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04 自称魔王の低級悪魔ベルちゃん

(魔王、ねえ…)

『そうだ。恐怖せよ小さき人の子、彼の魔王ベルクヘルゼムと対話できる喜びに咽び泣くがよい』


俺の心の声に反応して魔王を自称する何かが尊大な態度を取る。取っている気がする。

心当たりはあった。魔王城で居眠りしていた時に激しい痛みに襲われた。あれが俺に憑り付いたタイミングと見て間違いないだろう。あそこは魔族の領地であったし、思いもよらないことが起こっても不思議ではない。何せ俺だけには聖女の加護や偏見エルフの精霊魔術の恩恵は一切なかったのだ。何かしらの状態異常にかかってもおかしくはない状況だった。


(魔王を名乗る、えーと、低級悪魔さん?俺に何か用ですか?)

『なっ、悪魔などではない!しかも低級などと、先程から魔王と名乗っているではないか!』

(えー、じゃあ魔王ベルクヘルゼムなの?証拠ある?)


魔王ベルクヘルゼムの名は有名だ。この世に君臨した極悪魔王。人々を殺し、奪い、恐怖に陥れてきた魔族の王だ。

まあそれも今となっては過去の話だ。勇者エルディアとその仲間たちの活躍で魔王は死んだのだ。


『証拠?そんなものは必要ない。何故なら我がここにこうしていることそのものが我である証明なのだからな!』

(ふーん)


どうやらなりきっているようだ。俺は全く信じていない。その理由は全く脅威を感じないからだ。俺も魔王城で魔王の魔力の圧は感じていた。姿は見てないが城の外からでもくらくらするほど圧倒された。でもコイツからは魔力が欠片も感じ取れない。それに王都に戻ってきてからエルディアたちが国王に献上した魔王の死に首は見た。魔王は死んだ、これは事実だ。


(俺は信じてないけど、魔王ならとんでもない力があるでしょ。何で俺なんかに憑りついてんだよ)

『ほう、そんなに興味があるか。知りたいのなら教えてやらぬこともないが、くくっ』

(どうでもいいけど。まあ話したいなら話せばいいんじゃないか、そう頭の中で直接喋られちゃ耳を塞いでも無駄だしな)

『ふっ、よかろう。我が無念の声を聞くがよい』


――とまあ、自称魔王のベルクヘルゼムはこれまでの経緯を俺に語り聞かせた。

まとめるとこうだ。

確かに魔王は勇者によって倒された。だが、魂だけは逃げ延びていて復活するための新しい身体を必要としていた。肉体は魔族の身体しか受け付けない、しかし勇者が皆殺しにしていたためどうすることもできず、魂だけの魔王は今度こそ滅びる運命だった。そこに俺がいて、一か八かで俺の中に飛び込んだら奇跡的に一命を取り留めた。だが魂だけで時を過ごし過ぎたためにもの凄く弱体化していて以前の面影は無く、こうして無様を晒している、と。


(こういうことだな?)

『不本意ながら概ね合っておる』


俺はまだ完全には信じていなかった。だが話す内容は当人しか分からないことばかりだ。エルディアたちに聞いた話とも一致する。これはほぼ魔王確定で間違いない。

さて、俺はどうするべきか。

魔王に憑りつかれたよ浄化して。そんなことを言えばどうなるだろう。完全に魔王を殺すため俺ごと殺すんじゃないか?浄化すれば俺から魔王は剥せるだろう。しかしそれで魔王に逃げられたり、魔物の中に入られて新生魔王が誕生されては厄介だ。

俺なら俺を殺す。魂だけが逃げられないように結界を張って、確実な方法を取る。浄化なんて必要ない。そしてあいつ等ならやりかねない。俺という存在はあいつ等にとって取るに足らないどうでもいいものだからだ。

詳細は伏せて、低級悪魔に憑りつかれたことにするか?いや、そんなことをしたら浄化などしてはくれないし、魔王を逃がすことになる。もしそれで新しい身体を手に入れられでもしたら、責任は取れないな。

結論としては保留だ。

今のところ害も無いようだし、しばらくは様子を見ようと思う。


『それでものは相談なのだが、』

(断る)

『まだ何も言っておらぬではないかっ』

(言わんとしていることは分かる。どうせ復活を目論んでるんだろ、あとは勇者に復讐とかな)

『ほう、優秀だな。そこまで汲めるのなら話が早い。貴様には我の手足となり―』

(だから、断ると言った。俺は人間だ、魔王には加担しない)

『…どうしても?』

(当たり前だ)

『……本当に?』

(いいか。このことを話せば俺は殺される。俺もすぐにどうこうできるとは思っていない。だが必ず安全にお前を剥がす方法を見つける)

『我を殺すということか?愚かな、たかが人間にそんなことできるわけがない。勇者の力を持ってしても我はこのように健在だというのにな』

(健在ではないだろ。ところで確認だが、俺に憑りついているからといって身体を乗っ取ったり操ったりできないよな?それに出入り自由というわけでもないよな?)

