百十話【驚愕の事実】
「……今なんて?」
「え?いやぁ……いくら歌絲さんでもその言い方は酷いッス……と」
「いやいや、そうじゃなくて」
そんなことどうだっていい。それより聞きたいのは、あの女の化け物の正体だ。
「……?正体?そんなの侍女長サマに決まってるじゃないッスか。見たら分かるッスよ」
いやいやいやいや、それは無いだろう。どう見たってあれは人外の生物だ。
あの驚異的な身体能力を差し引いても、声質や容姿がもう人間ではなくなっている。
《……告。対象名奏峰 歌絲は判断資料の不足と、判断能力の欠如により、その判断に至れなかったと予想します》
世界剣さんが余計な解説を入れてくる。
「……なるほどッス。歌絲さんは世界剣さんみたいな存在がいなかったッスね……それなら気づかなくて当然ッス」
それはそうだろう。あれを世界剣の助言無しに初見で見破れる人なんていないるわけが無い。
というかいて堪るものか。
「いやぁ、いつもの感じで話してると、ついつい世界剣さんに頼っちゃうッスから……」
「休ませてあげればいいのに……」
《告。そのような心配は不要です》
いや、やっぱり何でもなかったようだ。もう何も言わないでおこう。言ったら大変なことになる。
「まぁともかく、パレットさんと一緒にここから離れてくださいッス。落合場所はパレットさんとその結晶玉に記録しておいたッスから、心配はないッスよ」
「そのとーりだ!」
今度は息を荒くしたパレットが飛び込んできた。
「……無事だったんですね」
「まぁな。けど、マキが居なかったらぶっちゃけやばかった」
「そんなに……」
パレットがここまで弱気な発言をするとは思いもしなかった。あんなに優しかった侍女長に何があったのだろうか。
「……随分と楽しそうね」
その時、僕はマキとパレットとの会話で気が緩んでいた。
そのせいか、後ろにいる侍女長の存在に全く気づけなかった。
「歌絲さん!」
マキがこちらへ手をのばしているのが見える。直感だが、その手は僕に届かない。
「……残念だったわね、侵入者さん」




