クソゲーがクソたる所以
『Fantasy Castle Magic 〜今宵、貴方と〜』というゲームがある。通称、FCM。
そこそこ歴史のある老舗メーカーから出ていて、ジャンルは恋愛シュミレーション。所謂乙女ゲームってやつだ。
このメーカーの乙女ゲームは昔からそこそこ評価が高く、最初はほぼ無名だったのが口コミがじわじわ広がり人気になったタイプだ。
実際、出すゲームはどれも面白いしユーザーのツボを押さえていて、新作が出るたびにファンもどんどん増えていった。当然、新作ゲームとしてFCMの発表があった時は軽くお祭りみたいな騒ぎで、SNSは大盛り上がりだった。
発売が5回も延長されたあたりで開発がヤバいんじゃないかみたいな話も出たけど、今までの実績からして大丈夫でしょこのメーカーだし、とファン達はあまり気にしてなかった。
で、いざ発売となって蓋を開けてみたら……。
うんハッキリ言おう、FCMはクソゲーだった!
システムも快適だしキャラデザも良いし音楽も良い、もちろん豪華な声優陣の演技も良い。だけど、それ以外の全部がダメダメだった。
物語の舞台は、フロレンシア聖王国にある、国中の魔法の力を持った人間が集う王立の魔法学園。16歳になると魔法が使える人の元へ招待状が届き、魔法学園へは貴族も平民も関係なく入学することになる。だが実際は平民階級の生徒は差別されており、貴族出身の生徒で固めた生徒会が全ての実権を握っている。そんな魔法学園に、平民階級の主人公が入学してくるところから物語は始まる。
とまあ、ここまではよくあるタイプの乙女ゲーム。FCMで一番厄介だったのは、何を隠そう主人公その人だった。
え?主人公ってプレイヤーの分身みたいなものでしょって?
それに、個性ありの主人公とは言え乙女ゲームの主人公だし、何がいけないのって?
そうね、私もどっちかって言えば主人公に個性があった方が好きだし、主人公ちゃんを幸せにするぞ!って気持ちでスチル回収のために周回頑張れたりする。
けど、FCMの場合は主人公がヤバかった。
まず登場シーンからして、入学式に遅刻し入り口が閉まってる〜!と言いながら、膨大な魔力で無理矢理こじ開けて入るという超展開だ。
軽いものとは言え、教師陣の張った防御結界が破られたことで騒ぎになり入学式は中止。
このイベントは多分主人公の規格外な魔力を示すためなんだろうけど、入学式が中止になったことについて主人公は一言も謝らず、やっちゃった☆みたいな態度なのだ。
まあ導入シーンだしこれくらいの展開はいいかと次に進んだプレイヤーを待っているのは、めくるめくご都合主義と入学式イベントが霞むくらいの超展開の嵐だった。
1つ1つ挙げていくとキリがないけど、例えば最初に言った貴族による平民の差別の件。
平民出身の主人公は差別を無くすためにキャラクター達と協力して他の生徒を巻き込んで行動していくんだけど、最終的に貴族階級の生徒を拘束して自分たちの要求を受け入れるまで解放しない宣言をする。しかも自分たちから話し合おうと言って設けた、双方の代表者による会議の席でそんなことをしたのだ。
いや、話し合おうって言ったじゃん!?しかも拘束って、そこまでする必要あるの!?貴族出身の攻略キャラ達は止めるどころか、俺たちは主人公の味方だ!って態度だし。
他にも、あっちの方で争う声が!?って場面で「行ってみる」と「近付かないでおこう」って選択肢出てるのに、どっち選んでも結局声の方に近付いていく、みたいな無意味選択肢がたくさんあったり。
ちなみに争いってのは平民と貴族の喧嘩で、喧嘩両成敗とか言いながら平民出身の生徒に貴方は悪くないわ…とか言っていたりする。両成敗じゃなかったのか。
まだまだあるけど、ズレた正義感で突っ走る主人公と、それをヨイショヨイショと持ち上げる攻略対象キャラ達。とにかく一事が万事こんな感じなのだ。
