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虹の瞳を継ぐ娘  作者: 冬野月子
第5章 虹の架け橋

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「何?!」

背後で響いた爆発音にラナは身構えた。


「お兄様達が追いついたみたい」

背後を見る事なくイリスは答えた。

「気にせず真っ直ぐ走って。女神やお兄様達が守ってくれるから」

「はっ」


イリスは服の上から欠片のペンダントを握りしめた。


(それにしても…あれは変な感覚だったわ)

ユーピテルとは何度も言葉を交わしていたが、自身の口を通して女神の言葉を人に伝えたのは初めてだった。

意識はあるのに、自分の意思ではない言葉を話す。

身体の中に自分以外の誰かがいる気配。

———これから、何度もあの体験をするようになるのだろうか。


『なに、すぐに慣れる』

イリスの心が伝わったのか、女神の声が頭の中に響いた。


『しかしそなたは面白い。古の時代はともかく、普通の巫女はこのように我やユーピテルと会話をする事はままならぬものよ』

(…そうなのですか)

『ユーピテルもそなたを気に入ってるようだ。どうだ巫女よ、あれの子を成して我にくれぬか』


「お断りします!」

「巫女様?」

思わず叫ぶとラナが訝しげに声を掛けた。





「イリス!」

背後からよく知った声が聞こえた。


「レナルド…!」

「無事か?!」

追いついたレナルドは馬を寄せた。

「ええ…!」

「良かった」

ほっとした笑顔を見せると、すぐに鋭い視線で背後を振り返る。


「…追いかけてくるか」

魔法や剣で戦っているのであろう、光を放ちながら後から来る一団を見やると、レナルドは再び前を向いた。



前方の小高くなった上に虹の柱は立っていた。

空を貫くほどの高さの、その先は見上げても見えない。

と、まるで溶けるように虹の柱はふいにその姿を消した。


「消えた…?」

『もう目印は必要ないであろう』

耳慣れない女性の声にはっとして横を向くと、虹色に光る瞳のイリスがこちらを見ていた。

その視線がレナルドの背後へと移る。


『ユーピテルの力を宿すか』

知らない声と表情でイリスは言った。

『本当に面白い血だ、ますます欲しいの』

赤い瞳のクリストファーを見やると笑みを浮かべる。


「———女神」

ユーピテルを通じて意図が分かったのか、クリストファーは眉をひそめた。

「それは…」


「神殿に着きます!」

ラナが叫んだ。


『ご苦労であった』

神殿へと続く石段の下までくると、イリスは軽やかな身のこなしで飛び降りた。



『この先は未だ人間は入れぬ』


振り返ると馬上の三人を見上げる。

『兄は付いて参れ。後は暫くオーケアノスの連中の相手をしておれ』

そう言うと、イリスはレナルドを見た。


『王子よ。この巫女を望むなら巫女に相応しい男か我に示せ。恋敵の一人や二人倒してみよ』

ふっと笑みを浮かべると、イリスは身を翻して石段を上がっていった。

クリストファーも後を追おうとして立ち止まった。


「殿下、ユーピテルからの伝言です。『もしもやられても巫女は責任持って引き取るから案ずるな』と」

「は?」

「女神ジュノーはイリスにユーピテルの子を産んで欲しいようですよ」

「…はあ?!」

「では」

同じように身を翻してクリストファーは石段を駆け上がった。

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