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王宮の訓練場の中央にはレナルドとクリストファー、そして審判役を務めるバーナードが立っていた。
観覧席にはイリスとフェリクス親子の他にアルセーヌとジュリアン、騎士団長、それに数人の騎士の姿がある。
「今日は殿下が勝てるかなあ」
のんびりとした口調でフェリクスが口を開いた。
「イリスはどっちが勝つと思う?」
「…レナルドに勝って欲しいけれど…お兄様が負けるのも想像つかないわ…」
「はは、そうだねえ」
二人の剣を確認したバーナードが離れた。
「はじめ!」
刃を潰した訓練用の剣同士がぶつかる鈍い音が響く。
素早い動きで畳み掛けるように二人は切り結んでいった。
「すごい…」
互いを知り尽くした同士の迷いのない動きに、初めてレナルドとクリストファーの手合わせを見たジュリアンが感嘆のため息をついた。
「この二人の手合わせを見るのもあと少しかと思うと残念だな」
騎士団長が独り言のように呟く。
「二人ともうちに入って欲しかったよ」
イリスは八年近く前、初めてレナルドがクリストファーに挑んだ時の事を思い出していた。
全くと言っていいほど歯が立たなかったのに、それでもいつか勝ってイリスと結婚するのだと宣言をし、その通りに対等に戦えるまでに成長したレナルド。
———彼はいつも一生懸命で、誠実で。
イリスが何者であっても変わる事なく想い続けてくれる。
家族とは違う、特別な———大好きな人。
レナルドが大きく剣を振りかぶった。
すかさずクリストファーが踏み込み、横薙ぎにしようとした所へ振り下ろす。
激しい音が響き、思わずイリスは瞳を閉ざした。
目を開けると、地面に一本の剣が落ちているのが見えた。
その近くに立つレナルドの右手には剣が握られている。
「あ…」
クリストファーが降参したというように両手を軽く上げた。
「…レナルドが勝った…?」
「イリス…!」
レナルドが駆け寄ってくると、そのままイリスを抱き上げた。
「きゃ…」
「やった…やっと勝てた!」
イリスを抱えたままぐるぐると回り出す。
「お、おめでとうっ」
振り落とされそうで思わずレナルドにしがみつくと、ぎゅっと抱きしめられる。
「これでイリスと結婚できる…!」
———例え勝てなかったとしても、自分達が結婚する事は既定事項だろうに。
それでも幼い頃の、自分で宣言した事をこうやって守り、実現する。
それがレナルドの長所であり、強さなのだろう。
「ええ…良かった」
イリスは首を回すと、レナルドの頬に祝福の口付けを落とした。
「イリスっ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるレナルドの背中を、苦しさへの抗議の意味を込めて叩くとようやく下に降ろされた。
「殿下」
降ろされたけれども代わりに手をぎゅっと握りしめられていると、クリストファーがやってきた。
「クリストファー。これで認めてくれるだろう?」
「…そうですね」
「よろしくな、義兄上」
ピクリとクリストファーの眉が動いた。
「あれだけ家族同然の付き合いをしてるのに、いざとなるとまだ抵抗があるんだ」
クリストファーの反応を見てフェリクスが笑った。
「兄弟仲良くね。それから、家族として、神に仕える者として、これからもイリスを守ってやってくれ」
「ああ」
「分かっています」
「頼んだよ、息子達」
フェリクスは仕事があるためシエル領には行かれない。
会えなくなる事はないが、その頻度ははるかに減るだろう。
———こうやって皆で過ごせる日もあとどれくらいか。
「イリスも二人と仲良くやるんだよ」
「ええ」
父親に頷くと、兄を見、最後にイリスはレナルドと視線を合わせた。
「レナルド…末永く、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
握りしめた手を引き寄せると、レナルドはイリスを抱きしめた。
「一生君の傍で、君を守るから」
「ええ」
「愛している、イリス」
「…私も。愛しているわ」
レナルドの背中へと手を回すと、イリスは虹色の瞳をそっと閉じた。
おわり
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
前から温めていたネタがありまして、その中のワンシーンが特に書きたくて始めたのですが、設定やら考えていくうちに結局そのシーンは出せず……いつかリベンジしたいです。
次ページに登場人物一覧を載せます。




