三十二話【嘆き】
「くそぉ……昨日治ったばっかなのに。もう少し寝たかったぜ」
「我慢するしかないよ」
重荷を任され、弱音を吐いているマストルだが、そんな言い訳は通じない。
僕たちは、エネットとを探し求めて足を進めている。
「ふんふんふーん♪」
美音はルンルン気分で先頭を突っ走っている。おてんば娘も扱いが大変だ。
しかしながら、昨日、美音が出した条件には驚いたものだ。
旅出の一日前の夜。僕とメイは旅出の許可を申請しに、王室へと出向いていた。
『……といった要件で、元王宮魔道士、エネット=ロウトネスをここにお連れする為、計画の決行を承認して頂きたい』
『……ふーん、まぁ妾は良いと思うぞ。その望みは叶えよう、旅の出を認める。しかし、条件を追加しよう』
『有り難き幸せです。……して、その条件とはなんなのでしょうか?』
『よくぞ聞いてくれた。その条件とは……妾もその旅へ同行させることじゃ!』
『『……えぇ!?』』
あの時の衝撃は今でも覚えている。特に、横で口が塞がらず、驚きの表情を浮かべていたメイの顔は印象的だ。
それ故、メイはその条件に猛烈に反対していた。
しかし、結局は権力の前に押しつぶされしまい、護衛兼荷物持ちのマストルの同行を条件に、美音も同行することが決まったのだ。
毎回、彼女のやることには驚かされていたが、ここまでになるとは思いもしなかった。
「しっかしよう、王宮は大丈夫なのかねぇ。ノベル様とバルディナス様じゃ、対立は避けられねぇぞ?」
女王が不在の王都は、国家代表大臣のノベルと、国の英雄バルディナスが仕切っている。しかし、この二人の思想は相反するもので、対立することも珍しくないのだ。
これに関しては、ノベルが美音を贔屓しているというものあるので、思想が似よってしまっているからだろう。
「大丈夫では無いと思うけど……信じるしかないよ。何があっても、美音様の意に反することは出来ないからね……」
「はぁ……結局こうなるんだよな」
マストルはため息をつく。僕もつられてため息をつく。こうしていなければ、やっていけない。心がもたないのだ。
「そこの二人、無駄口たたく暇があったら、美音様追ってきなさい。どっか行っちゃうわよ」
「「鬼畜ですって!」」
僕らは声を揃えて嘆いた。しかし、美音を見失う訳には行かないので、重荷を持ちつつ、その姿を全力で追いかける。
「もうなんなんだよぉおおお!俺一応怪我人なんだけどぉ!?」
「……マストル、泣くな。折れた方が負けなんだ。あの女王様相手にそんなモンじゃ通用しないよ」
「お前はヘヴン様専属だろが!」
叫び狂うマストルを静止する。叫んだって嘆いたって何も変わらないのだ。前世で学んだことは無駄ではなかった、そう心で思い、唸る足を今日も動かす。
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