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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第一章【王宮編】
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二十話【協力者】

「ふぅ、なんだか疲れがどっと来たな。まぁよくもここまでやってこれたもんだ 」


 気づけば、王宮の仕事について三ヶ月が過ぎていた。


 今日は自由日ということで、業務が休みとなっている。一年に一日だけある特別日だ。僕は、自室のベットに横たわり、考え事をしていた 。


 普段から大人しいヘヴンの世話は、前世で専属していた美音の時より格段にやりやすい。


 ただ、たまにちょっかいを掛けてきたり、追いかけてくることがあるので、ことある事にそれを回避しなければならない。前世の美音に比べればまだ良いのだが。


 美音との関係性も良いものとなってきた。あの事件をキッカケに、美音が僕に関わろうとしてくれるようになった。

 仕事の最中に、部屋に連れていかれ色々とされてしまうという問題点はあるが、関係性を作れただけ良い、という事にしている。


 だが、3ヶ月も経つと、本来の目的を思い出した。このタイムリープが何のために起きたのか。


 ”最悪の未来を変えるため”


 美音を裏切り、王都を混乱へ巻き込んだアイツら。今のところ確認できている裏切り者は、将軍ノトス=ロズ=ヴァルトだけである。


 彼は、前世から野心家として名高い人物だった。それは今生も変わらない様子だ。今も、いつ美音を裏切ってやろうかと企んでいるのだろう。


 前世では、今から約四年後。隣国の王都ヴァノズディアとの領地争いが起きる。その争いは約一年ほど続き、その最中で裏切りが起きた。ここまでが前世の流れだ。


 ここから未来を変えるには、ヴァノズディアとの争いを未然に防ぐか、将軍を含む裏切り者を殺すのが主な条件となる。


 この国の今後の安定を取るなら、裏切り者全員を殺すのが最善手だが、僕にそんな力はない。今裏切りが判明しているノトスでさえ、腐っても将軍だ。僕みたいな、剣術をちょっと触った程度の少年に負けるわけがない。


 となれば、ヴァノズディアとの争いを未然に防ぐという選択肢になってくるが、その選択肢はもっと過酷なものだ。


 ヴァノズディアは、こちらに比べればそんなに恵まれている訳ではない。領地だって、ここの十分の一ほどで、戦力はそれ以下に過ぎない。

 だが、戦乱のこの世で生き残っている。それだけ知略と兵略に長けている国なのだ。

 それに、あの国には異形の力を使うものが数名いると噂されている。僕程度の戦力、数名送り込むだけで鎮圧はされるだろう。


 つまり、どちらの選択肢を選んでも、未来を変えるに至る可能性は限りなく低いという事だ。


 打開策は、今のところ全くない。


 頼れるものも当然居ない。僕以外に、その未来を知るのもがいないからだ。

 ここで何を言おうが、冗談レベルで話が終わってしまう。頼るれるのはエネットやマキくらいだが、彼女たちまで巻き込む訳にはいかない。


 コンコンコンッ


 扉からノック音が鳴る。誰かと思い、一旦覗きレンズを見た。

 マストルだ。何故自由日でもない彼が僕の部屋に来ているのか分からなかったので、とりあえず部屋に入れた。


「よう親友!自由日楽しんでる!?」


 明るい声で言う。人が深刻な悩みを抱えているとも知らず、呑気なものだ。


「いいの?仕事サボったら、また侍女長に怒られるよ」


「だからここに逃げてきたんだろ?さすがの侍女長も、アルトの部屋にいるとは思わねぇよ」


 本来は優秀な人材なのに、こういう悪知恵が働くから評価されないと気づいていないようだ。豚に真珠と言ったところだろう。


「ところでよう。さっきからブツブツ一人で言ってたけど、何やってたんだ?お前が考え事をするのは珍しくないけど、今回はお気楽なもんじゃなさそうだし」


 その発言に驚いた。マストルみたいな鈍感なやつでも、僕の心境を読み取ることが出来るのだと、少し感心してしまった。


「ん?今、俺のことバカにした?」


 バカにしたといえば間違いではないが、一応「してないよ」と答えておいた。

 極力、面倒ごとは起こしたくなかった。


 しかし、問題は解決していない。マストルの訪問により、本題から話がズレたが、今の僕には”仲間”が必要だ。


 僕一人では立ち向かえない敵でも、僕と同等、又はそれ以上の仲間が一人いるだけでも、成功率には天と地ほどの差がでる。

 しかし、思い当たる節はない。侍女長は事情を知っているとはいえ、協力はしないと言っていた。ミナルに至っては、信じてすらくれないだろう。


「………」


「おい、黙り込んでどうしたんだよ?また考え事か?」


「いや、ごめん。ちょっと黙ってくれ……」


 いや、居る。安直で、ある程度友好関係を持っていて、僕を信じてくれる存在が。


「ねぇ、マストル。今からとても重要なことを君に伝えたいと思うんだけど、いい?」


「重要なこと?いきなり真剣だな。いいぜ、多分だけど、秘密にしてくれとか言うんだろ?」


 のみ込みの速さだけは異常だと思っていたけれど、ここまでとは思っていなかった。こんなにアッサリ話を聞いてくれると思ってはいなかったので、少し怖かった。


「話が早い。じゃあ、話すよ───」


 僕は、今まで起こったタイムリープの事、将軍の謀反のこと、この王国の未来を全て偽りなく話した。

 マストルは、少し驚いていたが、全てを真摯に受け止めてくれた。


「──へぇ、あの将軍様が裏切り者…ね」


「理解し難いかもしれないけど、全部事実なんだ」


「はは、この王国がそんな簡単か……。少し信憑性に欠けるな」


 当然の結果だ。タイムリープなんて、本来は存在しない。異形質の存在すら知らないマストルに、まともな説明はできない。信じられないのはしょうがない。


 やはり、無理があったのだ。


「ごめん、信じられるわけないよね。今の話は忘れて……」


 諦めて話を逸らすことにした。だが、マストルは僕の台詞に割って入り、言葉を続けた。


「確かに、普通の人が言ったら信じられない。だけど、お前がそこまで真剣になってるってことは、その言葉に嘘はねぇ。誰よりも真面目なお前だもんな、俺は信じるぜ?」


 意外すぎる返答に、一瞬思考が停止した。本当に信じてもられるとは、夢にも思わなかったからだ。


「本当に……?僕を信じてくれるのか?」


「当たり前だろ?俺は王宮中の誰よりもお前を理解してると思ってる。だから、お前が言いたいことも全部理解できるよ。今のお前は、嘘をつく時の顔じゃねぇしな」


 嬉しくて涙が溢れてくる。タイムリープして一番嬉しかったことかもしれない。


 僕を理解してくれる人がいた。


 これだけで、僕の心は救われた。もう、一人で戦う必要ない。孤独になる必要はないのだ。そう思うだけで、救われた気がした。


 僕は、その勢いでマストル目掛けて飛び込んだ。勢いが強すぎて、前頭部が腹部にクリーンヒットしたマストルはダメージを食らっていたが、僕を優しく抱きしめてくれた。


「ありがとう、マストル。僕、初めて救われたかもしれないよ」


「はは!当然だ。俺は、いつでもお前の味方だぜ」


 これからどうなるのか、僕には想像がつかなかったが、マストルとなら乗り越えていける。そう思えた。

読んでいただき、ありがとうございます。

評価やコメントがモチベに繋がるので、良ければそれらもよろしくお願いいたします。

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