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030 俯瞰なる目

「ああ!思い出しわ。お前、御者のやつか」


ジャックがイシュトに指差しする。距離が近く指が目の前にあり、相変わらずの態度にイシュトはイラついたが今はそれどころではない。


「エルディアは一緒じゃないのか?」


エルディアたちさえいれば話が早い。エルディアの剣技なら容易に魔物を倒すことができるし、クティの精霊魔術で広域に魔物を殲滅することも可能だ。


「ああ、いやその、なんつーか、…別々に行動してるっしょ」

「そうなのか?」


何故か歯切れの悪いジャックを不思議に思いつつも、これで今後の方針も決まったことにとりあえず安堵する。勇者が中心となって魔物を倒していけばこの状況を打破できるはずだ。


「その名は勇者の、じゃあもしかしてアンタが竜槍使いのジャック様か!」

「何だと?!」

「マジか、これで王都は救われるぞ!」


イシュトとジャックの会話を聞いていた冒険者たちが活気づく。まさか魔王を倒した勇者の一人がこの場に現れるなんて、控えめにいって奇跡だ。

興奮する冒険者に戸惑っていた様子のジャックだったが、その熱が伝播したのか次第に自信に満ちた笑顔を見せた。


「もちろん!このジャック様に任せておけば全部上手くいくっしょ!」

「頼もしいぜ!」

「兄貴って呼ばせてください!」

「私の未来の旦那さまステキ…」


あっという間にジャックを中心とした流れが出来上がった。イシュトはそれに肩を竦めるとゲイリーの元へ向かった。何にしろするべきことは決まったようなものだ。分かり易い御旗があれば士気も上がるし、水を差すようなことをわざわざ言ってやることもない。


「ギルド長、これからどうするかだが」

「ああ、ジャック殿に協力して貰って魔物共を倒す。町の人々を南門から避難させよう!」


******


「王都の皆さーん!我々は冒険者ギルドです!今から王都の外へ避難しまーす!一緒に来る方は付いて来てください!安全は保障します!ここに騎士が到着するのがいつになるか分かりません。今なら安全に王都の外へ出られます!5分経ったら出発します!…繰り返します!我々は冒険者ギルドです!今から……」


作戦はシンプルだ。ギルドから南門まで一区画ごとに5分間だけ町の人々に呼びかけて、一緒に来たい人だけを連れて避難する。

ここから南門までは六区画あるが避難希望者を待つ間、襲ってくる魔物から人々を守るのがジャックたちの役割だ。計30分間の耐久戦となる。

必ずしも逃げることが最善だとは限らない。家の中で息を潜めていれば騎士や勇者たちが魔物を殲滅するかもしれないし、魔物が一軒ずつ建物を調べていくわけでもない。


「北!オーク3!さらに後方より、リザードマン…7!」

「西!オーク2!」

「おっし、やるか!西は頼む!団体さんは俺に任せるっしょ!」

「了解ですっ」


呼びかける大声に反応して魔物が集まってくる。

王都全体に魔物は広がっているが、やはり北の方からやってくる魔物の数は多い。

ジャックが冒険者ギルドで貸し出している槍を携えてオークと正面から対立する。3匹のオークは全員が素手で、躊躇うことなくジャックへと襲い掛かる。間合いは槍のほうが長いのでオークの攻撃は届かず、ジャックが素早い連続突きでオークをメッタ刺しにしていく。


「ピギヒィッ」


脂肪が厚く、致命傷には至らないものの全身を刺された痛みで戦意喪失に追い込んだ。ジャックは止まらない、そのままオークたちをやり過ごすとリザードマンたちと肉薄する。

リザードマンはそれぞれに剣を持っている。無造作に振り下ろされる剣を弾くと槍を薙いでリザードマンたちの喉を掻っ切っていく。

圧倒的だった。リザードマンを倒した後は逃げようとするオークを背中から突いて倒してしまった。


「さすが兄貴だぜ」

「はんっ!こんなもんジャック様の敵じゃねえっしょ」


西のオークも冒険者の手によって難なく倒されたようだ。

それをこっそりと覗き見ていた人々が不安げに外へ出てくる。


「大丈夫ですよ。我々には戦う力があります、必ず王都の外へお連れします」

「連れて行ってください、お願いします。ウチの子はまだ小さいんです」

「俺も連れてってくれ」

「儂もじゃあ」


時間になると一区画分進んで同じことを繰り返す。戦えない者をぐるりと囲むようにして移動する。魔物が現れる度にジャックが飛び出して行き、スムーズに南門まで辿り着いた。


