九十九話【奇遇】
《》は世界剣が話す時に使っております。変更したのでご注意下さい。
”死に戻り”に近いのかもしれない。記憶も意識も正常に機能しているが、状況だけが戻っている。
タイムリープの方が正しいな。
「……本当に大丈夫なんスか?」
マキは怯える勢いで問いかけてくる。そんなに怖がることも無いのだが。
いや、僕が心配されているのはいい事だ。ある意味都合がいい。
「……そんなに心配?だったら、やっぱり二手に分かれるのはやめて、二人で一緒に探そう」
「え?いいんスか?」
「うん、死ぬよりはまだいいよ」
そう、これであの女と出くわしても、マキがいるから安心なのだ。
あの女も相当化け物だが、マキに勝てるほどではないと思う。
「……分かったッス。じゃあ、右と左、どっちに行きますか?」
「左だね。右はいい感じがしないから」
適当な言いつけたが、本質はあの女と出くわさないためだ。
「了解ッス。あ、これ持っててくださいッス」
「……これは?」
マキから手渡されたのは、前に貰った短剣とは違う球体のようなものだった。
「それには色々と力を込めてるんスけど、特色はコユウクウカンってのを持ってるんスよ」
「……固有空間?」
「はい。だから、それに美音サマを入れておくといいッス。一応その中では時の動きが進行していないらしいので、目覚めるのも少し遅くなるらしいんスよ」
「……それ大丈夫なの?」
「いざとなれば進行させることもできるそうッス」
「……なるほど」
便利すぎないか?まぁ、これも世界剣の力なのだろうけど。
「そうッスよ。全部世界剣さんからの提案ッス」
「……便利だね」
「便利ッスね」
《……便利》
「うわっ!」
突然、頭の中に機械音が響く。
「あ、起きたんスか?」
《解、適応の準備が完了しましたので、報告致します》
「あ、どうもッス」
マキの挙動を見て、その声の正体はすぐに分かった。
「ねぇマキ、起きたってどういう事?」
「ん?あぁ、世界剣さんが少し眠ったんスよ。タイサクセイサク?をするとか言ってたッス」
「対策?」
「そうッス。マストルさんを止める、唯一の方法ッス」
*
一階の捜索は特に目星いものはなかった。
ただ、毎回のように敵兵が束になっていただけだった。
『マキ!』
『分かってるッスよ。”殺さないで”ッスよね?』
毎回通りマキには忠告しているが、マキもマキで考えていたらしい。
『……ここにいる全員、おやすみッス』
結晶玉に手をかざした瞬間、敵兵たちが気絶するように倒れて行ったのだ。
『……殺してないよね?』
『眠らせただけッス。あと十分もしたら起きると思うッスよ』
と言った感じで、難なく二階への階段に辿り着いた訳だが……これまた思いもよろないことが起こるものだ。
「およ!お前はいつぞやの少年ではないか!こんな所で出会うとは奇遇だな!」
「……予想外ですな。メイデンが処理に向かったと聞いていておったが……」
「確かにそうだな。アイツが目標を逃すはずがねぇ……こいつら強いのか?」
二階へと繋がる階段の前に立っていた男二人は、見覚えるある雰囲気をしていた。
久しぶりに見るし、何か挨拶でもしてやろう。
「……お久しぶりですね。地下で案内をしてもらった時以来でしょうか?」
「ふむ、随分と気が強くなったようだの」
「カッカッカッ!ノーディラス、からかい過ぎるなよ!」
飄々とした態度で話す男と、楽観的な口調で話す男。このやり取りもあの時と変わらずだ。
「……アルトさん、知り合いなんスか?」
「知り合いと言うより、私怨の敵って感じかな。あの二人には恩があるからね」
あの時は無様にも地を這いずるしかなかったが、今回はマキもいるので強気に出れる。
「……で、お二方は何故こちらへ?」
「ふん、お前に教えてやる道理などなかろう……知りたくば教えてやっても良いよいがの」
この話文句、あの感じでいいのだろうか。
「……教えて頂けますか?」
「いや?ちょいとした条件がある」
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