私は気持ちよく眠った、ただそれだけだった
「はぁ〜〜〜〜〜〜」
ゲーム画面に煌々と写し出されるゴテゴテとした『ALL COMPLETE!』の文字を見つめながら、私はコントローラーをソファーにぶん投げた。大丈夫、壊すつもりなんて毛頭ないからちょっと放っただけ。
「やっと終わった……」
長い、長い戦いだった。使い回しスチル、焼き回しストーリー、無駄に分岐があるくせにほとんど無意味な選択肢、その全てに私は勝ったのだ。
ぐでーっとソファーに寝っ転がれば、薄暗い部屋で画面からの光に照らされるビールの缶が見えた。すっかり温くなってしまったのか、缶の表面には水滴がたくさん。飲まなきゃやってられないと思って開封したのに、途中から飲む気力も無くなりひたすらボタン連打していたせいでテーブルの上に放置してしまった。片付かないし飲んじゃえ、と半分くらい残ったそれを一気に流し込む。うわーやっぱり温い。
缶を叩きつけるようにテーブルに戻せば、ぐわん、と世界が揺れた気がした。お風呂と家事を済ませてからゲーム始めたため、あとは歯磨きして寝るだけでいい。ああ、でもなんか眠いし疲れたし、今日くらいはいいかな。出かける予定の無い休日の前夜ってこれが許されるから最高。
酔いが回ってきたのか、ぐわんぐわん回る視界の中で息を吐いてソファーに雪崩れ込む。
にしてもなあ、なんで主人公ちゃんあんなお花畑思考なんだろ。追随するキャラ達もどうかと思うけど、あんな子リアルで居たら絶対近付きたくないよなあ。
そんなことを考えながら、私の意識は実に気持ちよーくフェードアウトしていった。
――――――――――コンコン。
「……さま」
「んー」
小さな、でもどこか無機質な女の人の声がする。
「お目覚めください、本日はロベール様の……」
「んー?」
ろべーるって、誰?
っていうか、まだ眠い。今日は休日で出かける予定も無いんだから、もう少し寝かせてってば。
「ミシェル様、ミシェル様」
コンコン、コンコンという音が更に大きくなる。うるさいなぁ、なんなの。
「なによぅさっきからしつこ……えっ?」
ガバッと体を起こすと、そこは自分の部屋じゃなかった。
絵に描いたような豪華な天蓋付きベッドに、広すぎる空間を埋める豪奢な調度品。大理石の床には高級そうなカーペットが敷かれ、天井には無駄にキラキラしたシャンデリア。
え? え? なにここ、どこ?
「ミシェル様、お目覚めですか」
「うぇ!?」
私の口から変な言葉が飛び出す……けど、これ、私の声じゃない。もっと幼い、小さな女の子の――――――。
ガチャ、と音を立ててドアが開かれる。そこに立っていたのは、茶色い髪をきっちりと纏め、足首まで隠れるメイド服をこれまたきっちりと着こなしたお姉さんだった。
「ミシェル様?」
混乱して何も言わない私を不審に思ったのか、彼女はカツカツとベッドの側まで歩み寄る。
「ミシェル様、もしやお体の調子が――――」
「だれ、なの」
私の言葉に、彼女は小さくため息をつく。どこか呆れたようなその表情は、とてもじゃないけど友好的とは言えない。
「私はロラにございますよ、ミシェルお嬢様」
「ロラ……っ!?」
ずきりと頭が痛んだ。おもわず抑えようとした手が視界に入り、私は目を見開く。
丸みを帯びたさくら色の爪に、白くほっそりとした手首。まだ幼さの残る手は、とっくに成人を迎えた私のモノじゃない――――。
ぐるぐると頭が揺れる。苦手なジェットコースターに無理して乗った時よりも、数百倍は気持ち悪くて苦しい。
メイド服のお姉さん――――ロラが何事か叫んでいる。それすらも耳に入らず、私の意識は再び闇に沈んでいった。