百話【空間転移】
ついに百話達成でさ!
ここまでお読みいただいている皆様、本当にありがとうございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
「……ノーディラスさんでしたっけ。条件とは?」
「おお!ノーディラスの名前覚えてたのか!じゃあ、俺の名前も……」
「止めぬか。アレはあくまでも敵ぞ」
「分かってるって!」
見てると緊張感が抜ける。あれが本当にあの時の敵なのか疑うほどだ。
「……あの、条件は……」
「……それくらい察しておるのだろう?その顔、明らかに返答待ちではない」
バレたか。もうこっちはうずうずしてるんだ。
「アルトさん、ここは私が……」
「いや、ここは僕にやらせてくれ。言ったでしょ?あの人たちには借りがあるんだ」
今回は戦闘を買って出た理由は二つある。一つはお返しみたいなものだが、もう一つは……。
「……準備はよろしいか?」
「……いつでも」
「フォーー!」
「黙らんかヘイヴ!」
念の為持ってきていた長剣を構える。
「……参ります!」
「こい!」
発した直後、前方に出していた足で踏み込み、瞬時に加速する。
「……ほぉ、中々速い」
加速づいた剣で思いっきり打ち込む。しかし、男は難なくそれを受け止めた。
「……幼少にしては剣にも覚えがあるようじゃが……その程度では俺ちゃんは下せんぞ?」
やはり一筋縄ではいかないようだ。
ここは引いて、あの技に持ち込むのが良さそうだ。
「……引くのか?」
「……このままでは勝てないのでね。お見せしますよ。貴方を葬るための一撃を」
僕の最速にして最強の得意技。それは刺突。
距離をとったところから一直線に、対象が見切れないほどの速度で動き仕留める。あれだけは何回も練習しているので自信がある。(マストルに破られたけど)
幸いにも、持ってきた長剣の型式は刺突に特化したもの。場所も悪くはない。
「それは楽しみだ。是非とも見せてもらいたい」
ノーディラスは笑って言うと、20mほど距離を置いた。
バカめ。距離が長ければ長いほど僕の突きは強く、鋭利になっていく。その行為は自然と自分を破滅に追い込んでいるのだ。
「……ではお望み通りに……!」
踏み込みの構えから飛び出し、地を思いっきり蹴る。
バルディナス直伝の踏み込みの構えは、空気抵抗を大幅に軽減して動く事を可能にする。
「……速い」
ノーディラスは認識はできているようだが、動き出す挙動がない。これは当たる。
確信を得て、さらに勢いづいたその時、ノーディラスの口元が歪んだ。
「……フッ、掛かったかな」
その瞬間、踏み出していた床一体が光に覆われた。
「……これはあの時の……!」
「……ククク、前となんら変わっていないようで何よりですぞ」
その不敵な笑みから溢れる悪意を感じる。またもや僕は弄ばれていたというのか。
「ち……くしょう!」
今回は諦めるしかない。それに、ここで死んだら色んな意味で好都合だ。
決心が着いた頃には、僕の目は既に閉じていた。もう諦めよう そう思った時だった。
「アルトさん、大丈夫ッスか?」
横からマキの声が聞こえた。
「……マキ!?ここに来ちゃダメ……だ?」
「ふぅ、毎度毎度無理ちゃしないで下さいッス。こっちの身が持たないんスよ?」
呆れ顔で言うマキは、結晶玉に手を置きながらため息をつく。
「……バカな。地雷は発動したはずだ……」
ノーディラスが驚きの顔で呟く。
「……ヘイヴ、貴様誤ったのではなかろうな?」
「も、もちろんだ!俺は確実に即発性の地雷を……」
すると、王都の後方に位置する弘道平原から、何かが爆発したかのような轟音が響き渡った。
それと共に、その轟音は衝撃へと変換され、平原一体を覆い尽くす爆炎を生み出し、そこを焼き尽くした。
「……うそぉ、あの音と爆発は俺の……」
「……案外強いんスね。飛ばしてなかったら王宮が吹っ飛んでたッスよ」
マキは、焦りの表情のヘイヴとは真逆に淡々と事を発していた。
「……どういう事だ?ヘイヴの爆撃は完璧に決まったはず……」
「ええ、貴方の地雷は完璧に発動しましたよ。ただ、それが飛ばされたからここは大丈夫だった……ってだけッス」
「……飛ばされた?」
疑問が募るマキの発言に混乱したが、その混乱は次の一言でかき消された。
「私は特に何もしてないッスよ?ただ、床に仕掛けられていた地雷をそのクウカンだけ剥ぎ取って、あっちの方にテンイさせただけッス……」
その台詞を聞いた途端、先程まで余裕面をしていた二人組の顔が青白くなっていく。
「空間を……剥ぎ取っただと?そんなバカな……」
「えぇ?何か変なこと言いましたかね?」
今この瞬間、この場所にいたマキ以外の人間の思考は多分一つだ。
僕は顔を緩め、気が抜けた声で呟く。
「……エネットさんが重宝するのも無理はないか……正真正銘の怪物だ」