「こっちには魔物は来ていないようだな」

「外にも魔物はいなかったぞ」

「よし、では我々は引き続き、人々を非難させるぞ!」


上手くいったことに安堵する。近くに村があるので最終的にはそこを目指すことになっている。

村までの護衛として戦力を若干削ぐことになるが、ジャックが何人分もの働きをするので問題は無いだろう。

このまま全員で王都を離れたいところだが、ジャックたち戦える者は通りを一本ずらして同じことを繰り返すつもりなのである。より多くの人々を避難させるには地道で時間の掛かるやり方だが効果のある作戦だった。


「ジャック様、どうかご無事で…」

「おうよ。いっぱい連れて行くから、先に行っててくれよな」


シフォンがジャックの手をぎゅうっと握る。それにジャックが応えるとシフォンは嬉しそうに笑った。

しばしの別れというやつだ。殺伐とした空気の中で二人の間だけほんわかとした空気が漂っているようでイシュトは何故か白けたような気持ちになったが、避難組がすぐに出発したので気持ちを切り替えた。ベルちゃんが変なことを言っていたので変に意識してしまったのかもしれない。


「おし!俺たちも行くぞ!」

「おおっ!」


ジャックのモチベーションは高いらしく、魔物が現れるとすぐさまに飛んでいき一人で難なく倒してしまう。流石に並の魔物とジャックとではレベル差があるらしく、そこはさすが勇者の一人といったところだった。

頼もしい限りではあるが、イシュトには懸念があった。


「死ねや!」


オークの腕の関節を狙っての連続突き。オークが痛みに体をよじらせた拍子にジャックの持つ槍がポッキリと折れてしまった。


「は?」

「ブヒーーー!」


オークが持っていた斧を振り回す、ジャックは柄だけになった槍でそれを防ぐが木の棒同然のそれでは防ぐことが出来なかった。

ジャックが後方に飛んで距離を取るのと入れ違いでイシュトが斬り込みに入る。的確に斧を弾くと、深く腹を切り裂いてオークを倒した。


「ははっ、危ね。御者のくせにやるじゃん、俺を助けるなんてポイント高いぜ?」

「ったく、それだよそれ。おかしいだろ。カグツチはどうしたんだよ」


ジャックは確かに強い。だがそれは専用の武器を持っているからこそだ。ジャックの相棒ともいえる龍槍カグツチ、龍の牙で作られた特別な武器だ。

それをジャックは持っていない。この混乱の中ならしょうがないともいえるが、この混乱の中だからこそ持ってないとおかしいのだ。そりゃ冒険者に貸し出すような槍を使い続けていれば破損してしまうのも無理はない。


「うわ、今それ関係なくね?ちょっと良いところ見せたからって御者ごときに調子こかれると下がるんだが」

「お前、ただの槍とカグツチは別物だぞ。龍の牙で作られた逸品なんて唯一無二なんだぞ、分かるか?」

「武器の良し悪しなんざ俺の腕前があれば些細な事なのー。おーい、予備の槍もらえるー?」

「はい兄貴!すぐ用意します」

「コイツ…」


カグツチがなければジャックは戦力として半減している。それでも魔物には通用しているが、今みたいに突然ポッキリいくこともある。それは命の危機に繋がる、無い物をねだってもどうしようもないが無視できない話であった。


「おーし!勇者エルディアが合流するまで俺がこの王都を守ってやんよー!」

「かっけー!俺たちも兄貴に続けー!」


理論よりも感情で動くタイプ、冒険者たちの受けは良いようだが昔からイシュトはジャックが苦手だった。


(はあ、俺だってわざわざ心配してやりたくねえよ。何で出くわしたのがコイツなんだか、普通にエルディアの方が良かったぜ)

『ふむ、それなのだがなイシュトよ。勇者は王都にいないぞ?』

(は?)

『我くらいになると相手の魔力を感知できるようになる。範囲でいうと王都全体くらいの規模なら誰がどこにいるかくらいは分かるのだ。それに勇者の魔力が引っ掛からん。すなわち王都には勇者がいないということだ』

(ウソだろ?ジャックの話だとバラバラに分かれて王都の魔物に対処しているって話だったぞ)

『我もそれは聞いていたが嘘だな。バラバラになっているのは本当だが、王都にはコレしかいない。勇者どもの間に何があったのかは知らんが、貴様だけでも早々に逃げるとよいぞ。我の感知したところによると人間側が劣勢である。もうすぐ近くの騎士の一団が全滅する。そこから魔物の群れが600体ほど押し寄せてきそうだ』



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