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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第一章【王宮編】
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一話【Brand new day】

今話は三人称視点で行っておりますが、次話からは一人称になります。

 なんの変哲もないある日のこと、この世の全てを司るあらゆるものの祖先にあたる原初がこの世に降りた。


 天変地異すら静まり返るほど影響力を持つ衝撃は圧倒的で、誰もがその出現に心を奪われた。


 神々しく果てしなく続く原初の軍勢は様々な方を用いてこの世の全てを手中に収めた。生きとし生ける全ては平等に原初に跪き、逆らうものは誰一人として存在しなかった。


 かくしてこの世を統べた原初は自らが統率せし国家を設立し全ての地を自らの元に収めた。原初はその地に存在していた有力な者を集め、百の国を設立し、各国を収めよとの命を下した。


 各国の王たちは自らがこの世を統べる為に多くの犠牲と時間を費やし、その勢力を拡大していた。

 その都度に起こる他国同士の戦ではさらなる犠牲と多くの悲劇を産み、醜い発展欲を抱えた王共はそれらを尻目に自らの欲望の元に進み続ける。


  そんな平和とも言い難い時代に、今日もふたつの命が産み落とされた。幾度もなく生まれ消えるを繰り返す戦乱の世の中に放たれたこの命の雫は今後の世を多く変えることとなる。




 *




 ある初春の日だった。世には冬風が吹き抜け、布を羽織っても少し肌寒く感じるほどだ。ひとつの命を引き換えにふたつの命がこの世に産み落とされた。


 辺鄙な田舎の家庭に生まれその赤子は双子として生を受けた。透き通ったその瞳は全てを見透す深さが宿っていた。体躯は一般よりも小さかったが、赤子とは思えない何かを纏っていた。


  その双子は兄の名を”歌絲(かいと)”、妹の名を”美音(みおん)”といった。


  神すら見とれるその美しい容姿を持って生まれた双子は「神の御使い」と呼ばれ、村のものたちはその双子を珍しがった。


 珍しい双子の噂は瞬く間に広がった。近隣の貧民街を通じて噂は風に乗って広がっていき、ついには王都にまで繋がった。民の口話を耳の端に聞き入れた王は半信半疑ながらその噂に興味を示していた。


「ふむ……原初様以外にそう呼ばれるものが居ろうとは……半ば信じられんがこのまま放っておくことはできんの」


 肥えた体を王座に落とすと、王は頭を抱えた。


 崇拝する原初以外にそう呼ばれるものを従えるということは、例え赤子だとしても他国家への権威の差を見せるものとしては十分だった。


 だがまだ完全にそれを信じられず、悩みを捨てきれなかった。


「うむ……情報が少ないの。おい夜路(よるみち)夜路(よるみち)はおるか?」


「はっ、ただいま参上しました」


 王の呼び寄せに応じた男はこの国の暗部の軍団長だった。

  男は物音一つ立てず王の前に平伏した。


「何なりとご命令を……」


「うむ。そなたをここに呼んだのは他でもない。今平民どもの間で噂されている珍しい赤子のことだ。儂もその噂を耳にしたが非常に興味があってな?ただ情報が少ないのでまだ半信半疑であるのだ。そこでそなたにはその情報を集めて来て欲しい。期間は設けん、儂の前に十分な情報を持って来るのじゃ」


「承知致しました」


 夜路(よるみち)は王の話を聞き入れると深く頷き、音もなくその場を去っていった


 王は再びその体を王座に落とすと不敵な笑みを浮かべながら呟く


「こりゃ面白いことになりそうじゃわ……!」





 *




 


「あのバカガキどもどこ行きやがった…

 今日こそ捕まえねぇとさすがにやばいぞ……」


  ある雑貨屋の店主はボソボソと呟く。村中を走り回って疲れている様子だった。


 夏の猛暑は加減を知らないのか、容赦なくその地を照りつけていた。


 その暑さに参った様子の雑貨屋の店主は首に掛けていたタオルを手に取り、汗を拭った。


「店長ぉ、もう諦めましょうよ」


「そうだぜ。あいつらいつになっても捕まらねぇよ。ガキのやったことだし許してあげましょうぜ」


  店主のあとから続いてきた雑貨屋の従業員達は口々にそう嘆いていた。中には暑さに耐えきれず膝をつき、動くことを拒否する挙動を見せるものもいた。


「うるせぇ!!それでも俺の部下か!!

