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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第二章【ヘヴン編】
32/115

三十一話【ありがとう】

今回めっちゃ短いです。そして自分でも書いてることがめちゃくちゃな回。申し訳ない。

 

 春風が吹き始め、被りものも棚に片ずけるこの季節。僕は、王宮を出る準備をしていた。


 出ると言っても、職を捨てる訳ではなく、エネットを探す旅に出るためだ。ヘヴンの状態を回復させるためには、エネットがいた方が効率が良いらしい。


「おはよう、アルト。準備、できてるわね?」


「はい、済ませております」


 部屋の扉を開け、話しかけてきたのは侍女長だ。今回、王宮を出られるのはメイの許可と同行あってのものだ。


 しかし、条件はそれだけではない。


「かーいと!」


「ぐふっ!」


 旅用の服に着替えた美音が、僕の鳩尾目掛けて全速力で飛んできた。唐突の不意打ちに思わず声が出てしまった。


美音(みおん)様〜、危ないですって」


 奥からやってきた人物は、息を切らしながら美音を追っていた。


 誰かと思い、その影の先を見ると、あの時返事すらしてくれなかったマストルが、ピンピンしながらそこに立っていた。


「お前……なんでここに……?」


「ん?そりゃ美音(みおん)様専属使用人だからだよ、あったり前だろ。じゃなかったらなんでここにいるのか、俺が聞きたいくらいだぜ」


 衝撃と歓喜のあまり、声は死に、表情は固まってしまった。そこに立っているのは、確かに親友、マストル=ディーヴだった。


「……なぁ、お前の名前ってなんだっけ?」


「はぁ?お前何言ってんだよ」


 そう言われるのも無理はない。僕だってそう思っている。入宮当初から業務を共にしてきたマストルの名を忘れる訳が無い。


 当然、マストルは呆れ顔を見せていた。


「馬鹿なこと言ってないで、さっさと行く──」


「なぁ、このままにさせてくれないか?」


 旅出を急かすマストルを僕は呼び止める。そして、はてなの字を顔に浮かべるマストルに思いっきり飛びついた。制止など聞かず、ただ本能に従ってだ。


 いきなりの事態にマストルは困惑していたが、すぐに正気を取り戻し、僕を体から引き剥がそうとしている。


「おいおい、さすがにまずいだろ。誰かに見られたら勘違いされちまうって……」


「それでもいいよ」


 だが、本当にそれでも良かった。生きていてくれたんだ。王宮で唯一の友とも言える大切な人が。本当なら、ここで泣き叫びたいくらいだ。


 マストルは、相変わらず理解していない様子だったが、僕をそっと抱き返してくれた。


 暖かい。その温もりに、”生きている”というものを感じた。


 記憶が飛んでいたため、一時は忘れかけていたが、今こうして直面すると、自然と涙が溢れてくる。


「生きていてくれて……ありがどう」


「……馬鹿だな、俺は死なないよ。言ったじゃねぇか、俺はお前の味方だってよ。味方の俺が死んだら、誰がお前の味方になるんだよ」


 嬉しさのあまり、発音はまともにできていなかったが、通じていればいい。ただ、通じるだけでいい。


「のう、メイ。何故、奴らは抱き合っておるのだ?」


「……説明が難しいですね。指図め、友情と言った所でしょうかね」


「ふぅん……妾にもできるのかのう、友情とやらは」


 美音(みおん)の素朴な疑問に、メイは率直に答える。


「……それは美音(みおん)様次第ですよ」


 美音(みおん)は理解出来ていない様子だったが、僕たちの邪魔をするような行為はしてこなかった。


 しかしながら、僕たちは、今から旅をするという本題を完全に忘れていた。そして、それに気づいたのは、正午の鐘がなる時間だった。

読んでいただき、ありがとうございます。

評価やコメントがモチベに繋がるので、良ければそれらもよろしくお願いいたします。


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