二十七話【足掻く】
前に指す光に進む僕たちは、後ろの男を伺っていた。このまま、僕たちを目撃したあの男を生かして帰す訳にはいかない。
「……分かってるよね?」
マストルに小声で問いかける。マストルは了解した と表すように頷く。
だが、敵はあれでもノトス隊の兵だ。最後まで油断はできない。
「もう少し進んだら決行だ。一回で決めるよ……!」
「おおよ!」
お互いにコンタクトを交わし、襲撃の準備は万端だ。そう考え、出口へと続く曲がり角を進んだ。その時だった。
突如として、歩いていた地面が光を放つ。
しかし、マストルはその光に気づいていない。
「マストル危ない!」
「……へ?」
次の瞬間、光は衝撃へと変換され、壁が粉砕されるほどの爆発と爆風を放つ。
「ガハッ!」
その衝撃に巻き込まれた僕は、通路の壁に吹き飛びされた。
「マス、ト、ル……!」
舞う爆煙の中、その姿を必死に探した。しかし、いくら呼んでも返事はなかった。
「フォー!派手だぜ!こいつぁ二人とも逝ったかぁ!?」
すると、先程辿ってきた道から声が聞こえた。しかし、それは先程案内役をしてくれた男の声とは異なっている。
その道から出てきたのは人物は、服装は同じだったが、違う姿をした男だった。男は僕に指を差し、バカにするかのように笑った。
「おい、見ろよ!生き残ってやがんぜ!今ので死ねたら楽だったのによぉ」
腹を抱えて笑い転げる男。完全に油断している。
「ヘイヴ、余計な煽りは止めろ。聞いててイライラするのは俺の方なんだ」
その気配の正体は、先程、僕たちをここまで案内してくれた男だった。雰囲気は先程の楽観的なものと異なり、ゆるりとした口調も変異していた。
「なんで……こんな事を……!」
辛うじて生きていた意識を振り絞り、必死に問いかけた。
案内役をしていた男は、僕の方を見て、話を始めた。
「はは……主らが俺ちゃんの巧妙な誘いに乗ってくれただけの事よ」
男は、急に口調を戻し、ゆらりとして態度を見せてくる。どうやら、僕たちはあの男の手のひらで踊らされていたようだ。
「フゥ〜、ノーディラス君カッコイィ〜♪」
「黙れ殺すぞ」
最悪だ。数的不利な上、マストルは返信がない。オマケに体はボロボロで動かない。
「……もうやり合うしか」
意を決し、異形質を体に張り巡らせる。
しかし、身体が弱っているからなのか、異形質が足に進行するまでの速度は遅くなっていた。
「……ん?なんだその黒い痣は?」
ノーディラスと呼ばれていた男は、僕の痣に顔を近づけ、不思議そうな目で紋章を見つめた。
同様に、僕のことを笑っていたヘイヴと呼ばれている男も、その紋章を凝視している。
「……主よ、無駄な足掻きはやめなはれ。続けるならば、即刻斬り捨てますぞ?」
「そうだぜ?まぁ、どの道お前に逃げ場はねぇがな」
諦めて異形質を解除した。このままいっても、この二人の不意を着くことは不可能だ。
「賢明だな!理解が早いやつは好きだぞ!褒美に、俺がとびきり楽な爆死を味あわせてやろう!」
バカをいえ。こんな簡単に死んでやるわけが無い。
諦めまいと辺りを見渡すと、壊れている壁が違う通路に繋がっているのを見つけた。
「……あれなら……」
二人の視線が外れる隙を見計らい、全力で異形質を展開させる。体力を消耗してしまうが、今はそんなこと言っていられる場合ではない。
僕の足をいつもより大きく、黒い紋章が包み込む。足への負担は大きかったが、黙殺した。
二人はこちらに気づいていない。
チャンスは一度きりだ……!
「ぉぉおおおおおお!!」
即座にその場から立ち上がり、目標には向かって全力で走る。
その時、後ろから視線を感じた。
「捕まって……堪るか!」
死にものぐるいで別通路を目指した。
あと20m……
10m……!
ようやく辿り着いた……と安堵した瞬間、走っていた地が光に包まれる。先程の光景が脳裏に蘇る。
もう身体は反応してくれない。
血走った目で、後ろにいる二人を見る。片方は苦笑、片方は腹を抱えて僕を嘲笑っている。
なるほど、僕は最後の最後まで遊ばれていたって訳か。
「……はは、こんな……こんな所で……」
逃げたい。死にたくない。死ぬ訳にはいかない。そんな想いがチラつく。
「助けっ……」
伸ばした手は届くことなく、爆炎へと呑み込まれた。
読んでいただき、ありがとうございます。
評価やコメントがモチベに繋がるので、良ければそれらもよろしくお願いいたします。




