
「ハイハイ、分かってますよ。」
厳しい口調で言うマストルを、適当に受け流すエネット。もう見慣れたやり取りだ。
「お師匠様、お出ましみたいですよ」
前方に立っていたマキからのお呼び出しだ。どうやら、今回のターゲットが現れたようだ。
「へぇ、まだ少ししか歩いてないのに、ここまでの大きさがいるなんて思ってなかったわ。ざっと90mってとこかしら?」
目の前にそびえ立つ大樹かと思っていたものは、大型の異形獣の足だった。
(懐かしいな、昔もこんな事あったっけ)
90m級の異形獣に会うのは、三年前の月修行以来だ。あの時は、ほとんど意識がなかったけど、倒した感覚だけは鮮明に覚えている。
「じゃ、早速始めましょうか。ちゃんと見てなさいよ」
マストルに対し指を指したエネットは、羽織っていたマントをマキに預け、結晶玉に手をかざした。
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