十一話【謎の力】
「んん……ふわぁあ。よく寝たなぁ」
気持ち良い朝風と、ドタバタしているマキの足音で僕は目を覚ました。折角の快眠も、マキが発する騒音で台無しであるが、慣れているため問題はない。
昨夜、単身王都に乗り込もうとしたのをエネットに制止されてしまった為、ここから抜け出すことは不可能となった。マキが随時家にいるので見張りして機能しているので警備の目は固い。恐らくだが、マキにもこの事はバレているだろう(というかエネットが話していると思う)。
思い通りに行かない現実にため息をつき、少し伸びをした後、エネットとマキの元へ向かった。エネットはテラスでコーヒーを飲んでいた。勿論、砂糖たっぷりの超甘口である。
本人はドヤ顔で優雅なポーズをとっているが、コーヒーの甘口イメージが強すぎて全くカッコイイイメージが湧かない。
現実には知ってしまうと損することもあるのだと再確認した。
マキは相変わらずめちゃくちゃだ。食器は割るわ、調理場が爆発するわ、調理器具壊すわで大変なことになっている。元々器用とは言い難い性格ではあったが、これほどだったとは、と少し呆れてしまった。
「何突っ立ってんのよ、早く席に座りなさい。貴方の分も朝食くらいは用意してるわよ」
まるで自分が用意したかのような言い草のエネットは相変わらずだ。
朝食の用意は有難いが、この時期のマキの料理センスはほぼ皆無。ダークマター製造機とも呼ばれるマキの腕は別の意味で驚かされたる。
「まぁ、食欲がないなら食べなくていいわ。後で話聞けなくなるかもしれないし……」
エネットも察しが着いているのか、食事の遠慮を促してくれた。
タイムリープ前の七年前では、僕がマキに料理を教えていた。要領がいい彼女はすぐに調理法を会得し、三週間経つ頃には一人で料理できる程度には成長していた。多分この世界でも教えれば何とかなるだろうと思い、料理を再度教えることにした。
「えーと、マキさん?料理手伝いましょうか?色々と忙しそうですし」
切り出し方は昔と同じく、下手な事を考えないことが大切である。マキの前でお世辞を言っても見破られて拗ねられるだけだ。
「歌絲さん……でしたっけ。料理できるんですか?」
「父に昔習っていたくらいですが……」
「そうですか……」
「良ければ料理をお教えしましょうか?何かと不服そうな様子でしたので」
「本当ですか!?絶対ですよ!」
純粋なマキはあっさりと教えを受け入れた。料理に興味津々のマキは弾んだ心を抑えきれず、鼻歌まで口ずさんでいる。昔もこんな感じだったなと思い出にふけりたいところだが、マキやエネットを待たせる訳にもいかないので、早々と教えることにした。やはり、昔と同様で覚えるのが早く、応用もできる。天性の記憶能力と応用能力は伊達ではないようだ。
コーヒータイムを終えたエネットは本を読み始めている。本好きも昔と変わらないなと安堵した。何かしらの異変を見つけるのも怠らないことが大事だ。
数時間が経過すると、マキも疲れれてきたのだろう。休憩を挟むことにした。
「終わったかしら?まだならもう少し待ってあげるけど、一旦休憩してるんでしょ?」
休憩をタイミングを見計らって来たエネットが話しかけてくる。他人の為に数時間も待ってくれるなんて彼女なら有り得ないことだが、きっと弟子のマキの成長を考慮してのことだろう。自分には教えられないことは教えない主義だから、僕にその役を一任していると取っていいだろう。
質問に関しては僕も断る理由が特にないので、尺諾した。
「素直でよろしい。とりあえず聞くけど、貴方が妹さんを取り戻したいってのは前提よね?」
当然だ。僕がこの場所にタイムリープしたのも、今生きているのですら、全て美音を救うためにある。それ以外考えられないし、考えようとも思わなかった。
「そりゃそうよね。なら、貴方の異形質に関して考えましょうか。なんか適当にイメージしてみて」
前世でも理解できなかった異形質に関しては本当に何も知らない。系統すら分かっていないのにそれを適当にイメージしろだなんて、本当に適当だなと笑ってしまった。
言われた通りとにかくイメージしてみても、その予感的なものすら現れない。前世と同じように諦めるんだろうなと一息つき、最後のイメージを実行したその時だった。
「うん?反応したわね。ちょっと特殊……な感じ?感じた事ない系統ね」
エネットが何かブツブツと呟いている。何かを感知したのだろうか。それは有り得ないはずだと思い、エネットに問いを投げかけたが。
「ちょっと!集中しなさい!もう少しで系統が分かるんだから!!」
すごい勢いで怒鳴られた。それほど重要なことなのだろうかと思ったが、エネットが本気で怒るというのは只事ではないということだ。
すると、激しい光とともに僕の体は衝撃を放ち、辺り一体を吹き飛ばした。
「っあ!は、弾かれた……!?私の異形質がこんな易々と……」
エネットは家が吹き飛んだことよりこちらに驚いている様子だった。エネットの異形質はそう簡単に破れるものではないのは承知している。だからこそ、それを弾くというのは想像が追いつかなかった。
「あ、貴方の異形質ほんとになんなの……理解不能だわ……」
そんなの僕が聞きたいくらいだ。僕にそんな力が秘められているのであれば、何故美音を救えなかったのか。疑問が積もる中、僕達は吹き飛んだ家を一旦復元した。
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