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Double.第三部  作者: Reliah
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6.壊乱の“アスタロト”



 何が起きたのか――

 ほんの一瞬そんな疑問を覚える。

 まばゆい光が自分の体を包んでいて、一瞬、浮遊感を覚えた――

 が、それはすぐに消滅し、光で妨げられていた視界が晴れる。


「な、んだと――!?」


 信じられないと言いたげな声と、何かがどさりと倒れる音。

 目の前に、今まで剣を振り上げ嘲笑していたはずの男が倒れている。


 その光景を脳が認識するまでに酷く時間を要したと思う。状況を理解すると同時、背後からクラウディスが自分の袖を引いた。


「――今、のは……」

「何が、起こったのか……」


 気がつけばそこに立っていた自分と同じく、クラウディスもまた、状況を飲み込めていないようだった。

 何が起こったのか、あの光は何だったのか――それを考える前に、目の前の男が起き上がる。


「この……クソガキがぁっ!」


 落ちた剣を拾い、男は怒りを露わに襲いかかる。この距離では、よけきれない――

 思わず身構えた瞬間、空気が大きく振動する。


 終わりだ――と目を伏せた瞬間、耳元で聞きなれない声が響いた。


「そこまでにしましょうね、アルト」


 凛とした、だが妖艶な雰囲気を持つ女性の声。

 痛みを感じないことと、その声に不審を抱いて顔を上げる。目の前に、蒼い髪の女性の後ろ姿があった。


「流石にクライスト領でこんな大乱闘されちゃ困るわ」


 まったく困っていないような物言いで、その男――アルトの、剣を掴んでいる。何かの魔術だろうか、剣を掴んでいる部分だけ淡い光に包まれており、彼女の手が傷付いた様子は微塵もなかった。


「アスタロト!貴様、邪魔をする気か!?」

「……物事の優先順位が解ってないようね?代行する相手が間違ってる上に、目撃者の数も尋常じゃないわ。

 あちらでなら別に問題ないけれど、ここがどこか考えなさいな。」


 厳しい口調でアルトを一喝すると、女性はちらりとキアを見る。

 整った面立ちの、気品のありそうな女性――街で出会ったくらいなら、それで済んだだろう。やはり貴族然とした身なりの彼女は、ただならない気配を有していた。


「うるせぇっ!俺は今このクソガキを殺してぇんだ!」

「自称冷静なルシオン、が良く言うわね。もっと冷静におなりなさいな」


 アスタロトと呼ばれた女性は、アルトの鋭い目に動じることなく微笑む。その微笑みのまま、不意にアルトの鳩尾に蹴りをくらわせた。


「ぐ……っ、き、さま……」

「……ごめんなさいね坊や、これ、今日の所はお詫びに連れて帰るわ」


 あっさりと倒れてしまうアルトを呆然と見ながら、キアは目の前の女性を見上げる。

 あれだけ強かったあの男が一瞬で――。


「でもねお穣ちゃん、今日のところは見逃しても――

 逃げられるってことはあり得ないからくれぐれも注意することね」


 軽々とアルトを抱えて、アスタロトはごく自然に微笑む。その笑顔は、何も知らない人間が見れば一発で魅了されてしまうんだろう。

 だが、この場でのそれは恐怖を与えるに足る笑顔だった。


「それじゃあ、ごきげんよう。お騒がせしたわね」


 やはり自然な笑顔のまま、アスタロトはアルトを抱えたまま平然と村の外へ消えていく。

 漸く周りに集まって来た村人たちに質問をされても、答えられるような状況ではなかった。


「……怪我、してるわ。歩けます?」

「うん」


 いつ付いたかわからない腕の傷に、指摘されてから気付く。

 ひとまず家に戻って治療を――と勧めるクラウディスに何も答える事が出来ず、キアはゆっくりと歩き出した。





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