百二話【感情】
すると、手の先が光だし、同時にヘイヴの体が光に包まれた。
「な、なんじゃこりゃ!?」
「……貴方たちは簡単には殺さないッスよ?」
淡々と言うマキの声は冷たかった。
「……へっ!何をしたいのか知らないが、遠距離攻撃は俺には効かな───」
ヘイヴが強気に口を開いた、とも思いきや、今度はいきなり黙り込んでしまった。
「……どうした……ヘイヴ?」
「無駄ッスよ。その人の意識はココにはないッス」
「……何?」
呆然とするノーディラスを尻目に、マキは続ける。
「その人の意識、並びに精神は全部コユウクウカンに送っといたッス。もう、ここに戻ってくることはないッスよ」
「ば、ばかな!ヘイヴに遠距離攻撃が効くわけが……」
「あんな力、適当に与えられたものに過ぎないんスよね?そんなんで私の異形質を防げるなんて思ったんスか?」
恐ろしい事実を何事も無かったように話すマキは、この世のものとは思えない形相で声を荒らげた。
「……貴方たちは言い過ぎたんスよ。歌絲さんがどんな気持ちでここまで来てるのか……どんな事情を抱えてるのかって!」
「……マキ……」
今までなかったかもしれない。こんな怒るマキを見るのは。
悲しんだり、笑ったり、喜怒哀楽が激しいのは昔からだ。でも、こんなに感情を表に出したマキは初めてだった。
「それを嘲笑うかのように軽く口にした貴方たちは許さないッス!死んで後悔するがいいッス!!」
言い終えると、マキは結晶玉に手を差し伸べた。
「……世界剣さん。できる限り周りを傷つけず、アイツを殺せる場所を用意してくださいッス」
《──解。結界空間、及び条件制限の発動が認証されました──実行》
声が響いた瞬間、紫色の結界の様なものが辺りを覆った。
「……何をした……?」
ノーディラスは恐る恐る問いかける。
「……正常な意識がある貴方は現実で殺すことにしたッス。だから、逃げられないように場所を用意したんスよ」
全く話についていけない。そもそも場所とはなんの事だ?
疑問が募り困り果てていると、マキが顔を緩め、口を開いた。
「……実は私もよく分かんないッスね。そういうのは世界剣さんに聞いた方が早いッスよ」
黙っていたら今度は心を読まれた……一応マキも冷静なようだ。少し怖いけど。
「……まぁ良かろう。ヘイヴが動けなくても、俺ちゃんだけで殺れば済む話……」
「殺れるかどうか……の話からッスけどね」
「ふん、貴女は俺ちゃんの力を知らぬのだ」
「……ふーん」
力を知らない……。そんな事言われたって当然だろ としか言い返せない。
「この際だから教えちゃる。俺ちゃんの能力は貴女も察しているだろうが、要は嘘を信じ込ませるものや」
なるほど と頷いた。道理であの男の言うことに謎の信憑性があったのか。
「それはもう分析済ッス」
「……だと思うてるわ。貴女の力は俺ちゃんと対等を張れる……極めて強力なものや」
「貴方と同等とは心外ッス。これでも私は魔導王の後継者ッス」
それを言っていいのか と思ったが、どうせ口外される事は無いからいいのだろう。
ノーディラスは少し驚いていたが、すぐにそのにやけ顔を取り戻した。
「……魔導王。確か、この国の元軍師やろ?アレの後継者とは……今日はつくづく恐ろしい面子が揃っておるもんやの」
「……揃っている?なんの事ッスか?」
「貴女に言ってやる義理はない。何より、俺ちゃんもそろそろ帰らないといけない時間でな。決着つけさせて頂くわ」
「……望むとこッス」
ノーディラスはククク と笑い、胸に手を当て、強く胸部を握り絞めた。
「……そろそろ交代や、”裏”」




