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Double.第三部  作者: Reliah
3/15

3.クラウディス





 目がさめれば、知らない天井、知らない部屋。

 いつの間に意識を失っていたのか――それすら思い出す前に、少女はゆっくりと起き上がった。


 ぽとりと、額から何かが落ちる。まだ冷たい、濡れたタオル。


 見渡せばそこは、どこかの民家らしい。一瞬ほっとした後、ベッドの傍にある窓から外を見た。


「あ……、あの人は」


 窓から見えた光景に、少女は思わず声を上げる。

 ほんの少しくすんだ緋色の髪の、少し自分より年上のように見える少年。


 その姿を見て、少女は意識を失う前に彼に会っている事を思い出した。


 ――熊に襲われていた自分の前に現れた少年――

 彼がそこにいるという事は、自分は助かったという事なのだろう。

 恐らく、ここはあの少年の家――


 そこまで情報を整理すると、窓の外で薪割りに勤しんでいた少年が顔を上げる。



 金色の瞳と、視線が交わる。



 ひと時の間を置いた後、少年はほんの少し安心したような表情をして、持っていた斧を片付けた。

 「ちょっと待ってて」というような仕草の後、視界から彼の姿が消える。


 ほぼ同時に、どこかでドアの開く音――恐らく、玄関なのだろう。

 程なくして、部屋のドアをノックされ、ゆっくり開かれた。


「――気がついたんだ」


 まだ声変わりを果たしていないのか、見た目よりはやや高い声。

 ベッドから降りようとすると、少年は「いいよ」と少女を制止した。


「あの、助けてくれた……んですよね」


 仕方なくベッドに座り込んだまま、少女は目の前の相手におずおずと質問する。

 少年は面食らった様子で慌てながら、「そうなると思う……」と頭を掻いた。


「正直、ウールベアを村に入れたら危なかったから、無我夢中で戦ってたんだけど……そしたら、君は気絶してるし。

 あ、ここは俺の家だよ。勝手に連れてきてごめんな」


 やや落ち着きのない様子だが、少年は至極好意的に話をする。良い人でよかった――安堵して、少女は漸く微笑んだ。


「……ありがとうございます。ほんとうに、助かりました」

「……あ、うん。どういたしまして……」


 何故か少し照れた様子で視線をそらし、少年は苦笑する。

 その少年の名を呼ぼうとして、少女はまだ互いに名乗っていない事に気がついた。


「あ、えっと……わたし、クラウディス。クラウディス・シンフォニア」

「あ――ごめん、名乗ってなかったよな。俺はアムドゥスキアス。アムドゥスキアス・グラーニア――長いからキアでいいよ」


 互いに自己紹介を済ませれば、開け放たれたままのドアがノックされる。次いで、こほんというわざとらしい咳の音。

 ドアの前を覗きこめば、年老いた女性がそこに立っていた。キアの家族らしいのは間違いないだろう。


「あ――母さん、いつからいたの?」

「お前がバタバタ家に入ってくるところから見てたわ。ええっと、クラウディスちゃん、ね?具合はどうかしら」


 見た目でいえばおばあちゃんともいえるその女性に手を握られ、クラウディスは一瞬面食らう。キアの母――にしては、少々高齢に思えた。


「あ……大丈夫、です。多分……」

「そう、それならよかったわね。……おや?」


 きゅうう、と、何処からともなく聞こえた音。

 母親の反応と同時、キアも一瞬面食らった表情をする。


 瞬時にその音が自分の腹から鳴っていた事に気がつくと、クラウディスは慌てて下腹部に手をあてた。


「おやおや、丁度ご飯時だからねぇ。クラウディスちゃんの分もちゃんと作ってあるから、今日はうちでご飯をお食べ」


 にこにこと微笑む彼女の後ろに控えていたキアが、「母さんの飯はけっこううまいぜ」と微笑む。

 恥ずかしくも、和やかな雰囲気に自然と笑みがこぼれた。







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