百十二話【窮地からの窮地】
窮地を脱した僕たちは、大廊下を走り抜け、結晶玉が示す場所へと向かう。
結晶玉が示した場所……それは、二十階にある王の間だった。
「もっと早く走れ!でなきゃ追いつかれるぞ!」
「はぁ、はぁ……もう限界……」
ほぼ燃料切れの体力を振り絞り、十階までの階段を死にものぐるいで駆け上がる。
辛い、休みたい、楽したい。なんて言葉が脳裏をよぎって止まらない。今すぐにでもそこに横たわってしまいたい。
「でも……休めなんかしない……!」
突然だが、僕が今、死にものぐるいで階段を駆け上がっているのには理由が二つある。
一つは、結晶玉にできるだけ早く目的地へつけ、と命令されたから。
もう一つはと言うと……
「がァァァァアアアア」
「わあああああ!!もうこっち来てるぅ!」
そう、三階の階段を上っている途中、階段の壁を突き破ったマストル(暴走)が襲いかかってきたのだ。
しかも、先程侍女長に蹴られた傷も完全に癒えている。つまりは全開状態というわけだ。
「小僧!死なないよう気をつけろよ!」
「無茶言わないでくださいよ!」
先程よりも数が増えた刃物の着いた尻尾のようなものが容赦なく襲いかかってくる。
しかし、この状態になれていないのだろうか、その動きはまだ避けることができる。
が、威力は言わずかな恐ろしいものなので、一発でも貰ったら即エンドだ。
「本当にどうしたんだよ!さっきは助けてくれたじゃないか!」
「グルルル……!!ガァ!」
「えっ……嘘っ!?」
何とか正気を取り戻させようと嘆きを投げつけたが、それは無視され、今度は無数の光弾のようなものが飛んできた。
それも何とか避けたが、そのせいで王宮は風穴だらけとなった。これ以上避けたら王宮がもたない。
「小僧!まだ生きているか!?」
「生きてますよ!と言うか助けて下さいよ!」
「それは無理な話だ!俺は結晶玉を持っているからな!」
「僕が持ちますから!代わりますから!だから助けて下さい!!」
お願いしないと色々とまずいのだ。もう僕一人で耐えられない。
「しかし、お前一人で目的地に行けるのか?」
「結晶玉があるから大丈夫ですよ!ですからお願い……おわっ!」
マストルが放った光弾が頬をかすめる。
「……了解だ!小僧、受け取れ!」
それを見かねたパレットは、僕に結晶玉を投げつけてくる。
「わぶっ!」
「よし、取ったな!対象転換!!」
パレットが叫ぶと、僕とパレットの位置が瞬時に交換された。
「待たせたな、化け物!」