「おかえりなさい、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも……必殺技?」
「お腹空いてるし、ご飯いただくよ」
僕は妻のミサに鞄とコートを預けながら答えた。
「はあい。すぐ支度するね」
どんなに仕事で疲れていても、新居に帰って可愛いミサの笑顔を見るとこちらも笑顔になる。ありきたりな新婚生活かも知れないけれど、幸せはこういうことだと胸を張って言える。
食卓に並べられた手作り和風ハンバーグに箸を伸ばしている僕に、ミサは少し不満そうな顔を見せている。
「あなた、ちっとも“必殺技”って言ってくれないのね」
「うん、言わないね。帰宅早々必殺技は食らいたくないよね。というか、いつどのテンションで言う奴なの、それ」
「ほら、わたしって魔法戦士じゃない?」
「うん、初耳だね。何それ、ミサ契約社員って言ってなかったっけ」
「契約して仕事してるって言っただけよ。魔法を使うには契約が必要なの」
僕は苦笑して味噌汁の椀に口をつけた。
「そっかそっか、ちゃんと聞いてなかった僕がうっかりしてたね」
「でね、魔族と渡り合う戦闘力を維持するためにトレーニングするんだけど、やっぱり必殺技の威力って最終的な確認には実践が欠かせないのね。そこをあなたに手助けして貰えたらなって」
「うん、その話全部本当だとしても、それで仕事帰りの伴侶を的にするのはあんまり過ぎないかな?」
「あなたならきっと平気だと思うの。あなたには始原の竜族の血が流れているでしょ?」
「ん? しげ……何て? 聞いたこともないワード出てきたけど」
「始原の竜族。あなたその末裔なんだし、そもそもこの街に魔族が大挙してやって来てるのもあなたのその希少な血に惹かれてのことだもんね。わたしなんかの獄雷焔滅魔法ぐらい平気、平気」
「うん、ちょっと情報量多すぎるな。僕とこの街どうなってんの。あと何か魔法の名前がエグくない?」
「だめかな? 必殺技」
「うん、正直ワケわかんないけど……他ならぬ君の頼みだし」
「嬉しい! じゃあまずは“惨骸”で、あなたの蘇生を待って“虐屍”って順番ね!」
「うん、待ってごめん、二つやるの? あと蘇生って何? 流れで僕一回死んでない? 技名も邪悪だよ。もっとこう、ミラクルとか、ラブリーとかそういう――」
「……だめ?」
不安そうに見上げてくるミサ。こんな可愛い妻のためだ、ひと肌脱ぐしかない。
ありきたりな新婚生活ではなくなるかも知れないけれど、幸せはこういうことだと僕はまだ胸を張れる。
なろうラジオ大賞2 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:必殺技