 悪いことは悪いって思い知らせてやらんといつまでも続くだろうが!!!」


 店主のいつもの言葉に呆れた従業員一同は全く同じ考えていた。

 毎度同じことだけを言っているがそれだけで何故ここまでやって行けるのか と。


「ふははは!どうしたんだい?そんなに疲れた顔して。まさか僕らみたいな子供すら捕まえられないのかなぁ?」


「そうよ!ほんとにダメな人たちねぇ」


  崖の上から雑貨屋に向けて叫ぶ声が聞こえる

 まるで雑貨屋一同を見下すような堂々とした様は見下されている雑貨屋一同の視線を奪った。


 その視線の先にいたのは今年で七歳になる双子の兄妹だった。2人の態度はどうしようもないほど生き生きしており、雑貨屋一同は完全に遊ばれていた。


「ふざけんなァ!てめぇらがいつもウチのモン盗ってくから追いかけてるんだろうが!」


 完全に見下されていることにイラついたのか、店主はその叫び声よりさらに大きな声で怒鳴った。


  店主お決まりの台詞に従業員一同は一斉にため息をつき、呆れた表情で額に手をやった。このやり取りは毎日のように行われているので見飽きてしまったのだろう。


「ガキども!そこを動くんじゃねぇぞ!」


  店主は汗を拭ったタオルを投げ捨てると再度双子を見て確認し、鼻息を荒くしながら崖に続く道を駆け上がっていく。


  一心に自分達を追いかけてくる店主の姿を双子を笑いながらみていた。


 余裕そうな表情でその場に鎮座している所を見れば、追いかけている店主がいかにも無駄なことをしているのかがよく分かる。


「そろそろ来るな。美音(みおん)、逃げるぞ!」


「うんっ!」


  奮起した店主が崖にもう少しで到達する所をみた兄の歌絲(かいと)は笑いを抑えながら妹の美音(みおん)を引き連れ、逃げようとした。


「おいっ!ちょっとストップ!!」


  突然の呼び止めに一同は足を止めた。

 急ぎ足で現れたその声の主はこの村で新聞屋をしている情報委員のおじさんだった。


 急ぎ足で現れたおじさんの様子は明らかにおかしく、尋常でないほど焦っているように見えた。


「なんだよおじさん。用がないなら早く逃げたいんだけど……」


  何となく雰囲気を察したのか、誤魔化すようにその場を離れようとした歌絲は適当な返事を返した。だが、伝わってくる焦りは嫌な予感がした。


「大変なんだ!このままだと美音が王都に連れ去られちまうかもしれねぇんだよ!!」


 !?


  一瞬にしてその場は凍りついた。


  誰もがその言葉を受け流すことができず沈黙を余儀なくされた。いきなり過ぎる朗報はその場の雰囲気を凍らせた。


  その深い沈黙の中から咄嗟に動き出したのは歌絲(かいと)だった。


 崖を一気に駆け下り、情報委員のおじさんの胸ぐらを掴み、怒鳴り散らした


「どういうことだ!美音が王都に連れてかれる!?なんでだよ!!」


「俺も知らねぇよ!ただそういう噂が王都で噂されてるんだよ!!」


 この凶報で一番衝撃を受けたのは他でもない歌絲だった。いつも一緒に過ごしてきた妹が連れさられるなんて……齢七歳歌絲(かいと)には想像がつかなかった


  あまりにも受け止められないその事実に歌絲(かいと)は地に膝をついてしまった。心は崩壊寸前、頭を抱えようにも情報の処理が追いつかず、そうすることすら叶わなかった。


 そんな歌絲(かいと)を見た美音(みおん)は、その傍に駆け寄った。


「いや…大丈夫だよ……嘘に決まってるよ。

 だってこんな私をさらおうとするなんて有り得ないよ。だからそんな落ち込まないで。」


  美音は妙に冷静だった。今の自分の状況を理解できていなのだろうか、歌絲には全く理解できなかった。


「……お前はなんでそんなに冷静でいられるんだよ。ここから連れ去られるかもしれないんだよ!この村にいられなくなるかもしれないんだよ!!それでもいいの!?」


  既に冷静さを失っていた。受け止められない事実と現実に拒絶反応を示したのか、完全に心がマイナスの方に傾いていた。


「落ち着いてよ!まだ決まったわけじゃないのは本当でしょ!?」


  美音(みおん)は依然として冷静さを欠かず、それを塞き止めるような口調で返す。


 確かにおじさんの提供した情報は確かなものではなかった。あくまで”かもしれない”である為、確実でないことを美音(みおん)は読み取っていた。


  さらにいえば情報委員のおじさんが知っていることは少なかった。王都に滞在した時間もそう長くないので、情報収集が足りなかったのだろう。


 田舎の新聞屋に集められる情報量など、たかが知れていた。


「っ……とりあえず美音(みおん)をどこかに隠そう」


  歌絲(かいと)は考えに考えていたが、それしか手はなかった。


「って言ってもどこにだよ。この村にまともな隠れ家なんてねぇぞ?」


  部下の1人は頭を悩ませながら返答する。この村はただでさえ狭い上にまともな建造物すらなかった。


「それか最悪、僕が美音(みおん)に変装して代わりに連れていかれる手もある……」


  苦渋の考案だった。


  双子だからこそできる芸当だった。


  実際、美音(みおん)歌絲(かいと)の容姿はそっくりで、服と髪型を同じにすれば完全に一緒に見えるほど似ていた。


「馬鹿言わないで!!歌絲が連れていかれたら何も変わらないよ!!!」


  珍しく美音は怒っていた。歌絲(かいと)の胸ぐらを掴み言い聞かせるように言う。


「いい!?自分を犠牲にしようなんて絶対思わないで!!最悪なんてない!考えないで!!」


  握った拳は震えていた。頬を赤くし、瞳からは大粒の涙が溢れ出ていた。


 歌絲(かいと)は知っていた。美音(みおん)にとって大切な人を失うことは死ぬことよりも怖いことだと言うことを。それは、過去に経験してきたということ。


 全て分かっていた歌絲(かいと)だからこそ、その真意を理解できていた。


「分かったよ。でも美音(みおん)は絶対助ける。それだけは覚えていて欲しい」


 何もできないが、本心を伝えることだけはできる。そう思うだけで、歌絲(かいと)は救われていた。


「うん。分かった、ありがとう」


 美音(みおん)は泣き顔を濁し答えた。


 その顔はどこか笑っていたように見えた。












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