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さようなら 新たな終幕  作者: 天天ちゃそ
第三章【第六十五王都《ノズマリア》編】
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百一話【消失】

 マキの言葉を聞いた二人組は茫然自失としていた。


「……ノーディラス、どうしよう」


「……焦るな、まだ負けた訳ではない。我々が賜ったのは名声だけではないことを証明する時だ……」


 証明する時……か。何かしら仕掛けてくるのか?それとも、まだ奥の手があったりするのか?


 気になってその行動を凝視していると、ノーディラスが動いた。


 さすがに来るか。


「……フッ、降参だ」


「……え?」


「聞こえなかったか?降参だ と言ったんだ」


 コイツは何を言っているんだ?この状況で降参する?バカにも程度というものがないのか?


「……いやいや、さすがにうそですよね?」


「嘘ではない。我々の負けだ」


 ええー と心の中で叫ぶ。いや現実でも叫ぼうと思えば叫べるが、マキの目の前でそれをするのは些かお粗末である。だからやめた。


「……本当に降参するんですね?」


「おう!」


 ヘイヴが元気な声で言う。それでは、今までの戦闘は全て茶番だった と言わざるを得ないようなものだ。


 助かったから結果的には良いが、これでは腹の虫が治まらない。


「……アルトさん、今までのなんだったんスかね」


「……僕に訊かないでよ」


 マキですら呆れている。これは救いようがない。


 しかし、降参なら受け入れざるを得ない。無益な殺傷はしないのが人間としての当たり前だ。


「ふ、納得してくれたかの?」


「嫌でも納得はしますよ……気に食わないのは確かですが」


「カーカッカッカッ!少年よ、戦いは生き残れば勝ちなのだ!」


 ヘイヴが高らかに笑う。もう見たくもないアホ面だ。


「……まぁ、折角和解した事だ。握手の一つしてからお開きとしよう。悪いが、こちらに来てくれないか?」


「……何故です?」


「いや早、先の爆撃で体力を使い果たしてしまったのでな。動けんのだ」


 最後の最後まで情けない奴らだ。敵の言葉に従うのは癪だが、怪我人を動かすのは敵とはいえ気が引けた。


「……分かりました。待って下さい」


 ついてこようとするマキを制止し、二人組に向かって足を進めた。その時は怪しい感情など一切感じなかった。


 ”その時”は、だ。


 気づいた時は、もう遅かった。


「ククク……ハッハッハっ!二度とならず三度まで掛かってくれた事!感謝するぞ使用人!」


 歩いていた地面が眩い光に包まれる。我ながら情けないが、今回も罠にハマってしまったらしい。


 しかし、今回のは何故か発動が遅い。これなら逃げられる。


「はっ、逃げられるとお思いか!」


 その場から離れようと足を急転換させようとした。しかし、足が、というか体が動かない。


「な……なんでッ……!」


「ははははは!見誤ったな、少年!」


 ノーディラスは動揺する僕を見て、それを嘲笑うかのように言う。


「我ら二人の力はそれぞれ二つ存在するのだ!お前は我の巧みな策戦に騙され、無様にもそこで縛られているという訳だ!」


「なん……だって……!」


 有り得ない。通常、異形質(イギョウシツ)は一人一つしか得ることの出来ないものだ。


 それ以上を持つと体が異形に侵食され、やがて死に至る。昔エネットに借りた本にそう書いてあった。


 しかし、目の前立っているノーディラスは、実際に二つの異形質(イギョウシツ)を行使している。予想外すぎる事態だ。


「驚いて声も出んか!情けないのぉ!こんなやつに護られている女王の気が知れんわ!」


 ノーディラスの一言に、僕は心を貫かれた。動作を封じられた今、僕は役立たずの木偶の坊だ。


 男の言うことが最もに聞こえた。


「……そうだよな。結局、僕は無駄にするんだ」


 僕はもう助からないのか……そう思うと、ふと、そばに突っ立っているマキが視界に入った。


「何やってるんだ、マキ!逃げないと道ずれにされるぞ!」


 僕は助からないとしても、マキだけは生かさなければならない。この二人組の情報をいち早く誰かに伝えなければならない。


「……アルトさん」


「……何やってるんだ!早く、早く行ってくれ!」


 何度も何度もマキに叫び掛けたが、マキは一歩たりともそこを動いてくれなかった。


「クハハハハハ!恐怖しすぎで怖いという感情を失ったのか!?哀れな奴だ!」


「本当だなぁ!全く、これだから王宮の使用人は使い物にならんのだ」


 動けたのならば、こいつらをぶん殴ってやりたい。だけど、今はそれすら叶わない。


「……マキ、お願いだ。逃げてくれ」


 無力な僕でも、逃走を促すことはできる。死に戻っとしても、マキが死ぬなんてのは嫌なんだ。


 もう、誰も失いたくないんだ。


「……心配しなくてもいいんスよ。アルトさん……歌絲(かいと)さんはもう何も失わないッス」


「……え?なんで心の声が……」


「私の異形質(イギョウシツ)を忘れたんスか?最近は世界剣(ディーヴァ)さんに役目取られがちッスけど、私だってできるんスよ」


 マキはそう言うと、二人組に手をかざし、こう言った。


「ココロが壊れるほどの孤独を味わい、地の底に堕ちろッス」

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