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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第一章【王宮編】
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十二話【二度目の再来】

辺りを見渡してみると、吹き飛ばされた木々は全て飛んでいきなくなっている。つまり完全な更地になってしまったのだ。系統を調べただけでこんな事になるとは正直思っていなかったが、僕の異形質はそれほどまでに強力なのだろうと、少し興味が湧いてきた。


「なーに変なこと考えてるのよ。家ごと吹き飛ばしておいて収穫が何もないなんて最悪よ?ほんとに」


エネットは呆れ顔で言う。自慢の異形質をあんなに簡単に破られたのが相当ショックなのか、態度も湿気ていた。


マキの方はと言うと、家の中で待機していたら突然一緒に吹き飛ばれてしまったので、家の残骸とともに森の後方へ吹き飛ばされて行った。


「兎にも角にも、マキを見つけるのが最優先よ。貴方のせいで居なくなったんだから少しは探そうとしなさい」


そう言って僕の肩を強めに叩く。めちゃくちゃ痛い。女性と言ってもその馬鹿力は無下にできない。


「とりあえず家の後ろら辺に飛んでったのでそこら辺探しに行きますね」


「そうねぇ……あの子異形質を気絶したまま使ってるのかしら。全く気配が感じられないわ」


マキの異形質は応用で、相手からの観測を遮断することが出来る。そうすることによって他からの認識を断絶し、対象として捉えられないようにすることが可能となる。


ここまでされたらエネットでも感知することはできない。


「もう徒歩とかめんどくさいわぁ。貴方だけでも行けるんじゃないの?」


先程の異形質が通じなかった事をまだ根に持っている。こうなっては、一週間はろくに動いてくれない。

ただ、ここで止まっていてもしょうがないので、結局一人で行くことにした。


「分かりました。すぐ戻るので」


そう言い捨て森へと入った。ここら辺に怪物どもはいないと思うので問題はないが、想像してしまうのでいなくても怖い。


森の奥へ3kmほど歩いていくと、家の残骸とともに横たわっているマキの姿を見つけた。姿が見えること言うことは、完全に気を失っているのだろう。


ここに長居するのも野暮だし、起こして早々にここを立ち去ろうとしたが、全然起きない。その気配すら感じない。

少し強めに声をかけても反応は至って無。結局起こすのを諦め、背負って帰ることを決断し、マキの体を背に落とした。


早急にここを立ち去ろうと、足を進めようとしたその時、後方から突如として冷気を感じた。全身の細胞が震えるほどの気配に脚がすくんで動けない。振り返ると、そこに居たのは氷の竜型の化物。見るからに勝てる気がしない。遭遇したら諦めレベルの相手だ。

更には既にお怒りの様子ときた、これは生きて帰れる気がしない。


化物はこちらに視線を向け、少し口を開けた。口内から大量の冷気が溢れ出し、周辺がみるみる凍っていく。死ぬ訳には行かないと必死に逃げようとしたが、冷気が足まで侵食していて動けない。このまま足を伝って全身が凍っていくことだろう、そう諦め覚悟を決めた。


腰あたりまで冷気が侵食してきたところでマキが目を覚ました。周囲の冷気によって体が冷えて起こされたのだろう。


「うわ、なんですかこの寒さ。凍ってるみたいじゃないですか……と思ったら、こりゃまた変なやつに見つかりましたね。ここら一帯の化物は全部お師匠様が追い払ったはずなんですけどねぇ……」


マキはため息を着くと僕の背から降り、少し楽しそうに笑う。軽快に拳を鳴らしているが、何か策があるのだろうか。


「こういうのは力でねじ伏せるのが一番楽しいんですよね。お師匠様が毎回出番とっていくから久しぶりですッ!」


その様子からは余裕さすら感じられた。あの化物に力で勝てる自信でもあるとでも言うのだろうか。そう思いマキの背中を見ていると、次の瞬間、目の前に居たはずの姿がなくなっていた。どこに行ったかと必死に探すと、今度は化物の頭上で何か構えていた。どうやってあそこまで移動したか、全く見当すらつかない。


「でも、歌絲さんがいるから迷惑は掛けられないっスね。じゃあ、今回は早めにお休みです!!」


そう言い終わると、マキは構えていた手刀を化物の頭蓋に向けて振り下ろした。まるで瓦割りをしているかのように、化物は綺麗に真っ二つに裂け、絶命した。


一体何が起こったのか理解できない。あの華奢な体の何処にそんな力が隠させているのだろうかという疑問はあったが、本人に聞いても分からないと言われそうだったので、一度頭の中からかき消した。


「じゃ、片付いたので帰りますか。帰り道覚えてますよね?」


「え?あっはい、覚えてます」


マキの満足げな表情に動揺しつつも、無事家に帰還することができた。前世では知らなかったマキの戦闘能力の高さは初見だと驚きを隠せなかった。


「エネットさん……マキって援護系統の非戦闘員じゃないんですか?」


「いいえ?マキはどっちかって言うと武道系統戦闘員派よ。高い身体能力を持つ子が欲しかったから弟子にとったの」


エネットの弟子だから勝手に援護系と勘違いしていた。見た目の割に力量だけは常人の何倍もあるマキは周りから不気味がられ、日常的にいじめを受けていたらしい。その生活から救ってくれたのがエネットだったそう。

それからというもの、マキはエネットに生涯尽くすと決めたらしい。


「まぁそんなことどうでもいいわ。結局異形質について何も知れることはないからね。これ以降は詮索禁止ってことにするわ。二度も家が吹っ飛んだらたまったもんじゃないから」


エネットはまたため息をつく。上手くいかない現実に嫌気が指しているのだろう。

だが、これでも僕の王都潜入についても真面目に考えてはくれている。前世は、ここに住んでから五年後に使用人として潜入に成功したが、今回はどうだろうか。


その話が舞い込んできたのは、ここに住み始めてから三年後と少し早い時期だった。エネットに将軍の裏切りの話をしたから、早めに手を回してくれたのだろう。


話が回ってきて時から既に支度は済ませていたし、家を出ることも決していた。ここに居たとしても、いずれ裏切りは起きる。未然に防ぐためなら行動は早めにとエネットに念を押されたからだ。


「いい?私めっちゃ頑張ったんだから、情けない姿で戻ってきたら承知しないわよ。必ず、美音(みおん)ちゃんを救ってここに帰ってくること」


歌絲(かいと)さんファイトです!」


応援の念を押してくれる二人の姿を背に、僕は王都へ再発進した。見慣れた二人との別れはなんだか切なかったが、懐かしさも感じた。七年前のあの日もこんな感じだったんだろう。


「美音、待ってろよ。絶対助けてやるからな」


揺るがぬ決心を胸に抱き、僕は再び王宮へと舞い戻る。

読んでいただき、ありがとうございます。

評価やコメントがモチベに繋がるので、良ければそれらもよろしくお願いいたします。


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