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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第三章【第六十五王都《ノズマリア》編】
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百八話【覚悟と挑戦】

すると、パレットが僕の胸ぐらを掴んできた。


「聞いてなかったのか!?もうそこまで来てんだ!姿を見られるのも時間の問題だぞ!」


見たところ、感情が昂っている。怒ってるんだろうな。


至極当然の返しだろう。僕だって分かる。あの存在感の前では、僕程度その影を見る間もなく殺される。


「……お願いッス、歌絲(かいと)さん。言うこと聞いて欲しいッス。このままだと本当に死んじゃうかもしれないんスよ……!」


マキは必死に止めようとしてくれる。でも、それじゃダメなんだ。


「……分かってる。僕じゃ足でまといにしかならないって」


「分かってるなら何故コイツ(マキ)の指示に従わない!無駄死にしたいのか!」


「……そうだよ」


「なっ……てめぇ馬鹿か!!」


そう思うのも無理はない。これは、僕だけが知っている僕だけの秘密だ。誰にも教えていない。


「……たとえ死んだとしても、僕は後悔なんかしない。ここで逃げるくらいなら死んだ方がマシだ」


こんな結果になるなら、死んで螺旋階段を出たところからやり直す。そういう考えもあるだろう。


「何考えてるんスか!!もう時間が無いんス!!早くこっちに──」


マキは怒鳴り散らすように言う。


「……これは僕からの最後のお願いだ。呑み込んでくれ」


差し伸べられた手を振り払い、より強い存在感のする方へ進む。


右と左では感じる存在感が異なっていた。僕の感じ方では右の方が強い気がする。


しかし、左は捉え方によっては右より恐ろしい。正直どっちに行っても変わらないと思う。


「……直感だけどいいよね」


マストルを探していたら、いずれは出会うことになるだろう。


どうせなら、動きの癖のひとつくらい覚えておきたい。


「さぁ、出てこいよ」


身が引き締まるような冷たい視線を辿り、その存在感を見る。


その存在感は勘づいたのか、僕の前にその姿を現した。


その化け物は人型をしていたが、全身は黒で覆われ、背中からは刃がついた尾のようなものが垂れていた。


ついでに無口と来たものだ。


「……アル……」


化け物が何か喋っている。


どことなく、その姿は苦しそうに見える。これはチャンスだ。


全力で展開した異形質(イギョウシツ)で化け物の目の前まで移動し、懐に備えていた短剣を突き出した。


「小手調べ……ってね!」


しかし、化け物はそれを易易と躱した。やはり格が違うということなのだろう。


「……ト……げろ」


また何か呟いている。戦いの最中に喋る余裕がある辺り、僕なんて眼中に無いのだろう。


「僕を甘く見るな!」


気配のする方に再度剣を振る。しかし、それはまた易易と躱される。




何度も太刀を振るい、何度もその気配を斬り続けたが、一向に当たらない。


「はぁ、はぁ、はぁ……本当になんなんだよ、この化け物……」


化け物は疲れひとつ見せない。恐ろしい程の身体能力だ。


まだ数分とはいえ、本気の状態を維持するのは相当の体力を要する。さすがに疲労が溜まってきた。


「……アル……んで……ない……!な……で!!」


化け物が僕に手を向けながら苦しそうに言う。しかし、それはよく聞いてみると、聞き覚えがあるような声だった。


しかし、敵であるのは変わりない。あの存在感、あの殺気、間違えなく僕を殺しに来ている。


なのに、何故かあの化け物からそれ以上は感じられなかった。


「……何か言いたいことでもあるの?」


声を潜め、問いかけてみる。


しかし、化け物はただ苦しそうにもがくだけ。何を言っても返しは同じだった。


敵とは言え、さすがに可哀想だと思った。せめてのこと、僕の手で殺してやる。


「まずは動きを封じる……」


手に紋章を出現させ、黒い糸で化け物を縛り付けた。


「……掴んで、縮小……!」


黒い糸は段々と短くなり、化け物もそれにつれて僕の方へ引き寄せられていく。完璧だ。


「ごめん。でも、これしか思いつかなかったんだ」


短剣に異形質(イギョウシツ)を纏わせ、全力でそれを振る。たとえ外れても、これなら斬撃が追尾してくれる。


この攻撃だけは当たる。そう確信していた───


「いっけぇええ!」


風を切るような音とともに、斬撃は虚しく宙を切った。


化け物は素早く糸をひきちぎり、身を下に向けていた。避けられたのだ。


確信していた故、その反動は大きかった。隙が大きすぎる。


もうダメだ。殺される。そう思った瞬間だった。


「……なぜ邪魔をするの?」


後ろからの聞こえた冷たい声が耳を刺した。

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