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027 王都の狂乱

「―というのがこれまでの経緯だ」


カーム領、グリエッタの冒険者ギルドで事の顛末を話し聞かせたイシュト。ここはギルドの最奥、ギルド長室。格調高い家具に囲まれ、値の張りそうなソファにイシュトは座っている。目の前には禿げ頭のギルド長、ジェイスが腕組みをして耳を傾けていた。


「成程な、ご苦労だった。ゴブリンの件を解決してくれた事、グリエッタの支部長として礼を言わせてもらう」

「まあ、成り行きでそうなったってのが大きいけどな」

「しかし魔族が絡んでいたとはな。魔王が倒されたというのに、ウチみたいな田舎でそんな事が行われていたなんて何とも頭の痛い話だよ。とにかくこの件に関しては慎重に調査していくことにする。少ないが報酬を上乗せしておいた。カウンターで受け取ってくれ」

「分かった。ではこれで」


ジェイスは頷くと、机に向かった。これから彼にはギルド長としての仕事が待っている。

俺は話すべきことを話し、この場を後にした。

人の領域での魔族の活動というのは国が動くほど重要な案件になる。フィイケルマンは倒したものの、全体の被害総数の把握に現場検証やその目的、これから人間に危害が及ぶか等、調査していかなければならない。

国から騎士が派遣されてカームはこれから慌ただしくなるだろう。

俺は当事者として協力を求められるだろうが迅速に動いたとしても数日の猶予がある。しばらくはこの町に滞在して調査に参加することになったが、それまでにやるべきことを済ませておかなければならない。

とりあえずは王都に戻ってシルバーグラムとミスリルアークが死亡したことを報告してこようと思う。遺品とそれぞれのギルドカードは回収してある。それを届けに行かないといけないのだ。

冒険者がクエスト中に死亡するというのは決して少ない事ではない。魔物を相手にしているし、森や洞窟など危険は常に付いて回るからだ。

冒険者が死亡した場合はギルドカードの回収が推奨されている。本当なら遺体を持ち帰り弔ってやりたいが、ほとんどの場合はそれが困難な事が多い。大抵はギルドカードとそいつが愛用していた武器なんかを代わりに持ち帰る。家族がいた場合はギルドランクを元に、ギルドから遺族に貢献度にあった幾ばくかの金が支払われることになる。


俺はカウンターで報酬を受け取ると、特別にギルド職員だけが通れる裏口から外へ出してもらった。

ゴブリンを一掃して町の危機を救った王都の凄腕冒険者。自分で言っておいて痒くなるが、人々はまだ混乱の中にある。俺が魔族の仲間じゃないかと訝しがっている町人が割と多くいるのだ。

まあ、俺は人間と魔族の混血だし?魔王の魂なんかを宿しているんだから、どちらかと言えば魔族寄りになっている気もするが魔笛を吹いていた姿がこの地域に伝承する悪魔の話に似ていたそうだ。

悪魔、すなわち魔族。

とにかく、人々に正しい情報が伝播するまではあんまり表に出ない方が良いということだ。

そういう意味でも王都へ向かうのは得策と言える。俺は誰にも見られていない事を確認し、森の中へと入っていく。


『コソコソと、滑稽だなイシュトよ』

(しゃーねえだろ、人間ていうのは自分達のテリトリーに侵入した異分子に敏感なんだよ)


俺は転移用の魔法陣を作成していく。今回は魔力を通すと消える特殊なインクで描いていく、町の近くだし怪しい魔法陣があったと騒がれるのも困るからだ。

魔法陣を使うと王都とここまでの移動日数に矛盾が生じ、おかしなことになるがそれは勇者の御者をしていたということで誤魔化せるのではないだろうか。俺が転移魔法陣を使えることは秘密だし、魔法陣自体も世に出ていいものじゃない。本来、使えるのは聖女の弟子をしているあの双子くらいなものだろう。

ゴブリンを一掃するのにベルちゃんの魔力は使い果たしてしまったが、俺自身の魔力は徐々に回復しているので使用することに問題はない。少しだけ、ほんの少しだけエルディアたちのことも気になるのでついでに様子も見ておきたい。何とかっていう砦に行ったらしいがすぐに帰って来るだろう。


(よし、じゃあ転移するぞ)

