12.忍びの少女
「まったく、もう!人を泥棒扱いした挙句、胸を触る、なんて、最低、でござる、よ!」
がつがつ、もぐもぐ。
大量に並べられた料理を次から次に消費しながら、少女が先程の男の文句を垂れる。
その向かいの席でジュースとお茶を啜りながら、キアとクラウディスは苦笑いをこぼした。
「だいたい、あんな宝石盗むなら、食べ物を盗むでござる、よ!」
食べながら切れ切れに喋る彼女に、二人だけでなく周囲の他の客も圧倒されている。
その場の誰もが正直に思った事だろう。
「どこにその量が収まるんだ?」と――。
結局、泥棒と疑われていた少女は盗品どころか何も持っておらず、さらにその盗品を持って逃走した子供が見つかったことで解放された。
その前に警備官たちにこっぴどく叱られるほど、追いかけてきた男をのしてしまったのだが。
ソカと名乗った黒髪の少女は、よくよく見れば異国――恐らく名も知らない東の大陸の衣服を身につけている。
独特な喋り口調もそれのせいかと思うが、そもそもこの少女自体少し他とズレているようだ。
「ふーっ!生き返ったでござる!拙者、この恩は一生忘れないでござるよぉ!」
嬉しそうにお腹をさすり、少女は幸せそうに微笑む。
聞くところによると彼女は、東の大陸にある「出雲の国」という場所から知り合いを訊ねにやって来たらしい。
「どうも船を間違えてしまって、れでぃえんす、という良く解らない国に来てしまったのでござる。
それで用意していた路銀が尽きてしまって、さらに盗人と間違えられて、本当に死ぬかと思ったでござるよ」
涙ながらに語るソカに、クラウディスがそうだったの、小さいのに偉いわね――なんて頭を撫でる。
が、その瞬間ソカの瞳がさらに潤んだ。
「し、失礼な!拙者、花の17歳でござるよ!?」
…………。
『ええっ!?』
ほとんど同時、と言ってもいいだろう。同じリアクションで、キアとクラウディスは目を丸くして叫ぶ。
どう見ても十五くらいにしか見えない彼女だが――
「ほ、ほんとーに、わたしと一つしか変わらないの?」
何故か慌てた様子で、クラウディスが尋ねる。涙目で頷くソカに、もう一度絶句した。
「そ、そりゃあ、周りの同じ年頃の娘よりも幼く見えると国では評判だったりもするでござるが……じゃない、とにかく、子供じゃないでござるぅ……」
「ご、ごめんごめん。あ、というか君は今からどうするんだ?」
くすんくすんと泣き出すソカを宥めるように話題を変える。どうやらソカも存外切り替えは早いらしい、はっとした表情で顔を上げた。
「……くらいすとまでは、どれくらいかかるでござるか?」
どうやら、彼女の知り合いというのはクライストにいるらしい。道理で路銀が尽きるわけである。
「一週間は、かかるよな。それも、馬車でだから……徒歩じゃ……半月か、それ以上?」
恐る恐る呟けば、ソカは漆黒の瞳を潤ませて頭を抱える。無一文では馬車に乗れない。しかし、歩いて行くにも遠すぎる上に野宿も避けては通れない。
「……キアさん、あの……」
「……多分なんて言いたいかは解るけど、なに?」
頭を抱えるソカを憐れんだ目で見るクラウディスが、何を言いたいかはよくわかる。
それでもあえて質問すれば、予想通りの回答が帰って来た。
「――目的地も、一緒ですし……彼女も連れて行きませんか?」