そして、忘れてはいけないのが、FCMにおける最大の悪役――――公爵家令嬢、ミシェル・フラヴィニー。
生徒会副会長として、また攻略キャラ1人である王子様の婚約者として、事あるごとに主人公の邪魔をする悪徳令嬢……なんだけど。
主人公とその周りがあまりにも酷すぎるのと、ミシェル本人が別に間違ったことは言ってなかったせいもあって、ゲームで1番の常識人ともっぱらの評判だった。
ミシェルがやったことと言えば、主人公がナイフとフォークも使わず食事をしようとすれば「マナーがなってない」と叱り飛ばし、生徒会メンバーでもないのに生徒会室に入り浸り攻略対象とイチャイチャすれば「業務の邪魔だから出て行け」とつまみ出し、などなど。
プレイヤーからしてみればそりゃそうだろって感じだけど、その度に何故か主人公はキャラクター達から庇われ、ミシェルは悪役扱いされていった。
そして共通シナリオのラストイベントで、ミシェルは学園裁判にかけられてしまう。
罪状は平民階級への差別を主導した、とのことだけど、学園では昔から差別が横行してたんだからミシェルだけのせいではないし、ミシェルがあからさまに「これだから平民は〜」とか言ったシーンも無い。フルコンプした私が言うんだから間違いない。
けど、FCMは主人公のためのご都合主義ゲーム。結局ミシェルはその罪を問われ、学園から追放される。
残された主人公たちはやっと訪れた平穏な学園生活を楽しむ、メタ的に言えば共有シナリオからキャラクターの個別シナリオに行くんだけど、そこでもまたミシェルが登場するのだ。
学園でのことを咎められ逆ギレした(というか、あんなことされたんだし普通に怒ってる)ミシェルは、学園外の王侯貴族達に呼びかけて魔法学園を圧力で支配しようとする。
それに対して、主人公たちは力を合わせてミシェルの野望を打ち砕く。
……説明が雑? ここもFCMがクソゲーたる所以で、個別シナリオの展開はコピペしたように全員同じなのだ。
そりゃあキャラごとに話す内容とか違うけど、そんなの誤差じゃん!全員同じなのは手抜きだろ!と画面の前でキレた記憶も新しい。2人目以降はスキップしたせいで飛ばし飛ばしだったのでよく覚えていないのだ。
とにかく常識人だったミシェルは反逆罪で捕まり、主人公の選択によって処刑・国外追放・暗殺のどれかのルートを辿ることになる。
唯一と言っていいほどの常識人ミシェルがこんな扱いを受けたせいもあり、各レビューサイトは大いに盛り上がった。みんなで手を取ってわーいって感じじゃなくて、燃えてる方の意味でだけど。
案の定、軒並み評価は星1以下。ちなみに肝心のレビュー内容は、
「ファンタジーなのはシナリオライターの頭だろ」
「主人公が無茶苦茶な事言うのはシナリオの進行とともに人間として成長していくからだよね!と思ったら、最後までそのままだった」
「この内容を世に出す勇気」
「悪役令嬢が一番マトモで可哀想に思えたのはこのゲームが初めて」
「テストプレイのときでも、なんでもいいから発売前に、このシナリオおかしくね?って言う奴は制作サイドに居なかったわけ?」
「発売日に売った」
「攻略対象めっちゃ居るじゃんと思ったのに、ストーリーは3分の1くらい使い回し。首すげ替えただけの薄っぺらいストーリーを延々とスキップしていく。作業ゲーでしょこれ」
などなど、フルボッコの嵐だ。
……さて、こんなに長々とクソ乙女ゲームについて語ってしまったのには理由がある。
「はぁ……」
鏡の中でため息をつくのは、目の醒めるような美少女。
星明かりを束ねた銀の髪に、氷河を閉じ込めたアイスブルーの瞳。
私が知るよりもずっと幼い、10歳のミシェル・フラヴィニーが不機嫌そうな顔でこちらを見つめていた。
ねえ、異世界転生って、マジであるの?