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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第二章【ヘヴン編】
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三十三話【嫌な予感】

「美音様ぁあ、待って下さいよぉおお」


「はははは!どうした?こんなものか!」


 美音は依然として前を走り続ける。僕たちは死にものぐるいでそれを追っている。隣では、重荷を任されたマストルが苦しみの声を叫んでいる。


「しっかし、美音様速いなぁ。僕たちでも追いつけないなんて」


「呑気なこと言ってないで早く捕まえてくれよ!俺はげんか……い」


 苦労の果てに疲れきったマストルは倒れてしまった。捜索作戦の時の疲労がまだ残っているのだろう。


「はぁ……大丈夫?ここで倒れたら、後からが大変よ?」


「しっ、て、ます、よ」


 後ろから着いてきたメイは、素早く水を渡す。非常に適当な応急処置だが、そこまで準備できるほど、荷物は持ってきていない。


「あっはっは!情けないわね、マストル!」


 マストルが倒れる姿を見て、高らかに笑う美音。後光かのように放たれる太陽光は、僕の視界を遮る。正直、僕の体力も限界が近い。


(早急に捕まえないと、次倒れるのは僕だ。侍女長に迷惑はかけられない……!)


 僕は足に異形質を纏わせる。残り少ない体力では、20秒が限界だ。


「行きますよ、美音様」


「ふふん!私を捕まえられるわけn」


 軽く踏み込んだ足と同時に、僕は坂を駆け上がる。先程の美音のスピードを考えても、この距離なら捕まえられない道理はない。


「な、なんっ!はや……」


 美音は瞬きをする間もなく捕まった。彼女を抱き抱える僕を見たメイは、一安心したようにため息を吐いた。


「ホント、世話のやける双子だこと……」





 *





「あの、この荷物なんなんですか?やけに重いですが?」


「それは美音様のものよ。丁重に扱いなさい」


「多……!」


 美音を捕まえ、南雀の森に入った僕たちは野宿の準備をしていた。


 エネット宅は南雀の森の中間に位置しているので、一日ほど歩かなければ辿り着くことができない。


「美音様……そこ危ないですって」


「何をしようが妾の勝手じゃ。それを守るのが貴様の役目ではないのか?」


「はいぃ……」


 少し離れた場所にある湖で、美音がはしゃぎ回っている。もう日が暮れて、周りも暗闇に包まれる時間だ。危ないったらありゃしない。


 それに振り回されるマストルは、死にそうなほど疲れきっている様子だ。今にも白目をむきそうなほどに。


「アルト、少し手伝ってあげなさい。このまま行ったら、マストルが過労で死ぬわよ」


「了解しました。少し行ってきます」


 メイからの助言なら、行っても良さそうだ。僕は、走り回る二人の影を目指し、走り出した。


「いてっ……!」


 突然、足の裏に痛みが走る。靴の裏を見ると、何やら錆び付いた釘が刺さっている。


(ん?なんでこんなところに釘が?)


 疑問に思って周りを見渡すと、ふと記憶にある風景が浮かび上がる。


「そうか……ここはマキが吹き飛ばされた場所じゃないか」


 それは二年と少し前、僕の異形質の系統を調べようとしていた時に、家ごとマキを吹き飛ばしたことがあった。その時にマキが転がっていた場所が、ここというわけだ。


 なんだか懐かしさと共に、ゾワッとする恐怖に襲われる。あの時はマキが居てくれたからよかったが、あのバケモノを蹴散らせることができる人は中々居ない。


 侍女長、或いはマストルなら可能かもしれないが、二人は自分のことで手一杯なので、ここで襲われれば一環の終わりだ。


(いやいや、こんな時に限ってそんなこと有り得ないよね……うん、考えないようにしよう)


 気を取り直し、目の前の二人に向かって進もうとした時だ。前方を除く四方八方から、冷たい視線を感じた。


(いやいや、有り得ない。ここら辺はエネットさんが一掃したはずだ。マキだって言ってたんだ……)


 嫌な予感がする。僕は、おそるおそる後ろを振り向いた────

読んでいただき、ありがとうございます。

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