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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第一章【王宮編】
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十六話【無力】

 過激化する言い合いの中心にいたのは、現女王の美音と、我国が誇る英雄バルディナスだ。どちらとも、一歩も引かずに譲らない。


 ある程度普通の人の口喧嘩であれば、少しは仲裁に入れたのだろうが、この二人は地位も名誉も別格すぎて口出しできない。


 その喧嘩の隣では、国家代表大臣であるノベルが怯えながらそのやり取りを見ていた。この二人の威圧感に押されたのか、体の震えと独り言が止まらない様子だった。


「ノベル様、これはどういうことですか?」


 ノベルの存在に気づいたメイは、状況を確認すべく、ノベルを問いただした。

 先程から混乱しまくりのノベルにこれ以上刺激を与えてしまえば、思考が停止してしまい、しばらく使いものにならなくなる。メイもそれくらいは分かっているはずだが、そんなことお構い無しに、ノベルの胸ぐらを掴んで揺さぶり倒した。


 さらに混乱してしまったノベルは、ついに気絶してしまった。当然と言えば当然だが、少し可哀想にも思えてきた。


 結局、ノベルから話を聞けなかったので、話を読み取るしかないらしい。


 幸い、二人は言い合いに夢中で、こちらのことなんか気にも止めていない。


「ですから!これ以上軍事に手を回すと、民が耐えられません!」


「そんなこと知ったことではない。我慢できないのなら見殺しにすればいいじゃない。貴方の力で何とかしたら?」


「ですが!」


 バルディナスは、軍事政策の強化による税の加算により、民が餓死してしまう状況を打開したいらしい。


 一方の美音は、そんなことお構い無しに軍事に力を当てると言っているのだ。確かに、美音の意見には無理があり過ぎるが、この国の全権を持っているのは美音なので、逆らうことは出来ない。


 バルディナスが美音に口出しできるのは、前国王の時代に、この国を救った英雄という立場であるからだろう。


 この国の英雄は二人いる。一人はバルディナスで、二人目は、僕をここまで送り出してくれたエネットである。彼女は前国王のエドマスの機嫌を損ね、追放された。それは今生でも変わらないだろう。


 ちなみに、エネットとメイは知り合いで、ここに僕を率いれてくれる手配をしてくれたのは、メイでもある。


 メイは王宮内の従者の権限を全て握っており、使用人全ての状況を把握している。だから、僕がある程度怪しまれることなく、使用人として起用できたのだ。(本来は厳しい審査とある程度の身分が必要)


 侍女長とは名ばかりではない。


 話は大きく逸れたが、美音とバルディナスの話し合いは、当然ながら美音優勢で進んでいる。このまま行けば、民は多重の税に耐えきれず、餓死者が続出してしまう。バルディナスは必死に対抗するが、まるで聞く耳を持たない。


「……エネットが居たら、変わってたかもしれないわね」


 メイが静かに呟く。エネットは、天下天上唯我独尊的な性格なので、相手が王族だろうが大臣だろうが、自分の意見は最大限突き通す。周りを巻き込むその影響力は、様々な改革に貢献するものとなった。


 無駄な発言はしない。結果至上主義のエネットは傲慢だが謙虚。一見して矛盾しているが、それが彼女なのだ。


 だからこそ、彼女ならこの展開を打開できたかもしれない。


 バルディナスもその節はあるが、政治関係に関わりを持たないので、それにとやかく言うことは出来ない。脳筋さが自分の弱点だと言っていたバルディナスは、心の中で後悔していることだろう。


「とにかく、軍事を専門しておるそなたが、国の政情にとやかく言うのはおかしなことじゃ。民のことに関してはノベルに任せておけばよい。そなたは軍を率いることだけを考えておれ」


「………!」


 考えれば、騎士長が政治に関わるなど聞いたこともない。それほど重要なことだというのは分かるが、これを言われては何も返せない。


 バルディナスは悔しそうに歯ぎしりをし、爆発しそうな気持ちを抑え込んだ。ここでやらかしては国の問題どころではなくなる。自分の感情だけでこの国と家族を見捨てる訳にはいかないのだ。


 美音は、その姿を見て嘲笑して去っていった。自分の前に跪くことしか出来ないバルディナスの姿を見下すのは、さぞかし気分が良いことだろう。


 バルディナスはその姿が見えなくなると、静かに立ち上がり、そこにあった柱に拳をぶつけた。どこにもぶつけられない怒りは、バルディナスの心を蝕んだ。


 メイは何も言わず、その姿を見つめていた。少し呆れた様子ではあったが、その目には何とも言えない怒りのような感情が篭っていた。


 僕は、ただ黙って見ているしかなかった。今の美音とはただの主従関係にしかないので、何もできることはない。自分の無力さに少し腹が立ったが、感情に身を任せては、あの時と同じだ。


 場の雰囲気はますます重くなり、ノベルが目を覚ますまで沈黙が続いていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

評価やコメントがモチベに繋がるので、良ければそれらもよろしくお願いいたします。

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