二十三話【行方不明】
最近書くのが下手になってきてるのに焦りを隠せない
「ダウトです」
「……正解よ」
僕達は、今まさに、ダウトの途中である。二人でダウトをやる時は、元の枚数から何枚か見ないで抜いて、ゲームを開始している。これなら、二人でも相手の手札が分からない。
大富豪から始まって早五時間。僕達は一心不乱にトランプをエンジョイしていた。
この五時間に及ぶまで、多くのトランプゲームを遊んできたが、今のところ僕の全勝である。昔、美音と遊んできた経験がこんなところで生きるとは、想像すらできなかった。
相変わらず彼女は弱いが、自分から止めるとは一言も口にしていない。何故負けが続いているのにここまで続けるのかと不思議に思ったが、彼女が続けると言っているので、ここまで続いている。
このゲームを通してわかったことは、彼女は全てが顔に出るタイプということだ。今やっているダウトでも、異なる数字のカードを出した時の顔が明らかすぎるのだ。おかげで、ダウトのタイミングが、すぐにわかってしまう。一見して冷静沈着な彼女にも、こういう側面があったことに驚きが隠せなかった。
「はい、5です。次、ヘヴン様の番ですよ……って、ヘヴン様大丈夫ですか?」
「うーん、大丈夫よぉ」
ヘヴンは寝ぼけていた。うつらうつらと首を縦に振り、今にも閉じそうな瞼をを必死に擦っていた。
「あの、無理しなくていいんですよ。もう時間も遅いですし、そろそろ寝ましょう?」
「いやらぁ、もっろ遊ぶろぉ」
もう言葉が言葉になっていない。意識がほぼないのだろう。
ヘヴンはそう言い終えると、その場に寝転んでしまった。完全に寝てしまったのだ。
この時間だと、ヘヴンを連れて王室に行く訳にもいかないし、今日はここに泊めていくことにした。
誤解に関しては明日解けばいいし、ヘヴンの任意でもあるから問題ないだろう。
一国の女王と言っても、中身は子供。ヘヴンと僕にあるのは、単純な生まれの差と、その才能だけ。そんなことを考えながら、ヘヴンをベットへと運んだ。
そっと、その体をベットへと落し、僕は椅子で寝ようとした。だが、そこから立ち去ろとした時、ヘヴンが僕の服の袖を掴んできた。
意識はないだろうから夢の中で何かあったのだろうか、彼女は少し怯えていた。
「嫌だよ。一人にしないで」
その台詞は、かつて僕が見た夢の中の少女が言っていた言葉に似ていた。
”一人は嫌だ”
僕も同じだ。孤独は何よりも嫌いだ。でも、今はそんなことにならない。孤独なんて、ここにいるだけで無くなるのだから。
だが、それは彼女も一緒のはずだ。では、何故彼女はそんな言葉を発したのか、僕の疑問は深まるだけだった。
そう思いながらも、 ヘヴンが掴んだその手を離すことは出来ないので、仕方なく一緒に寝ることにした。
王族以前に、自分より幼き少女と共に夜を過ごすというのは、今考えれば事件になりかねないことだ。だが、そんな考えは無理矢理押し殺した。気にしたら負けだ。
今は、ここにある幸せに溺れることにした。ヘヴンが握る手は、とても温かくて、僕を癒してくれた。
*
僕が目覚めたのは朝の4時30分、いつも通りの起床だ。ヘヴンは隣で寝ているので、そのままにしておくことにした。
起こすこと自体は7時でいいので、このままにしておいても問題はない。
そうとなれば、別の場所を手伝わなければならない。今はヘヴンがこの部屋にいるので、王室を掃除できる。それから別の持ち場を行き来する。
「じゃあ、行くか」
自らの頬を叩き、気合いを入れた。
朝早くから歩く大廊下は、相変わらず忙しさで溢れていた。使用人たちは大急ぎで何かに準備している様子だったが、知らせ等は来ていないので、あとから対応することにした。
ゆっくり歩いて五分ほどで王室に着いた。すると、突然扉が開き、中からマストルが出てきた。マストルは焦った様子で僕に問いかける。
「美音様見なかったか!?」
「いや……見てないけど」
「ちくしょう!どこ行ったんだ!」
尋常ではない焦り具合にを感じ取った僕は、一度話を聞いた。マストルはそれどころではないと言った様子だったが、話してはくれた。
聞いた話では、美音がどこかに消えたらしい。
マストルが、朝早くから美音の部屋に行って、いつも通り護衛の引き継ぎを行おうとした時だった。部屋の外にいる引き継ぎ予定の護衛が倒れていたそうだ。
その護衛は命に別状はなかったが、誰かに眠らされてしまった、と言っていた。
大急ぎで部屋の中に入ると、そこに美音の姿はなかったという。
「まぁ、つまりそういうことだ。俺は外を当たってくるから、お前も協力してくれ」
「分かった」
マストルは一度溜息をつき、走り去っていった。僕はその背を見送り、王宮内の捜索に取り掛かることにした。
しかし、丸一日捜索を続けても、美音が見つかることはなかった。
「これはまずいわね」
「あぁ、これは悪戯じゃすまない。事件との関わりも考えた方がいいのかもな」
この状況には、メイとバルディナスすら焦った様子を見せていた。これはただ事ではないのだ。義妹のヘヴンも義姉を心配していた。
「お姉様、大丈夫かしら……」
「大丈夫ですよ。美音様なら……」
これがもし、ただの失踪事件では無いとしたら、あと四年後に起こるはずの戦争の前触れが起きているのかもしれない。そう考えた。
この王国を裏切り、壊滅まで持ち込んだ男。持ち場は知っているので、そこに行けば何か分かるかもしれない。
「ヘヴン様、申し訳ありませんが、急用を思い出したので少し出掛けます。すぐに戻って参りますので、ここでお待ちください」
「え?ちょっと待ってよ。ねぇ!アルト!?」
僕はヘヴンの呼び止めを振り切り、ある場所へと向かった。
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