三十一話【ありがとう】
今回めっちゃ短いです。そして自分でも書いてることがめちゃくちゃな回。申し訳ない。
春風が吹き始め、被りものも棚に片ずけるこの季節。僕は、王宮を出る準備をしていた。
出ると言っても、職を捨てる訳ではなく、エネットを探す旅に出るためだ。ヘヴンの状態を回復させるためには、エネットがいた方が効率が良いらしい。
「おはよう、アルト。準備、できてるわね?」
「はい、済ませております」
部屋の扉を開け、話しかけてきたのは侍女長だ。今回、王宮を出られるのはメイの許可と同行あってのものだ。
しかし、条件はそれだけではない。
「かーいと!」
「ぐふっ!」
旅用の服に着替えた美音が、僕の鳩尾目掛けて全速力で飛んできた。唐突の不意打ちに思わず声が出てしまった。
「美音様〜、危ないですって」
奥からやってきた人物は、息を切らしながら美音を追っていた。
誰かと思い、その影の先を見ると、あの時返事すらしてくれなかったマストルが、ピンピンしながらそこに立っていた。
「お前……なんでここに……?」
「ん?そりゃ美音様専属使用人だからだよ、あったり前だろ。じゃなかったらなんでここにいるのか、俺が聞きたいくらいだぜ」
衝撃と歓喜のあまり、声は死に、表情は固まってしまった。そこに立っているのは、確かに親友、マストル=ディーヴだった。
「……なぁ、お前の名前ってなんだっけ?」
「はぁ?お前何言ってんだよ」
そう言われるのも無理はない。僕だってそう思っている。入宮当初から業務を共にしてきたマストルの名を忘れる訳が無い。
当然、マストルは呆れ顔を見せていた。
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと行く──」
「なぁ、このままにさせてくれないか?」
旅出を急かすマストルを僕は呼び止める。そして、はてなの字を顔に浮かべるマストルに思いっきり飛びついた。制止など聞かず、ただ本能に従ってだ。
いきなりの事態にマストルは困惑していたが、すぐに正気を取り戻し、僕を体から引き剥がそうとしている。
「おいおい、さすがにまずいだろ。誰かに見られたら勘違いされちまうって……」
「それでもいいよ」
だが、本当にそれでも良かった。生きていてくれたんだ。王宮で唯一の友とも言える大切な人が。本当なら、ここで泣き叫びたいくらいだ。
マストルは、相変わらず理解していない様子だったが、僕をそっと抱き返してくれた。
暖かい。その温もりに、”生きている”というものを感じた。
記憶が飛んでいたため、一時は忘れかけていたが、今こうして直面すると、自然と涙が溢れてくる。
「生きていてくれて……ありがどう」
「……馬鹿だな、俺は死なないよ。言ったじゃねぇか、俺はお前の味方だってよ。味方の俺が死んだら、誰がお前の味方になるんだよ」
嬉しさのあまり、発音はまともにできていなかったが、通じていればいい。ただ、通じるだけでいい。
「のう、メイ。何故、奴らは抱き合っておるのだ?」
「……説明が難しいですね。指図め、友情と言った所でしょうかね」
「ふぅん……妾にもできるのかのう、友情とやらは」
美音の素朴な疑問に、メイは率直に答える。
「……それは美音様次第ですよ」
美音は理解出来ていない様子だったが、僕たちの邪魔をするような行為はしてこなかった。
しかしながら、僕たちは、今から旅をするという本題を完全に忘れていた。そして、それに気づいたのは、正午の鐘がなる時間だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
評価やコメントがモチベに繋がるので、良ければそれらもよろしくお願いいたします。




