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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第一章【王宮編】
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十話【もう一度】

 

「私達の名前、どこで知ったの?」


 エネットの圧は凄まじかった。共に過ごしたあの五年間、こんな顔をしたエネットを見たことがなかった。相当なことがなければ、彼女は至って普段の少しバカな女性だ。


 それが今は僕のことを完全に警戒して、あまつさえ圧までかけてくる様子、これは明らかにおかしかった。


「お師匠様、この人と知り合いなんすか?」


「いや?そこら辺に倒れてたから助けただけなんだけど……顔も見たことないし」


 全く話が噛み合っていない。ドッキリか?とも考えたが、そんな様子ではなかった。本当に僕のことを忘れているらしい。


 とりあえず、体を起こそうと自分の体を見ると、明らか小さくなっていたし、何やら血なまぐさい臭いがした。自らの体の異変に気付いた瞬間、さらなる疑問が僕を襲った。

 よくよく考えてみれば、声も少し高くなってるし、体の感触も以前と異なる。


 まるで昔に戻ったような……


「ふーん……そういうば、なんであんな場所に倒れてたのよ?ここら辺じゃ珍しいじゃない」


 質問に普通に答えようとしたが、この質問、昔聞いたことがある。確か……エネットに助けて貰ったあの日にも同じようなことが……


「えっと……分かりません」


 その場しのぎで適当に答えた。やはり、このやり取りは見に覚えがある。懐かしさも感じたが、今は真相を突き止めるのが先だ。


 エネットは深々と考えている仕草を見せていた。確か、あの時もそんな感じだったような気がする。……少し実験してみるか。


「んぐ……ちぃ、なんで動かないんだ!」


 あの時、美音を助けることしか考えてなかった僕は、必死にそこから抜け出そうとしていた。その時に言った台詞を再現してみた。もし、この返しがあの時と同じならば……


「無駄よ。貴方、異形質を使いすぎたんでしょ?そんな血塗れの姿で……それも近くに灯真が死んでた姿があったし、なんか関係あるでしょ」


 やはりそうだ。この言葉は僕が七年前に、必死に美音を助けに行こうとしていた僕を宥めてくれた時の台詞と一致している。この言葉で、僕は今の状況を完全に理解した


 ───そう、過去に戻っている。タイムリープみたいなものなのだろうか。記憶だけが引き継がれ、その他全てが七年前の状態に戻っている。だからエネットやマキが僕のことを覚えていないのも、僕の体に突如異変が起きたのも、全て過去に戻った故の話だろう。


 ということは、美音(みおん)も無事なのだろう。そう思うと、体の力が一気に抜け、脱力感がどっと襲ってきた。僕はそのままその脱力感に意識を苛まれ、ベットの上で撃沈してしまった。


「あれ?寝ちゃいましたね」


「なんか深刻な顔で考えてたから待ってあげたのに……まぁいいわ。起きたら色々と聞き出したいことあるし。起きたら教えてちょうだい」


「はーい」


 エネットとマキの会話を聞くことはできなかった。それほど疲れていたのだろう。それから僕が目覚めたのは二日後の夜だった。


 深夜二時という起きるには早すぎる時間に目が覚めてしまった僕は、一旦、自分の状態を確認した。体は自由に動くし、感触も取り戻していた。横には寝落ちしただろうマキが座っていた。とても気持ちの良さそうな寝顔を見ると、僕が起きるのを待ってくれたのだろう。


 起こすのは少々可哀想だと思ったので、朝早く起きることを決意し、再度目を閉じた。やはり二日間も寝ていると、中々寝付けない。

 寝付けないことに困った僕は、昔、美音と歌っていた歌を思い出した。優しくて、透き通る温かい歌声が脳内で再生される。思い出すと少し顔がほころびる。


 美音のことを思い出していると、助けないといけないという自身の使命感が寝ている場合ではないと、自分を責める。


 正直、呑気に寝ている暇はなかった。将軍の裏切りを知っているなら、未然に阻止できるのは過去に戻って尚、記憶を保持てしている僕だけ。何故過去に戻れたのかは分からないけど、これは最悪の終幕を変える絶好のチャンスだった。


 僕はマキを起こさないように静かにベットから起き上がり、マキの訓練用の剣を借りて家を出た。


「どこへ行くつもり?貴方にはまだ聞きたいことが沢山あってね」


 背後から僕を呼び止める声が聞こえた。エネットだ。彼女はそっと僕の肩を叩くと、部屋の中に連れ戻した。やはり警戒しているのだろう、圧がここまで伝わってくる。


「単刀直入に聞くわ。灯真を殺したのは貴方?」


「ええっと……灯真ってどちら様ですかね?それに殺しただなんて、そんな物騒なこと僕にはできませんよ」


 下手な演技は通じないと分かってはいるものの、ここはそうするしかなかった。いきなり過去にタイムリープしていると言っても通じる訳がない。難しいことが嫌いな彼女なら尚更だ。


 返答もできるだけ彼女を刺激しない程度で返した。実際、灯真(とうま)という人物は知らない訳だし間違いは言っていないものの、演技がバレるのは時間の問題だ。


「……嘘はついてなさそうね?じゃあ、なんであんな所で倒れてたのかしら?何かしら理由があるんじゃない?」


 完全に疑っている。信用されていないのだろう。エネットは初対面のものに対して警戒心が特に強い。たとえ、僕みたいな子供でも常に目を張り巡らしている。


 僕は、あの時話した情報と全く同じようにエネットに状況を話した。もし、違う返答をして何かが狂ったりでもしたら、タイムリープした意味がなくなるからだ(決してないわけじゃないけど)。


「……大体把握したわ。妹さんが王都に連れ去られた……と。でも、灯真(とうま)を殺したわけじゃない……ああ、もう!むしゃくしゃするわねぇ!!」


 エネットはあの時と同じように頭をかき、あの時と同じ台詞を言っていた。タイムリープしてもその時の会話や人物の性格が変わることはない、これが分かっただけでも収穫だろう。


「ふぅ……とりあえずはこの家にいなさい。分からないことがあったら、あっちの部屋にマキって子がいると思うから、その子に聞きなさい」


「はい。ありがとうございます」


 エネットは僕の返事を聞くと、眠そうな目を擦りながら奥の部屋に行ってしまった。ここまでされたらここから出ようなんて思わなかった。もう知られてしまったわけだから、何をしても無駄なのだ。


 今考えてもしょうがない。眠気は特にないが、明日に備えるため、僕は再び眠りについた。

読んでいただき、ありがとうございます。

評価やコメントがモチベに繋がるので、良ければそれらもよろしくお願いいたします。

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