二十一話【ごめんなさい】
遅くなって申し訳ございません。明日は絶対に午前中に投稿しますので、許してください。
「んで、計画とかある訳?」
マストルは、僕の昼食のサンドイッチを頬張りながら問いかけてくる。
いつまでサボっているのかと気になったが、見つかった時の反応が面白そうなので、放っておくことにした。
「そんなのないよ。さっきも言ったけど、正規ルートじゃ、諦めオチで終わるからね」
領地争い勃発まで、あと四年と三ヶ月。僕達は、この期間内に全てを解決せねばならない。しかし、正規ルートである”裏切り者殺すルート”と”ヴァノズディア事前に潰すルート”では、成功は見込めない。第一、難易度が高すぎるのだ。
更には、僕とマストルにそこまでの戦闘経験がない。僕はともかく、マストルは運動面がからっきしで、ほとんど役に立たないのだ。
つまり、戦力は実質、僕一人である。
最後の望みにかけて、異形質についても話したが、「そんな力はない」と即答された。
今から鍛えても間に合うはずもない。つまり、正規ルートを通るのは無理だ。
つまり、本来の回避方にない”別ルート”を探さなければならないのだ。
「……という訳で、なにか案ないの?」
「ンなもんねぇよ。俺は策士様じゃねぇんだぞ?」
やはり、そう簡単には見つからない。
あの戦争は、ヴァノズディアが仕掛けてきたものだ。しかし、あの頃のヴァノズディアは、不足問題などは発生してなかったし、他国との貿易も行っていた為、ここを攻めなくても裕福な国だった。それが、何故無意味な領地戦争を仕掛けてきたのか。
しかし、ヴァノズディアの周りには弱小国家が連立している。その周辺国より裕福で、戦力があるこの国を攻めるのは、何かしら理由があるはずだ。
知略に長けているヴァノズディアが、理由もなく行動するわけが無い。そう思っているが、判断材料が少ないため否定はできない。
結局、何度脳内再生を繰り返しても、結果に至ることは出来なかった。
「まだ考えてるのか?少しはリラックスしねぇとパンクしちまうぞ」
「……マストルが呑気すぎるんだよ。この国が滅ぶんだよ?じっとしちゃいられないよ」
「でもよ、俺たち程度がヴァノズディアに干渉できると思うか?少しは待った方がいいと思うぜ」
その言葉に納得してしまった。確かに、明確な作戦もないのに悩んでもしょうがない。ここは協力者を増やすことを優先すべきだ。
「まともな事いえたんだな。お前」
「こんなの当たり前だy」
コンコンコン
マストルが調子良さげに笑ったその瞬間、部屋の入口から音が聞こえた。誰かが扉をノックしているのだ。
その正体はすぐには分からないかった。
だが、マストルの焦る姿を見て、その正体は容易に想像できた。
ドンドンドン
音は次第に強くなる。
マストルの顔が青ざめていくのが分かる。仕事をサボったツケがようやくやってきたのだ。
ドンドンドンドンドンドンドン
回数は増える、音も大きくなる、マストルの震えは止まらない。扉も限界を迎える勢いで悲鳴をあげている。
そしてついに、扉の向こうの侍女長が口を開いた。
「マストル、いるんでしょ?先程から話は聞いていますよ?」
メイは、先程から話を聞いていたことをカミングアウトした。それを聞いたマストルは絶望し、諦めモードに入っていた。もう誤魔化しようがない。
マストルは、見るに耐えない表情で言った。
「アルト、今までありがとな。俺、もうダメみたい」
その姿見た瞬間、思わず顔を抑えてしまった。いつもとのギャップの差が凄すぎて、堪えるものも堪えられない。
しばらくすると、突然入口から風が吹き抜けてきた。鍵は閉めていたはずだが、開けられてしまったようだ。本当にどこまでも隙がない人だ。
「はーい、いつまでも開けてくれないから開けちゃったよ。勝手に開けちゃってごめんね、アルト」
空いた隙間から現れた顔に、一瞬絶句した。確かにこれは怖い。
マストルは僕の足にしがみつき、絶対ここから動きませんとアピールしていた。
だが、メイにそんな足掻きは無意味だ。結果、僕の足に必死にしがみついていたマストルは、突如として抵抗をやめ、メイに投降した。
これは、メイが持つ異形質の力の一端だ。
「対象の形質を上書きする」
因果すら歪ませるこの力は、リスクこそあるが強力なものだ。
この力の正体は知られていないため、王宮内では”侍女長の力”と呼ばれている。(バルディナスにはバレている)
先程、突如としてマストルがメイに投降したのは、”メイから逃げたい”という意思の形質を上書きされたという事だろう。ハッキリ言って怖い。
メイは、投降してきたマストルを一撃で気絶させると、地に引きづりながら去っていった。
ごめんな、マストル
心でマストルに謝っておいた。侍女長に逆らう力はないので諦めるしかない訳だが、少し申し訳ない気持ちになる。
マストルが去っていき一度落ち着く時間が出来たので、一度寝ることにした。考えすぎで疲労が溜まった体は、すぐに眠りについた。
*
「ん〜、よく寝た」
何時間寝ていたのか、辺りはすっかり暗くなっていた。恐らく夜の八時くらいだろう。寝始めが朝の九時ここまで寝るとは思いもしなかった。
暗くてよく見えないので、灯りをつけようとベットを降りようとした。
「ん?」
何か柔らかい感触が手に現れた。初めての感触だ。見えないでしばらく押したりしていたが、やはり正体が気になった。
一旦、ランプに灯りをつけ、その場所を照らした。すると、そこにいたのは想像すらしなかった人間だった。
「え?なんで君がここに───?」
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