『うむ』


魔法陣に魔力を通す。光が魔法陣をなぞるように走り、イシュトは王都へと転移して行った。


「消えた…」

「やはり、魔族…」


それを物陰から見ていた複数の人影、手にはナイフが握られていた。



******


意識が覚醒する。転移は一瞬だが記憶に魔力が干渉するには未だ慣れない。双子にやられた時ほどではないにしろ、転移酔いみたいなものは多少起きる。

イシュトが転移してきたのはギルドに用意してもらっている自室だ。

ここならば誰にも見られないだろうし、一つ拠点があるだけで安心感が違う。ほっと息を吐いて首を回す。


『む、何やら外が騒がしいな』


転移してきた途端、外でたくさんの人が奇声を上げながら走り回っているようだ。お祭り騒ぎも良いが飽きないのだろうかと気後れする。人間にとって魔王討伐は後世に語り継がれるほどの偉業ではあるが、当人ではないわけだし、そこまでバカ騒ぎできるものかと疑問に思うのだ。この、記念式典から始まった国全体を挙げての祭りは1週間は続く予定ではあるがそれにしたって限度がある。

やれやれと思いつつ扉を開けると目の前をトカゲ人間が走り過ぎていった。


(なんだ仮装か…?)


逃げる人間を追い立てるトカゲ人間、いわゆるリザードマンに見える。手には三日月を思わせるような反り返った刀身の剣を持っている。


「ったく、楽しそうなことやってんな」


まあ、1週間もあれば内容にもそれなりのバリエーションが必要になってくるだろう。魔物に扮した鬼に追われる人間、ならば勇者役はどこだ?

ギルドへ向かう俺の背後に巨漢が立つ。醜悪なニオイをまき散らし、ブタ面のオークがグヒッと鼻を鳴らした。仮装のクオリティが高い。手に持つ斧は、たった今人を殺して来たかのように鮮血で濡れていた。


「って本物じゃん?!」


振り下ろされる斧に合わせて黒剣を抜き放つ。斧を弾いて、肥えた腹を斬りつけた。脂肪が厚い。致命傷にはならず、再度振るわれた斧を躱すと腕を刎ね、首を切り裂いた。

地に沈むオーク、黒剣で斬っても消失しないのは俺が魔力をセーブして剣として扱っているからだ。


「何で町の中に魔物が…」


そこで初めて周りの状況を確認した。

町のいたる所から聞こえてくる人間の悲鳴、逃げ惑う人々、破壊された町並み、立ち上る黒煙。

そして人間を襲う魔物の集団。


(こんなことあるのかよ、ここは王都だぞ?国で一番堅牢なはずの王都が襲撃されてんのか?!)

『落ち着くがよい。世の中まさかと思うことこそ起こるものなのだ。我も先日体験したばかりだ』

(冒険者は?騎士は何をやってるんだ?)


動揺している。ショックを受けている。

されるがまま、一方的に人間が殺されていく。戦える者が見当たらない。

殺されていく、男も女も、子供も老人も、戦う術を持たない人々が蹂躙されていく。


『ふむ、そこまで狼狽えるようなことではあるまい。貴様もゴブリンに同じことをしてきたではないか』

(っ?!それとこれとは話が別だろ)

『同じことであろう。そして勇者たちもまた多くの同胞たちを屠ってきた。その罪はいつか己に返ってくるものだ』

(つまりこれは、魔王を殺された魔物たちの報復だってことか)

『さてな、魔族はそこまで情に厚いわけではないはずだが。それより貴様はどうするのだ?魔法陣を使えば安全な場所へ転移できるであろう。この感じから言って、町の全域で同様の事が起きているぞ?』

(逃げるわけないだろ。確かにどうこうできる規模じゃなさそうだが、とにかくギルドへ行ってみる)

『そうか』


助けられるものなら助けたいが物理的に不可能だ。原因となっているモノをどうにかしなければ解決することはできない。それが何なのかは分からない、今は情報が少なすぎる。

道の向こうからリザードマンが駆けて来る。俺はそれを真正面から受けると手数で圧倒し、斬り伏せた。

とにかく冒険者ギルドだ、町に魔物が入っていればギルドに籠ってやり過ごすなんてことはしていなだろうから行っても他の冒険者はいないだろうが、どこへ行けばいいかも正直分からない。

イシュトは足早にギルドへと急いだ。


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