三十話【決意】
ついに三十話突破!
医療室へと緊急搬送されたヘヴンは、今現在、王宮内の全医療機関をもっのて治療を受けている。
僕とメイは、医療問題に関与できないので、医療室の外で待機している。
「昔から変わらないわね、あのお嬢は……」
メイは静かに呟く。昔からということは、過去にも同じような事例があったのだろうか。
「侍女長、ヘヴン様が倒れた理由について、何かご存知なのでは無いのですか?」
僕の素朴な質問に、メイは鋭い眼光を向け、拒否の意を示していた。しかし、何度か質問を続けると、折れてくれたようで話をしてくれた。
「君はヘヴン様と直接関わっているから、あまり言いたくはなかったのだけれどね……。恐らくだけど、ヘヴン様の力については知っているわね?」
「はい、簡単にですが”状態修復”と言っていました」
僕の説明を聞いたメイは、呆れの表情を見せていたが、落胆している訳では無いようだ。
「ヘヴン様も随分と大まかな言い方をしたものね。まぁ、私が説明しなかっただけなのだけど……。ただ、一つだけ言える事として、お嬢様の本来の力は、そんな言葉で表していいものじゃないわよ」
メイの話す態度は、以前としてあっさりしている。口調にも、その適当さが滲み出ていたが、彼女の言葉から間違えは感じられない。
しかし、いくら真面目に言われても、説明してもらわなければ、分かるものも分からない。僕はさらに説明を求めた。
メイは、次こそ断ってやろう、と断固拒否の威勢を示したが、結局、僕の圧に押され諦めたようだ。
「ヘヴン様の力は、言えば”全てをその状態から思い通りにする力”なのよ」
「それと今回の件について、どんな関係があるんですか?」
「……この力の最大の特徴は、自分の意のままに状態することなの。しかも、その力によって決定された状態は元々からの”事実”として扱われるから、修復や巻き戻しによる復元機能が意味をなさないの。だけど……」
「……だけど?」
「この事実の効力は、代償にも有効なのよ」
代償という言葉を聞いて、メイが言いたいことは全て理解出来た。ヘヴンの力の代償は、何かを犠牲にすること。つまり……
「ヘヴン様の力の犠牲になったものの影響は永遠に治ることは無い、って事よ」
分かった瞬間、体の力が抜けてしまった。先程、メイの力でもそれが治せない理由が分かった気がした。
「それって、つまり……」
「そう、ここでいくら治療しても無駄って事。倒れた理由としては、昔、ヘヴン様のお父上に当たる先代国王エドマスに力を使ってしまった。その時の代償が、古傷として今回ので掘り起こされたってところね」
「そんな……では、助かる可能性は……」
「決してないとは言えないけど、可能性としては非常に低いわ」
ただ無情に告げられる事実に、泣くことすらできなかった。本能で拒絶しているのだろうか、僕の思考は事実を受け止めるまでに至らなかった。
頭の中は、既にヘヴンのことでいっぱいいっぱいだった。
「……ヘヴン様の言うことって、よく当たるわね。まさか、こうなることまで想定してたとでも言うのかしら。ほんと、子供といえど、侮れない人だったわ」
メイはまた静かに呟いた。だが、その言葉が僕に届くことはなかった。
*
時は経過し、辺りは暗闇で満たさせていた。僕たちは、擬似的な護衛を称して、医療室の外で待機している。
緊急搬送からはや六時間、ずっとここで様子を伺っているが、反応はない。
メイはほとんど居眠り状態だが、僕は徹夜してでも、彼女の報告を待つことにしている。この事態は、僕のせいで引き起こされたものなのだから。
小一時間前の会話が、頭の中に蘇る。僕は、このことをメイから聞いた時に、全てを理解した。
『ヘヴン様は、貴方を信じて力を使ったの』
その一言は、僕の心に大きなヒビを入れた。重すぎる代償と知りながらも、躊躇なく力を使う。まさに、彼女らしい行動だ。
「だけど、それで君が死んだら、意味ないじゃないか……」
一端の使用人のために、命すら捨てる。とても素晴らしいことをしている筈なのに、僕は、それを良しと思うことができない。
ヘヴンはまだ七歳の子供なのだ。まだまだ未来がある若い才能の芽なのだ。僕のなんかのために、死んでいい人ではない。
「……失礼、護衛の方ですか?」
ふと、声のする方に顔を上げると、医療班の関係医師が立っていた。どうやら集中治療は完了したようだ。
僕は、隣で寝ているメイを起こし、医師の話を聞いた。
「結果から言いますと、ヘヴン様は生きています」
「本当ですか!?」
「ええ。ですが、決して安心できる状態とは言い難いです。現時点で回復する可能性は、非常に低いと推測しています」
生きている。その言葉を聞いた僕には、安堵の表情が浮かんだ。激しく振動を繰り返していた心音も、一時的な和らぎを見せていた。
「あらかた予想通りね。今は昏睡状態と言ったところかしら?」
「はい。治療開始から六時間の時が経過しておりますが、意識はない状態です。恐らくこのままでは……」
「永久に目を覚まさないかもしれない……って事ね」
医師は静かに頷いた。それは当然のことなのだろう。過去にも重病を消滅させるほどの改変を行っているので、生命力は大幅に削られているはずだ。
それに今回の死者蘇生が加われば、死んでもおかしいとは言えない。
「何か助ける方法はないんですか?」
だが、希望は捨てられない。僕は、復活の可能性を医師に追求した。しかし、医師は方法は見つかっていない、と首を横に振った。
しかし、マキは諦めてはいない様子だった。何か奥の手があるのだろうか、医師に相談を持ちかけている。
「医師、質問いいかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
「エネット=ロウトネスがいれば、何とかなりそう?」
「あの魔導王の事ですか!?……確実とは言えませんが、可能性は大いに高まります」
「そうなの。なら、やる事は一つね……」
メイは、チラリとこちらを見た。
その時、僕はどんな顔をしているのか、自分では分からなかった。しかし、メイはあまり良い反応を見せてはいなかった。
「至極当然みたいな顔して……。明日から大変ね」
それから、メイは一息吐き、医師に全てを説明した。
医師は、驚愕しながらも、その事実を信じてくれた。これで、準備は整った。
「アルト、そんなに事を急ぐ必要はないわ。実行は明日、私と貴方だけでエネットを探しに行くわよ」
僕は静かに頷いた。僕の意思は、既に決まっている。
どんな手段を行使してでも、ヘヴンを救う。そのためなら、僕は命だってくれてやる。
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