08
「宰相が更迭された事は伝えましたね」
応接室へ入り全員が座ると、コナーはレナルドに向かって言った。
「ああ」
「他に宰相の下にいた者が三名、職から外されました。宰相の後任にはアンペール侯爵が就く予定です」
「アンペール侯爵は中立派だったな。バルビエ侯爵側の者にしないのか」
「さすがにこれ以上バルビエ侯爵の権力は増やせませんよ。警戒している貴族は多くいますし、何より国王陛下が望みません」
最高権力を持つのは国王でなければならない。
更迭を含めた今回の人事も———多少外からの意向は入ったとしても、全て国王の意思で決めたものだ。
「バルビエ侯爵に対しても、今回の混乱の一因となった責任を取らせるそうです」
「責任?」
「アルセーヌ殿下とフランソワーズ・バルビエ嬢の婚約は一旦白紙になりました。…王太子の件についても、年齢や母親の立場に関係なく三人の王子の中から一番相応しい方を選ぶそうです」
「———そんな事をしたら権力争いが悪化するだけなのでは?」
「そこを上手くまとめ上げられる方が、次期王に相応しいと」
「つまり父上は自分がまとめ上げられなかったから、子供に丸投げするという事か」
呆れたようにレナルドは声を上げた。
自分もアルセーヌもまだ十歳、アルセーヌの同母弟のジュリアンは八歳だ。
権力争いに巻き込まれたとはいえ、兄弟三人の仲は悪くない。
それなのに子供世代に問題を持ち越すつもりなのか。
「父上はどうにも気が弱いところがあるからな…」
ため息をついたレナルドに、コナーは同意するように頷いた。
「なるほど、つまり殿下はこれから王位を巡って他の王子達と戦わなければならないと」
話を聞いていたクリストファーが口を開いた。
「ならばこんな田舎の伯爵令嬢に構っている暇はありませんね。陰ながら応援しておりますので頑張ってください」
「…イリスの事はまた別だ」
「大事な妹を王家の争いに巻き込む気はありません。どうぞ諦めて下さい」
「それは無理だ!」
「イリス」
睨み合うクリストファーとレナルドを横目に、フェリクスは娘に声をかけた。
「お前はレナルド殿下の事をどう思っている?」
はっとした顔でレナルドがイリスを見た。
「……いつも真面目で一生懸命で、立派な方だと思うわ」
レナルドとしばらくこの屋敷で一緒に過ごして感じた事を伝える。
イリスに付き合って一緒に勉強している時も、きちんと教師の話を聞き、分からなければ積極的に質問する。
それに先刻のクリストファーとの手合わせも、下心があるとはいえ最後まで格上の相手に諦めず食い下がる姿にイリスは感心していた。
「それじゃあ結婚相手としてはどうだい」
イリスの自分への評価の言葉に嬉しそうだったレナルドの顔が再び硬くなる。
「そうね…結婚するなら少なくともお兄様より強い方がいいわ」
少し首を傾げて考えて、イリスは父親を見上げるとにっこりと笑みを浮かべた。




