二十八話【夢?】
フリガナのやり方分かったので、過去話も含めて訂正していこうと思います。遅くなってしまって申し訳ございませんでした。
「うグッ!」
ベットから落ちた僕は、ようやく意識を取り戻した。
荒くなった呼吸を整え、顔をあげると、そこにはびっくりした様子で僕を見るヘヴンの姿があった。
見慣れた部屋、無傷の体。どうやら、先程までの出来事は夢だったようだ。
「びっくりしたわ。突然呻きだしたと思ったら、ベットから落ちてきたんですもの」
「……大丈夫ですよ。心配には及びません」
心配してくれるヘヴンを安心させるため、その場しのぎで応えた。
しかし、夢で起きたことは鮮明に覚えている。あの時の感覚。肉が弾け、声を出すことすら遠く叶わなかった絶望、僕を嘲笑うあの男たちの声、全てだ。
思い出すだけでゾッとする。
「……ほんとうに大丈夫?顔色悪いわよ?」
「はは、少し悪い夢でも見てたんでしょうかね。なんだか震えか止まらなくて……」
つい言葉に出してしまった。思考がまともに働かない。あの夢を思い出すだけで体が震える。僕は、その場にうずくまった。
その様子を見たヘヴンは、僕を抱きしめた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……私はその夢を見ていないから、貴方の気持ちは分からないわ」
当たり前だ。この気持ちが分かるわけが無い。友は目の前で失い、異形質は正常に機能しない。仕舞いには爆死という有様だ。
例え、これが夢であっても、心が壊れない方がおかしい。
「でも、怖かったんでしょう?そういう時は、私を頼りなさい。主人として、従者を支えるのは当然よ。大丈夫、何も怖がることはないわ」
頼りない言葉だった。僕より幼くて、まともに戦うこともできない少女が僕を守るなんて、できるわけがない。
分かりきっているはずなのに、どうしても、その言葉に縋りたくなる。守って欲しい。助けて欲しい。
「……ヘヴン様は、僕を助けてくれるんですか?」
僕の心は、この言葉を望んでいたのかもしれない。
「当然じゃない。私が、貴方を守るもの」
その瞬間、心の曇りは消え、解き放たれたような気持ちになった。
僕は、無意識にヘヴンの胸に飛び込み、彼女に縋るように、大声で泣いた。瞳から溢れる大粒の雫は、僕の感情を洗い流してくれた。
「ふふ、なんだか弟みたいね」
ヘヴンの笑い声が聞こえる。だが、この笑い声は、あの男たちの笑い声とは違う。僕を支えてくれる、慰めてくれる、明るい光そのものだ。
このまま一生を過ごしてもいい。そう思った瞬間、部屋の扉が勢いよく飛んだ。
「お嬢様!どうされましたか!?何やら男の嘆き声が聞こえ……」
顔を起こし見てみると、そこには、何やら急ぎの様子で息を荒らげているミナルが立っている。
ミナルは、僕たちの姿を見ると、少しほっとため息をつき、ズカズカと部屋に入り込んできた。
「また貴方なの!?最近休みが多いと思ったら、お嬢様をこんな大胆な方法で……!」
「い、いや、違うんですよ!これには訳があってですね……」
「問答無用!このことは、メイ様に報告しますからね!」
「それだけはお許しを……」
ミナルは、僕が何かしらやらかしたりすると、すぐにメイに報告してくる。その度、僕は二時間ほどの正座と説教を強制されるのだ。
涙目で許しを懇願したが、彼女には届いていない。今回も地獄を見るのかと落ち込んでいると、ヘヴンが強気に口を挟んだ。
「やめなさい。無礼も何も、これは私が望んだことです。問題はありませんよ」
ミナルの行動を止めようとしているヘヴンの背は、より輝いて見えた。いつものお転婆天然お嬢様とは違う、凛々しく、クールな一面が顕になったのだ。
ミナルは負けじと断ろうとしていたが、その圧に押されたのか、渋々許しを受け入れてくれた。この国で女王権限に逆らえるものは実質居ない。
「お嬢様が言うならば問題はありません。身勝手な行動をどうかお許しください」
「大丈夫よ。今回は私が誤解を招くような状況を作ったのだもの。貴方は悪くないわ」
ヘヴンから許しを得たミナルは、いつも通り持ち場へと帰って行った。一時の難を逃れた僕は、ヘヴンに謝罪の言葉を告げた。
「申し訳ありません、お嬢様。専属使用人として情けない限りです。この失態をどうかお許しください」
「いいわよ。別に褒めらても嬉しいとかそんなんじゃないから……」
「ヘヴン様……」
分かりやすい誘いだ。謝ったことに関してはどうでもいいのだろう。しかし、助けてもらったのは事実なので、ここは彼女の意を尊重すべきだろう。
「ありがとうございます、ヘヴン様」
「敬語がだめね。次私との前で敬語使ったら、解雇にするわよ」
「はは、分かったよ……。ありがとう、ヘヴン」
これが、今できるありったけの感謝だ。これ以上できることは、いつも通り彼女と接してあげることくらいだ。
「まぁまぁ上出来ね。じゃあ、その調子で今後も頼───」
「ヘヴン様!アルトは大丈夫ですか!?」
ヘヴンが台詞を言い終えようとしたその時、入口からその声は聞こえた。
「荒伽じゃないか。どうしたの?」
その声の主は、僕と同じヘヴン直属の使用人、荒伽 天輔だ。普段は落ち着きのある好青年なのだが、やけに焦っている様子だった。
「アルト……!良かった、お前は生きててくれたんだな……!」
その発言に違和感を覚えた。”生きててくれた”とはどういうことなのだろうか。その真意を確かめるべく、荒伽に質問を投げかけた。
「生きててくれた?一体どういう──」
「アルト、少し黙っておれ。それより荒伽、貴方がここに来たということは、そういうことなのか……?」
しかし、僕の質問は荒伽に届くことなく退けられた。話に割り込んできた ヘヴンは、深刻な口調で何かについて話していたが、その言葉から表される感情は、怒りではなかった。
「……非常に申し上げにくいのですが、その通りでございます」
荒伽は深刻な顔で告げる。
「そうか……ご苦労であった。少し下がって貰えぬか?アルトには、私から説明しておく」
「承知致しました」
荒伽は要件だけ伝え、何処かへと去っていってしまった。ヘヴンは頭を抱え込んで、何か独り言を呟いていた。
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