『答える義務はないな』

(正直に答えるなら魔王復活に手を貸そう)

『本当か?!そうだ、その通りだぞ。故に頼りになるのは貴様しかおらんのだ。貴様はこれから我の手足となり新しい肉体に相応しい依代を探し出してもらわないとならん。よし、早速向かうとするか。ん?どうした?早く行かぬか』

(そこまで確認できればやはり保留するのが一番だな。お前、魔王とか自称するわりには威厳が皆無だな。俺としては扱いやすくて結構だが)

『小癪な人間、我を愚弄するとその命に関わるぞ』

(俺に死なれたら困るのはお前の方だろ?たぶん俺たちは一心同体、一蓮托生なんだろ?)

『ぐ、その通りだ。貴様が死ぬ時、我もまた共に命尽きるであろう。よいか、くれぐれも身体は大事にするように!もう一人の身体ではないのだからな!こんな所に野宿など論外だぞ、人間は暖かい布団で眠るものなのだろう』

(うわー、何か愛着湧くなあ。あのクソエルフも精霊とこんな風に話してたのかな、何だか楽しいぞ。よし、今日からお前はベルちゃんだ。よろしくな相棒!)

『気安いぞ人間!我にはもっと畏怖の念を持って下から話しかけよ。ん?どうやら来客のようだぞ』


「は?」


テントの集団から随分と離れた窪地の陰。焚き火も焚かずに夜の闇に紛れていたイシュトの方へ迷わず真っ直ぐ向かって来る者がいる。魔物ではない、これは人間の足音だ。それも2人分。思わず気配を殺したイシュトだったが月と星の明かりが照らし出したのは良く知った人物だった。


「イシュト、こんなところにいたのか」


夜の闇の中、顔を認識できるほど近づいた3人。

勇者エルディア、エルフのクティ、そしてイシュト。何故か沈黙が流れる。そしてクティが手を翳すと淡い光球が出現する。良く見えなかった表情をはっきりさせるほどには明るくなった。エルディアは勇者にも関わらず、申し訳なさそうな顔。クティは怒っているようにも見えるが無表情。イシュトの顔には、はっきりと怒りが滲んでいた。

イシュト自身驚いた。別のところにいる冷静な自分が落ち着けと訴えている。今日の事を全く気にしていないつもりだったがエルディアの顔を見た途端に感情の波が荒ぶっている。イシュトが視線を外し、深く息を吸う。肺を夜の空気が満たし、いくらかは冷静になれた。


「何か御用ですか勇者様、今頃は城で優雅に寛いでいられる頃かと思っていましたのに。今日の公務は大変だったことでしょう。お疲れの中、こんな時間に元御者のところまでわざわざおいで下さいましてありがとうございます」

「…すまなかった。君にはちゃんと話すつもりだったよ」

「…そうか。そういやそんなこと言ってたっけな。でも裏切られた気分だぜ。俺たちは兄弟のように育った仲なのにな。人は変わる。今じゃお前は世界を救った勇者様で、俺は奴隷か召使い。それもクビになったわけだが」

「そんなことはない。僕は」

「待てよ。別に俺は今日の事だけを怒ってるわけじゃないんだぜエルディア。今までの最初から最後までの全部。全部だよエルディア。お前にも立場ってもんがあったんだろ?見て見ぬふりしかできなかったんだろ?分かってるよ俺も。だが感情は別だ。分かるな?」

「ああ。本当にすまなかった」

「そうか。よし、じゃあ今日はもう帰って寝ろ、俺も冷静じゃない。有益な話し合いができそうにない」


今の自分はどうかしている。エルディアに八つ当たりじみた事をいうなんて、らしくない。俺は背を向けるとエルディアが去るのを待った。

だが、予想だにしない一撃が俺を襲った。


「ぐふっ」


側面を巨大な空気の塊で殴られたみたいだ。まともに喰らった俺はボロ雑巾のように転がった。


「クティ!何をするんだっ」

「いえ、エルディア。久々に私は怒りましたよ。何ですかあの態度は、かつての仲間に対するものではないでしょう。貴方の頼みとあらば精霊に力を借りてここまで案内しましたが、この下男のクズぶりを再認識させられるだけでした」


イシュトが起き上がろうとすると蹴りが飛んできた。またしても地面に伏すことになったイシュトをエルフの冷たい瞳が見下ろしている。


「やはり魔族の血が半分混ざっていることだけはある。魔族は根絶やしにします、お前もここで殺してあげますよ」

ここまで書くのにかなり時間がかかりました。筆が遅いですはい。5話以降の更新は未定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白いです! 続きがすごく気になります。なので次の更新楽しみに待ってますね。
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