九十八話【確信】
第百部!いえーい!
血泥に染まった床や壁。そこに転がる虚ろな目をした男たち。
そして、その中心に佇む一人の女性。
「……援軍かしら?」
女性は問いかけてくる。
口を開くなんてできない。立っているだけで精一杯だ。
「……応答無し。敵って認識でいいかしら?」
血に染った指を舐め、女性は笑いながらこちらを見た。
抱えていた美音を壁に持たれ掛けさせ、少し前に進む。
「……この短剣……本当に役に立つのかな……?」
構えている短剣は先程マキから貰ったものだ。しかし、剣として使うにはいささか小さすぎる。
「……信じるしかないか」
片手に収まってしまう剣を握り、構える。
女性は不敵な笑みを浮かべ、体を此方へ向けた。
「……貴方、そんな構えで私に受かると思ったの?」
そう言い終えた直後。僕の右腕がボトッ という音を立て地に落ちる。
「ほらね」
気づいた時には、女は僕の目の前にたっていた。
胸ぐらを掴み、空にその体を振り上げる。
「……敵は一匹残らず殺す。貴方もすぐに仲間の元に送ってあげるわ」
「……や……め……ろ!」
「ふふ、そんなに足掻かなくてもいいのよ」
女は僕の首筋に手をやり、狂気の笑みで言う。
「悶え苦しむ悪夢を見ながら、自然消滅しなさい──」
*
「──これくらいは頑張って持ってくださいよ」
隣から聞こえる聞き覚えのある声がする。
「……一応美音様背負ってるんだけど」
自然と口から言葉が出てくる。
「……それならいいんスけど」
マキは不満げな顔で一息ついた。
辺りを見渡す。
ところどころ汚れが着いている床に破壊された壁。まるで先程マキと別れた場所にそっくりだ。
「……ここは何処だ?」
ふと、疑問が口から飛び出した。
「……一階ッスけど」
マキが素っ気ない声で返す。
「……一階?」
「はい、一階ッス」
それは有り得ない。僕はさっき五階に上がる階段を上ったはずだ。
しかも、よくよく考えてみれば何故ここにいるのかが分からない。
「……ここにいるかが分からない……ッスか?そりゃあマストルさんを探すためッスよ」
心を読んだマキが答える。
「……マストルを探すため?」
「そうッスよ。さっき螺旋階段の部屋であった事、忘れたんスか?」
その言い方だと、今は螺旋階段から出た直後である。みたいな感じになる。
それは結構前の話なのだが……。
「て言うか、なんでマキがここに?左側の通路の捜索は終わったの?」
「……捜索?それは今からやるとこッスよ?」
今から?
「……え?遅くない?」
「何が遅いんスか?アルトさんだって、まだ何もやってないじゃないスか」
僕がないもやっていない?そんなバカな。
「そんな訳ないでしょ。捜索はさっきから始めてるし──」
言いかけたその時、体になにか違和感を感じた。
「……なんだ?この感じ──」
一度落ち着こうと声を置いた。
しかし、また次の瞬間、今度はあの時の女性の声が脳裏に過ぎった。
狂気に濡れた声。感じることの出来ない存在感。抗えない恐怖。全てが見に降かかるように鮮明に頭に入り込んできた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……大丈夫ッスか?」
「い、いや、大丈夫。思い出しただけ」
その声で全て思い出した。
あの時、僕は死んだんだ。
胸ぐらを掴みあげられた上、四肢をもぎ取られ、目を潰され、幾多もの武器を体に差し込まれ殺された。
だが、僕はこうしてここに立っている。
「……二度限りとならず三度目とは……やっと確信が着いたよ」
ふふ と笑いが込み上げる。
そうだ。僕は死んだんだ。でも、ここに立っている。つまり──
「……アルトさん?」
マキが少しおどおどしながら問いかけてくる。
「……何?」
「さっきからテンションおかしいッスよ?いきなり変なこと言い出したら今度は変な声で笑い始めて……」
変な声で笑い始めて?当然だろう。今は笑いたくなる気持ちを抑えられるわけがない。
「……ごめんね。でも、今は気分がいいんだ」
一度目と二度目は奇跡かと思って信じていなかった。「きっと奇跡なんだろう」なんて適当な言葉で片付けていた。
でも、今は確信できる。これは奇跡でも偶然でもなんでもない。
「……これなら納得だな」
拳を握り、感覚を確認する。正常だ。
確信した答え。それは───
「……回帰してるんだ。死んだ前に」
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