三十六話【不明点】
「ん?今なんか凄い音聞こえませんでしたかね?」
「気のせいよ。それより、お主は私を捕まえることに集中した方が良いのではないのか?」
「いや美音様!帰りましょうよ!ここら辺おっかないですよ!ほんとに怖いので帰りましょうよ!」
「はっはっは!では、妾を捕まえられたら、考えてやらんこともないな!」
「くっそぉおおお!アルトぉぉおおお!───」
「城を抜け出し森へ来てみれば、バケモノと対峙するは一人の少年。しかし、その容姿はまるで”化物”……か。ふふ、また一つ、退屈しのぎが増えそうだ」
大樹に佇まい、歌絲を見下ろす影は、クスリと笑った。
「───っぶない……危うく死ぬ事だった」
僕は今、ある大樹の根元に身を潜めている。時間はないが、無鉄砲に突っ込むよりは幾分かマシだろう。
先の爆発の衝撃は並大抵のものではなかった。それによって、多くの異形獣が巻き込まれていたが、僕も巻き込まれるとは予想外だ。
「ちくしょう……随分離れてしまった。このままでは、奴らがあっち側に……」
自分でも分かっている。しかし、時間がないのも自覚している。死んでも守ると決めたとに、いざ対面しみると、怖くてたまらない。
あと数分で、僕の体力は底を尽き、バケモノどもの餌として野に放られるのだ。
怖くないわけがない。足が震えているのがわかる。いや、手も震えている。寒気もする。今すぐ、ここから逃げ出したい。
”どうした?君の力はそんなものなのか?”
どこかから、声が聞こえる。
(うるさい、僕だって分かってるんだ……!)
連立している大樹を思いっきり殴る。バキバキと音をたてて倒れる大樹を見て、心を決める。
「戻るんだ……あの場所に」
生きる死ぬなんてどうでもいい。ただ、帰りたいんだ、あの場所へ。その為に、邪魔な奴らを消すだけだ。
───邪魔な奴は殺す───
僕の中にある”何か”が暴れている。怒りとも違う、冷徹な”何か”は、僕を突き動かす。
(あれ?前にも、こんなことが、あっ、た──)
僕の意識は、そこで途切れる。
それは、戦闘開始から五分の時がすぎた瞬間だった。
*
「……い!お…い!おい!大丈夫か!?」
「うわっ!」
強く体を揺さぶられ、目を覚ました。
「あ〜、よかったぁ!メイ様がお前を抱えてきた時は本当でビビったんだぞ!」
(え?侍女長が……?)
体を起こし、焚き火によってぼやける視界を凝らすと、その奥に彼女は座っていた。腕を組み、指をトントンと小刻みに動かしている。これは不機嫌の時の合図だ。
「ひぇっ!いきなりお怒りモードか!?さっきまでは大丈夫だったのに……」
「さっきまでは……?」
マストルが「あぁ……」と喋ろうとした瞬間、メイは話を遮るように口を開いた。
「アルト、私はマストルを助けてこいと言ったのよ?何故、あんな森奥に一人で倒れてたのかしら?」
「僕が、森奥で倒れていた……?」
理解不能だ。僕は、さっきまで │バケモノ《異形獣》どもと抗戦していたはずだ。そうだ! │バケモノ《異形獣》どもは!?と振り返ったが、どこにもその姿はなかった。
「 バケモノですって?……アルト、貴方また何かやらかしたわね?」
「おい、アルト!どういう事だよ!?」
僕の一言に、二人は異常な反応を見せた。一瞬聞いただけでは、そうなるのは無理もないと思ったので、状況を説明することにした。
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