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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第一章【王宮編】
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十七話【案外悪くない】

「……はっ!女王様、申し訳ございません!」


「もう居ないわよ」


目覚めた瞬間、女王へ謝罪したノベルは、夢の中でも女王を怒らせていたようだ。その様子をみたメイは呆れていた。これが国家代表大臣の姿だと思うと、呆れる気持ちも分からなくはない。


一瞬停止したノベルは、メイに今の状況を説明してもらい、自分がしていたことに気づき、赤面していた。プライドが高いのは今回も変わらないようだ。


バルディナスは、メイがノベルに状況説明をしている間に部屋に帰ってしまった。あそこで発狂しないだけ、すごい胆力だと思う。流石は、我国の英雄と言ったところだろう。


「で、美音様はバルディナスの要求に対してなんて言ったの?」


「殆ど覚えていないのですが……否定していたことだけは覚えております。城の非常時に備える必要がある故、食料や兵などは余裕を持っている必要があると……」


「……だからって、民を苦しめてまでやる必要があるの?」


「分かりませぬ。私めにも、女王様の思考は読めないもので……」


それを聞き、メイはさらにため息をつく。正直言ってどうしようもない。バルディナスが言ってダメなら、誰が言っても無駄だろう。


現在、王宮内で食料問題などは発生していないし、兵も全体で言えば億単位はいる。


それだけ余力を残しているのに、民に分け与えるものはないと言うのだから、それは危機的問題とは違う、意地のようなものなのだろう。


昔はみんなを第一に考えていた優しい性格の持ち主だったのに、この数年で何かあったのだろうか。

それは、前世でも考えていたことだが、結局解き明かすことなく死んでしまった。それを解き明かすことも必要なのかもしれない。


「はぁ……別に気にすることないわよ、アルト。貴方は悪くないわ。美音様もきっと何か考えがあるのよ」


そう思えれば、どれほど幸せだろうか。あの言い合いを見て、素直に頷けるものはいないだろう。 美音の暴政は今に始まったことではないらしいが、その行いは年々酷くなっている。


エネットは異形質のせいと推測していたが、それが本当なのかと聞くと、いつも黙り込んでいた。確信が持てないということだろう。


どちらにせよ、実の妹のことを悪く言われるのは腹が立ってしょうがない。


齢9歳の少女が国の全権を得て、政治の全面を引き継ぐなんて話聞いたこともない。

それに、美音ばかりに負担を押し付けて、自分は知らぬ顔でいる貴族や大臣達は、美音よりタチが悪い。


「アルト……そんな顔しないで。美音の事で怒っているのは分かるけど、傷付いているのは貴方だけじゃないのよ」


そんなの分かっている。分かっている……


「そうですよね。少し冷静さを見失っていました。申し訳ございません」


積もる怒りを呑み込んだ。ここで思いのまま暴れるわけにもいかない。侍女長のメイの前では尚更だ。


「……いいわ。今日は部屋に戻りなさい。これ以上貴方を起用しても悪化するだけだし」


「お力になれず、申し訳ございません」


これでいいんだ。こんなこと我慢すればいい。美音を救うための辛抱と考えれば、いくらでも我慢できる。絶対に曲げる訳にはいかない。絶対に君を幸せにしてみせる。




*




目覚めの悪い朝だ。何か悪い夢を見た気がするが、それ以前に寝付きが悪かった。

昨日あんなことがあって、快眠を得られるわけがない。


本来は交代制で24時間警備を張り巡らせているので特定の起床時間などはないが、昨日勤務中断を宣告されたので、朝の勤務と同じ通りに動く。


朝の勤務は毎朝4時30分起床。30分で身だしなみを整え、それぞれの持ち場へと移動する。

僕の持ち場は、ヘヴン様の直属なので、あと二人のヘヴン様直属使用人と交代で警護を行う。と言っても、することは日程の管理と食事の手配と見張りくらいで、ほかの使用人に比べて大分楽な仕事となっている。賃金も、王族直属なので高いのは当然だ。


(ヘヴン様は美音と違って大人しいから、前世よりも数段楽だな。だけど、逆に何もしなさすぎて、少し怖いな)


前世の美音は、部下に試作させた危険玩具を僕を使ったりして、遊んでいた。何度も死にかけたが、その度奇跡的な生存力で切り抜けてきた。人の限度というものを知らない、本当に危ない妹である。


一方のヘヴンは書物等が大好きで、よく王宮内の図書館にいる。読むものは、その年齢では考えられないほど複雑で、僕も試しに読んでみたけれど、全く理科できなかった。


本質的には、どちらも変わらない少女なのだが、行いの違いで、イメージの差がこんなにもハッキリするとは思わなかった。


「おはようございます、ヘヴン様」


僕の役目の一つ目は、ヘヴンを起こすことから始まる。毎朝7時には起こすようにと言われているが、今日は少し早めに起きていた。


「おはよう、アルト。昨日何かあったの?せっかく楽しみにしてたのに、貴方が一向に来てくれないからガッカリしたわ」


「ヘヴン様、誤解を招くような発言はお控えになられた方がよいかと……」


「いいじゃない。貴方と私の仲よ?それに、昨日は貴方の初勤務だった筈なのにね」


そう、昨日メイから仕事内容と、主な時間を教えて貰ったので、大体のことは把握済だ。メイもエネットから事前に説明を受けているので、少し早めに仕事に起用してくれる予定だったのだ。


だが、昨日のようなことがあっては、仕事に支障をきたすと見たのだろうか。メイは、昨日の僕の初仕事の中断を宣告した。


誰よりも女王の怒るポイントを知っているメイは、誰よりも慎重で、疑り深い人物だ。使用人でも、何か悪いところがあると判断した場合、すぐに勤務を中断させる。そのおかげで、王宮内での使用人が引き起こす事故や不備は大幅に改善されている。


「まぁとりあえず、今日の夜は来てくれるんでしょ?楽しみにしてるわ」


「ですから………。言っても無駄のようですね」


嬉々として話を広げるヘヴンは、どこか生き生きしていた。機嫌が損なわれないならなんでもいいが、たまにはこういうのも悪くないと、心の底で呟いた。

読んでいただき、ありがとうございます。

評価やコメントがモチベに繋がるので、良ければそれらもよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう系の話めっちゃ好きです!見つけられてよかったぁ… これからも頑張ってください!!
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